『庭の「二の段」特訓と、アーサー先輩の審判』
『庭の「二の段」特訓と、アーサー先輩の審判』
### 1. 司令官、呪文を唱える
「……に、いちが、に。……に、にんが、……さん?」
庭のベンチで、ハル君が眉間にシワを寄せてノートを睨んでいます。算数の宿題、九九の暗唱です。
「局長、指揮官の演算回路にエラーが発生しました。数値『4』が消失し、代わりに『3』が代入されています。早急な軌道修正が必要です」
チビが、ハル君が机代わりにしている切り株の上で、ペンをチョイチョイと転がして警告します。
### 2. アーサー先輩の「不動のリスニング」
今回の特訓のメインインストラクターは、アーサー先輩です。彼はハル君の正面にどっしりと座り、まるで全てを見通す賢者のように、ハル君の言葉を一つ一つ聞き入れています。
「ハル。焦ることはない。数字は逃げない。お前がリズムに乗れば、答えは自ずと尻尾を振ってやってくるものだ」
アーサー先輩が静かに鼻を鳴らすと、ハル君は深く息を吸い込みました。
生垣の向こうでは、ルークが耳をピーンと立てて加勢します。
「コタロウ、聞け。サモエド流九九では『2×4』は『おやつのビスケット4枚が2回』と覚える。これならハル君も忘れないはずだ!」
### 3. 事件:八番目の迷子
「……に、しち、じゅうし。……に、はち、……えーっと、……に、はち……」
ここでハル君が止まってしまいました。「16」という数字が、どうしても喉の奥で渋滞しているようです。
「ギィーッ! 通信途絶! 補給機、直ちに『ヒント』を投下せよ!」
屋根の上のソラが、羽をバサバサと鳴らしてハル君を励まします。
僕は、ハル君の足元に転がっていた「松ぼっくり」を2つ、彼の膝の上にそっと乗せました。そしてそれを4回繰り返すように、鼻先で松ぼっくりを転がしました。
(ハル、2個ずつ、4回。足してごらん。……あ、違うか。2個ずつ、8回だ。僕の肉球、左右で4つずつ、合わせて8つだろ?)
### 4. 陽だまりのコーラス
「……あ! じゅうろく! ……に、はち、じゅうろく!」
ハル君の顔がパアッと明るくなりました。
「……に、く、じゅうはち! できたぁ! こたぅ、できたよ!」
ハル君が僕の首元を抱きしめると、アーサー先輩も満足そうに一度だけ力強く「ワン!」と吠えました。まるで「合格」のハンコを押したような、深い声でした。
### 5. 陽だまりの警備保障、九九攻略任務・継続
夕暮れ時、サチコさんがおやつを持ってきてくれました。
「あら、ハルくん、もう九九を覚えてるの? すごいわね」
ハル君は、得意げに僕とアーサー先輩を指差しました。
「……こたぅが、おしえてくれたんだよ。……あーさーも、きいててくれたの」
陽だまりの警備保障、数学防衛任務・第一段階突破。
庭では、ひまわりの大きな顔が、収穫の時を待つように重たく揺れています。ハル君がこの種を全部収穫する頃には、きっと三の段も、四の段も、僕たちの鳴き声のリズムに乗ってスラスラと言えるようになっているはずです。
六巡目の秋。
ハル君のノートに書かれる数字は、この庭で育った「勇気」の数と同じくらい、着実に増えていくのでした。
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