『二年生のリレーと、庭の「肉球」特訓』
『二年生のリレーと、庭の「肉球」特訓』
### 1. 司令官、コーナーワークに苦戦
「こたぅ、……ぼく、もっと速くなりたいの。……お友だち、みんな速いんだもん」
学校から帰ったハル君は、ランドセルを置くが早いか、庭に白線を引くための「小石」を集め始めました。直線は得意なハル君ですが、どうやらカーブでスピードが落ちてしまうのが悩みのようです。
「局長、指揮官の最高速度は向上していますが、旋回時の遠心力制御に課題ありです。私が見本を見せましょう!」
チビが、庭の植木鉢の周りを「キュッ!」と鋭いターンで駆け抜け、お手本を見せました。
### 2. ルークの「伴走型」エスコート
生垣の向こうでは、ルークがフェンス越しに並走の構えをとっていました。
「コタロウ、聞け! 走るとは、風になることだ! ハル君、私のこの白い残像を追いかけてみたまえ。……さあ、位置について、よーい……どん!」
ハル君が走り出すと、フェンスの向こうでルークも大きな体を揺らして並走します。
「ワン! ワン!(もっと腕を振れ! 目線は前だ!)」
アーサー先輩は、スタート地点の石段に腰を下ろし、タイムキーパーのように厳かに座っています。
「ハル。焦りは足をもつれさせる。自分の鼓動と、コタロウの足音を合わせるのだ」
### 3. 事件:コーナーで滑った「勇気」
特訓中、ハル君が濡れた落ち葉を踏んでしまい、カーブでバランスを崩して転んでしまいました。膝を少し擦りむいて、ハル君の瞳に涙が溜まります。
「……いたい。……ぼく、やっぱり無理かな」
「ギィーッ! 負傷兵確認! 衛生班、ただちにメンタルケアを! 局長、出番です!」
ソラが柿の木の上から、心配そうに翼を広げて鳴きました。
僕は、ハル君の膝の傷をそっと舐め、それから彼の顔を覗き込みました。
(ハル、転ぶのは一生懸命走っている証拠だ。僕だって、昔ボールを追いかけて生垣に突っ込んだことがある。ほら、もう一度、僕と一緒に走ろう)
僕はハル君のズボンの裾を軽くくわえて、立ち上がるのを促しました。
### 4. 魔法の「バトンパス」
ハル君は涙を拭いて、僕の首元をぎゅっと抱きしめました。
「……うん。こたぅがいれば、ぼく、ころんでも大丈夫。……つぎは、もっとかっこよく曲がるよ!」
ハル君は、去年ユウ君にあげた「松ぼっくり」の代わりに、今度は僕が昨日見つけてきた「一番きれいな落ち葉」をバトンに見立てて手に持ちました。
「これが、こたぅからのパワーだね!」
夕暮れまで、ハル君と僕の影は、黄金色の庭を何度も何度も駆け抜けました。
### 5. 陽だまりの警備保障、運動会派遣任務・当日
運動会当日。ハル君はリレーのアンカーとして、バトンを受け取りました。
観客席の隅でサチコさんのバッグから顔を出していたチビも、お留守番の僕たちも、心は一つです。
ハル君は、練習した通りのフォームでコーナーを駆け抜けました。彼の耳には、きっと僕の「ワン!」という応援の声が届いていたはずです。
「こたぅ! ぼく、ぬかされなかったよ! いちばんだったよ!」
帰ってきたハル君の首には、手作りの「金メダル」が輝いていました。
七巡目の秋。
ハル君の足跡は、去年よりもずっと深く、そして力強く、この庭と学校の地面に刻まれていくのでした。
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