『サクラの門と、僕たちの「いってきます」』
『サクラの門と、僕たちの「いってきます」』
### 1. 緊張のモーニング・ブリーフィング
「こたぅ、……お、……おはよう」
ハル君の声が、いつもより少しだけ震えていました。
真っ白なシャツに、ピカピカの紺のズボン。そして背中には、あの松ぼっくりのチャームが揺れる黒いランドセル。
今日は小学校の入学式。ハル君にとって、人生で初めて「僕やサチコさんのいない世界」へ一歩踏み出す日です。
「局長、ハル君のネクタイが3度ほど右に傾いています。私が毛繕いで修正しましょうか?」
チビが心配そうにハル君の足元を回り、エールを送っています。
### 2. ルークの「国境線」の激励
生垣の向こうでは、ルークが最高の「サモエド・スマイル」を浮かべて待機していました。
「コタロウ、ついにこの日が来たな。ハル君がこの門を出る時、彼は一つの『庭』を卒業し、広い『社会』というフィールドの守護者になる。……行け、ハル君! 君の背後には常に我々がついている!」
アーサー先輩も、ゆっくりと立ち上がり、ハル君と視線を合わせました。
「ハル。怖くなったら、ポケットの松ぼっくりを触るんだ。あの中には、この庭の太陽が全部詰まっている」
### 3. 事件:門の前での「小さな沈黙」
サチコさんに手を引かれ、門を出ようとしたハル君が、ふと立ち止まりました。
振り返った彼の瞳には、不安という名の小さな影が差していました。
(ハル、大丈夫だ。前を見ろ)
僕はリードをピンと張り、ハル君の膝を鼻先でそっと押しました。そして、わざと力強く「ワン!」と一回だけ吠えました。
「警備局長、異常なし! 指揮官、前進せよ!」……そう伝えたつもりでした。
ハル君は一瞬驚いた顔をしましたが、すぐに僕の新しい首輪に刻まれた「はる・こたろう」の文字を指でなぞりました。
「……うん。こたぅ、……いってくるね!」
### 4. 繋がれた「見えないリード」
ハル君が、一歩、また一歩と、桜の花びらが舞う道を歩き出しました。
何度も何度も振り返りながら手を振るハル君。僕は彼が見えなくなるまで、門の前で背筋を伸ばし、最高敬礼の姿勢(お座り)を続けました。
「ギィーッ! ランドセル、視界から消失。第一段階、進出成功。……局長、あいつ、立派に歩いていきましたね」
ソラが屋根の上から、少し寂しげに、でも誇らしげに報告しました。
### 5. 陽だまりの「帰還待ち」任務
ハル君がいない庭は、なんだか少しだけ広くなったように感じました。
僕は、ハル君が埋めた「タイムカプセルの松ぼっくり」の上に寝転び、太陽の温もりを感じながら待つことにしました。
数時間後。
遠くから、聞き慣れた、でも朝よりもずっと弾んだ足音が聞こえてきました。
「こたぅ! ただいま! ……おともだち、……ひとり、できたよ!」
門を開けて飛び込んできたハル君の顔は、満開の桜よりも明るく輝いていました。
陽だまりの警備保障、入学式護衛任務・名誉完遂。
六巡目の春。
ハル君が持ち帰った「新しい世界」の話を聴きながら、僕は思いました。
たとえ彼がどんなに遠くまで行くようになっても、この庭は、そして僕は、いつだって世界で一番温かい「帰還場所」であり続けようと。
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