『二の段の散歩道と、九の段の誓い』
『二の段の散歩道と、九の段の誓い』
### 1. 司令官、呪文に挑む
「にいちがに、ににんがし……。……はちのし、はち……えっと……」
ハル君が庭の縁側に座り、九九カードをめくりながら頭を抱えています。数字が複雑に絡み合う「八の段」と「九の段」は、二年生の前に立ちはだかる巨大な絶壁のようでした。
「局長、指揮官の脳内メモリがオーバーフロー気味です。ここは歩行による『リズム学習』を提案します。一歩ごとに一式、九九を唱えるのです!」
チビが、ハル君の足元で「イチ、ニ、イチ、ニ」と尻尾で拍子を取り始めました。
### 2. ルークの「遠吠え」暗記法
生垣の向こうでは、ルークが耳をそばだてていました。
「コタロウ、聞け! 九九とは、この世の理を解き明かす魔法の合言葉だ! ハル君、迷ったら私の『ワォォォォン!』のリズムに乗せて叫ぶのだ。……さあ、『くくいちがく!』」
アーサー先輩は、庭の真ん中でどっしりと座り、ハル君が間違えるたびに「フンス」と鼻を鳴らして修正を促します。
「ハル。焦るな。数字は敵ではない。お前を助けてくれる、頼もしい兵隊なのだよ」
### 3. 事件:詰まった「九の段」
「くはち、ななじゅうに。くく……。……くく……?」
ついに最後の「九九」に差し掛かった時、ハル君の声が震えました。学校での検定は明日。もしここで間違えたら……という不安が、ハル君の言葉を飲み込んでしまいます。
「ギィーッ! 指揮官の出力低下! 燃料……ではなく、自信を注入せよ!」
ソラが空から鋭く合図しました。
僕は、ハル君の正面に回り込み、彼の両手に自分の前足をそっと乗せました。
(ハル、僕の目を見て。僕の肉球の数は四つ。お前の指は十本。数字はいつも、お前のすぐそばにあるんだ。落ち着いて、あともう一つだけだ)
### 4. 黄金の「八十一」
ハル君は僕の目を見つめ、深く息を吸い込みました。
「……くく、はちじゅういち!」
「正解だ、ハル!」
ルークが吠え、チビが跳ね、ソラが舞いました。庭全体が、ハル君の小さな、でも確実な勝利を祝福するスタジアムになったようでした。
ハル君は僕の首に抱きつき、耳元で小さく笑いました。
「こたぅ、……ぼく、あした、ぜったい合格してくるね。……三年生になって、もっとおっきい計算も、こたぅに教えてあげるから」
### 5. 陽だまりの警備保障、九九検定・名誉合格
翌日、帰ってきたハル君の手には、先生からもらった「九九マスター」の金ピカのシールが貼られたプリントが握られていました。
「こたぅ! ぼく、一回も間違えなかったよ! ぜんぶ、言えたよ!」
陽だまりの警備保障、教育支援任務・完遂。
ハル君の背負う黒いランドセルは、もう「一年生の時の自分」を支えるためのものではなく、三年生として「新しい世界」へ飛び込むための翼に見えました。
八巡目の春が、すぐそこまで来ています。
庭の隅では、あのひまわりの種たちが、合格のお祝いを言いたげに土を盛り上げ始めていました。
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