『年長さんの背中と、受け継がれた「一番の席」』
『年長さんの背中と、受け継がれた「一番の席」』
### 1. 黄金の名札と、新しい司令官
「こたぅ、みて……! ぼく、こんどは『きんいろ』だよ!」
ハル君が差し出した新しい名札は、春の光を反射してキラキラと輝いていました。
幼稚園の「年長さん」。それは園で一番大きなお兄ちゃん、お姉ちゃんになるということ。
ハル君は今日、いつもの黄色い帽子ではなく、少し大人びた色の帽子を被り、鏡の前でビシッと敬礼しました。
「局長、ハル君の背筋が3センチは伸びたように見えます。これは警備体制の大幅なアップデートが必要ですね」
チビが、ハル君の新しい靴の上を陣取りながら、頼もしそうに目を細めました。
### 2. ルークの「リーダーシップ」特別講習
生垣の向こうでは、ルークがかつてないほど厳粛な面持ちで座っていました。
「コタロウ、年長さんとは『模範』である。これからのハル君は、ただ守られるだけではなく、小さな子に道を示す存在になるのだ。……我々も、彼の『随伴警護』の精度を上げねばならん」
アーサー先輩も、ゆっくりと立ち上がり、ハル君の前に座りました。
「ハルよ。リーダーとは、一番前を走ることではない。一番後ろで、みんながついてきているかを見守る者のことだ。……お前なら、それができるはずだ」
### 3. 事件:公園の「小さな泣き声」
年中さんの頃のハル君なら、誰かが泣いていたらサチコさんの後ろに隠れていたかもしれません。
けれど、年長さんの初登園の日。公園の砂場で、新しく入園したばかりの小さな男の子が「ママ……」と泣いているのを見つけた時、ハル君は迷わず歩み寄りました。
僕はハル君の足元にぴたりと寄り添い、歩幅を合わせます。
「……だいじょうぶだよ。ぼく、ねんちょうさん。……いっしょに、あそぼ?」
ハル君は、自分のポケットに入っていた、あの「五つ目の松ぼっくり」を差し出しました。それは、一番綺麗で、一番大切にしていた「勇気の種」でした。
### 4. 継承される「陽だまり」の魂
男の子は泣き止み、ハル君が差し出した松ぼっくりを小さな手で握りしめました。
その光景を遠くから見ていたサチコさんは、声を出さずに、ただ優しく微笑んでいました。
(ハル……お前、いつの間にそんなに優しくなったんだ)
僕は、ハル君の誇らしげな横顔を、少しだけ見上げるようになりました。かつて僕が彼を守っていたように、今、彼は自分の「ナワバリ」を広げ、新しい誰かに「陽だまり」を分けてあげているのです。
### 5. 陽だまりの警備保障、六度目の春へ
夕暮れ時、ハル君は庭の「あの場所」に立ちました。
ひまわりの芽が、力強く土を持ち上げているその場所です。
「こたぅ、……ぼく、がんばるね。……みんな、まもるよ」
ハル君は僕の首筋をぎゅっと抱きしめました。僕の赤いセーター(ハル君が編んでくれたもの)が、二人の体温を一つに溶け合わせます。
陽だまりの警備保障、年長さん進級式・完了。
ソラが上空で高らかに鳴き、アーサー先輩が深く鼻を鳴らしました。
六度目の春。
桜の蕾が今にも弾けそうなこの庭で、僕たちの物語は、守られる日々から「共に歩む日々」へと、一番美しいページをめくろうとしていました。
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