『庭のアンサンブルと、風のピアニカ』
『庭のアンサンブルと、風のピアニカ』
### 1. 司令官、音色に苦戦する
「ぷーーーっ……。……ひっ、ぷっ」
リビングの窓辺で、ハル君が顔を真っ赤にして鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)を吹いています。
音階が繋がらず、時々「ひゃっ」という変な音が出てしまい、ハル君は恥ずかしそうに頬を膨らませました。
「局長、指揮官の肺活量は十分ですが、指先の『運指』プログラムに若干のラグが発生しています。私がリズムを取りましょうか?」
チビが、メトロノームのように尻尾を「パタン、パタン」と床に打ち付けてサポートを開始しました。
### 2. ルークの「ソプラノ」乱入
生垣の向こうでは、ルークがハル君の吹く音に合わせて、空を仰いでいました。
「コタロウ、聞け。音楽とは魂の叫びだ! ハル君、私のこの完璧なピッチに合わせてみたまえ。……ワォォォォーーン!」
ルークの遠吠えとハル君のピアニカが重なり、庭はまるでシュールな音楽祭の会場のようです。
アーサー先輩は、耳をピクピクさせながらも動じません。
「ハル。音は間違えてもいい。お前の心が鳴っていれば、それは立派な曲になるのだよ」
### 3. 事件:止まったメロディ
「きらきら星」のサビに差し掛かった時、ハル君の指が止まりました。
「……わすれちゃった。……こわい音、出ちゃうもん」
失敗を恐れて、ハル君はホース(吹き口)を口から離してしまいました。
「ギィーッ! 演奏中断! メンタル・メンテナンスが必要だ! 局長、出番です!」
ソラが電線の上から鋭く合図を送りました。
僕は、ハル君の膝の上に顎を乗せ、ジッと彼の目を見つめました。そして、わざと大きなあくびをして「ふあぁ〜」と声を漏らしました。
(ハル、僕のあくびよりは、お前のピアニカの方がずっといい音だぞ。一音ずつでいい、僕の心臓の音に合わせてごらん)
### 4. 陽だまりのセッション
僕の胸に手を当てて、ハル君はトク、トク、という僕の鼓動を感じ取ったようでした。
「……こたぅ、リズム、おなじだね」
ハル君は再びホースをくわえ、今度はゆっくりと鍵盤を押しました。
「ドー、ドー、ソー、ソー……」
今度は音が震えていません。ルークも声を潜め、チビも尻尾を止め、庭の木々さえも風を止めて、ハル君の奏でる「小さな宇宙」に耳を澄ませました。
### 5. 陽だまりの警護保障、音楽祭予行演習・完了
数日後の発表会。サチコさんが撮ってきたビデオの中で、ハル君は堂々とステージの中央で鍵盤を叩いていました。
隣の席の友達と目が合って、少しだけ笑う余裕さえ見せて。
帰宅したハル君は、真っ先に僕のところへ来て、ピアニカのケースを開けました。
「こたぅ、……にじゅうまる、もらったよ。……いっしょに、れんしゅうしたからだね」
陽だまりの警備保障、音楽発表会完遂任務・名誉終了。
ハル君が「きらきら星」をもう一度、今度は僕の耳元で小さく吹いてくれました。
六巡目の秋が終わろうとしています。
冬の足音が聞こえてくるけれど、ハル君の奏でるメロディがあれば、この家はいつだって温かな春の中にいるようなのでした。
---




