『冬の墨色と、三代目の「志」』
『冬の墨色と、三代目の「志」』
### 1. 指揮官、特殊大口径兵装「だるま筆」を装備
「こたぅ、みて。……これ、おっきいでしょ? 三年生は、これで書くんだよ」
ハル君がリビングに長い下敷きを広げ、いつもよりずっと太い筆を取り出しました。課題は『友だち』。三年生のハル君にとって、これほど相応しい言葉はありません。
「局長、広域描画ミッションが発動されました。墨汁の飛散予測半径は2メートル。チビ殿、ハル君が精神統一(集中)している間、その長い下敷きの上で『爪研ぎ』をするのは国家反逆罪に相当します。即刻退去を!」
チビが、黒いフェルトの感触にうっとりしながらも、僕の鋭い警告を受けて、渋々部屋の隅へ移動しました。
### 2. アーサー先輩の「一筆入魂」指導
ハル君が筆にたっぷり墨を含ませると、アーサー先輩がその横にどっしりと座りました。
「ハル。筆の重さは、責任の重さだ。迷えば線が震え、急げば心が置いていかれる。一画目は、深く根を張るように置きなさい」
生垣の向こうでは、ルークが冬の寒空に向かって気合を入れています。
「コタロウ、聞け! 書とは踊りだ! ハル君、私のこのダイナミックな尻尾の振りをイメージしろ! 迷ったら『ワォォォォン!』のリズムで、一気に書き抜くのだ!」
### 3. 事件:消えない「肉球のサイン」
ハル君が全神経を集中させて『友』の一文字を書き終えようとした、その時です。
窓の外でソラが「ギィーッ!」と鋭く鳴きました。驚いた僕が少し身を乗り出した拍子に、前足が墨の入った硯に……は触れませんでしたが、ハル君が書き終えたばかりの紙の端っこに「ポンッ」と乗ってしまいました。
「あ……っ! こたぅのあしあとがついちゃった!」
ハル君が声を上げました。そこには、力強い『友だち』の文字の横に、僕の肉球の形が、まるではんこのように綺麗に残っていました。
### 4. 世界に一つの「連名作品」
ハル君は一瞬固まりましたが、その足跡を見て、ふにゃりと笑いました。
「……いいかも。だって、ぼくのいちばんの『友だち』は、こたぅだもん。これは、ぼくとこたぅのサインだね」
ハル君は、僕の足跡を避けるように、その横に小さく自分の名前を書きました。
(ハル。お前の書いた文字は、去年よりもずっと太くて、頼もしくなった。僕の足跡は、お前がいつまでも僕の相棒であることの、消えない契約書だ)
僕は、墨で少し黒くなった肉球を、ハル君が差し出してくれた濡れタオルで、丁寧に拭いてもらいました。
### 5. 陽だまりの警備保障、伝統継承任務・完了
「学校にだすのは、もう一枚ちゃんと書くけど、これはぼくの部屋に飾っておくね」
ハル君は、僕の足跡入りの作品を、大切に乾かし始めました。
陽だまりの警備保障、書き初め防衛任務・名誉終了。
ハル君の部屋に飾られたその紙には、三年生の冬を共に駆け抜ける、一人と一匹の固い絆が刻まれていました。
八巡目の冬、大詰め。
首輪の裏に隠した「三代目の種」が、ハル君の書く墨の匂いを聞きながら、春の目覚めを静かに夢見ていました。
---




