『粘土の僕と、四本脚のポーズ指導』
『粘土の僕と、四本脚のポーズ指導』
### 1. 指揮官、モデリング素材(油粘土)を展開
「こたぅ、きょうは動いちゃだめだよ。ぼく、世界でいちばんカッコいい『こたぅ』を作るんだから」
ハル君がリビングに新聞紙を広げ、大きな粘土の塊をドンと置きました。三年生になり、ヘラや針金を使った高度な造形技術を習得したハル君の目は、もはや芸術家のそれです。
「局長、立体造形ミッションが発動されました。被写体としての『静止維持』が求められます。チビ殿、ハル君の手元から丸まった粘土を盗んで『猫サッカー』を始めるのは重罪です。直ちに退避を!」
チビが、転がる粘土の破片を狙って腰を低くしていますが、僕の鋭い視線でなんとか踏みとどまっています。
### 2. アーサー先輩の「黄金比」講義
僕がモデルとして背筋を伸ばしていると、アーサー先輩が横から厳しくチェックを入れました。
「ハル。コタロウの魅力はその胸の厚みと、何より『真っ直ぐな眼差し』だ。土に命を吹き込むには、まず骨組み(心)をしっかり作らねばならんぞ」
生垣の向こうでは、ルークが自分のポーズをアピールしています。
「コタロウ、見ろ! 私のこの躍動感あふれる筋肉美を参考にするがいい! ハル君、粘土が足りなくなったら、私の誇り高い尻尾の分を私の庭から持ってきても構わんぞ!」
### 3. 事件:垂れ下がった「粘土のしっぽ」
「……あ、しっぽが落ちちゃう。こたぅのしっぽは、もっと元気なのに」
ハル君が苦戦しています。粘土の重みで、僕の自慢のふさふさの尻尾が、どうしても「ダラン」と垂れ下がってしまうのです。ハル君は泣きそうな顔で、何度も形を整えます。
「ギィーッ! 構造的欠陥を補強せよ! 指揮官、芯材の投入を提案します!」
ソラが窓の外から、ハル君の工作セットの中にある割り箸を嘴で指し示しました。
ハル君はハッとして、割り箸を芯にして粘土を固めました。すると、僕の尻尾はピンと上を向き、今にも振れそうなほど生き生きとした形になりました。
### 4. 完成した「もうひとりの僕」
数時間後、そこには少し不恰好だけど、僕の「大好き」という気持ちが凝縮されたような、小さな粘土の犬が座っていました。
ハル君は、ヘラを使って僕の首元の毛並みを一本一本刻み、最後にビーズで黒い瞳をはめ込みました。
「……できた。こたぅ、似てる?」
(ハル、そっくりだ。特にその、少し右に傾いた首の角度。僕がお前の話を聞く時の癖を、よく見ていてくれたんだな)
僕は、粘土の僕とハル君を交互に見つめ、優しく「ワンッ」と鳴きました。
### 5. 陽だまりの警備保障、芸術支援任務・完了
「学校に持っていくの、もったいないなぁ。ずっとここに置いておきたいよ」
ハル君はそう言いながらも、大切に箱にしまいました。
陽だまりの警備保障、造形防衛任務・名誉終了。
ハル君の作った粘土の僕は、乾燥して固まっても、その中にはハル君の温かな手のひらの記憶がずっと残り続けることでしょう。
八巡目の晩秋。
庭では、三代目のひまわりの跡地に、冬を越すための新しい準備が始まっていました。
僕とハル君は、今度は「書き初め」という新しい墨の匂いのする任務を見据えて、こたつの中で丸くなるのでした。
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