『編みかけの愛情と、毛糸だまの追跡劇』
『編みかけの愛情と、毛糸だまの追跡劇』
### 1. 司令官の「お針子」修行
「こたぅ、……動かないで! ……いま、サイズはかってるの」
ハル君が、メジャー(のような紐)を持って僕の胴回りを一生懸命に測っています。
どうやら、サチコさんと一緒に「コタロウのセーター」を編むことにしたようです。年中さんになったハル君は、少しだけ針を使うお手伝いもさせてもらえるようになりました。
「局長、その赤い毛糸、なんだか美味しそうな匂いがします。……あ、いえ、警備対象としての興味ですよ」
チビが、転がる毛糸だまを今にも仕留めそうな目で見つめています。
### 2. ルークの「サモエド・マフラー」理論
生垣の向こうでは、ルークが極寒の風に吹かれながらも、誇らしげに胸を張っていました。
「コタロウ、私を見たまえ。天然の防寒着があれば、セーターなど不要だ。……だが、ハル君の手作りとあれば話は別だ。私も、尻尾だけでも編んでほしいものだな」
アーサー先輩も、リビングの暖かい特等席から、ハル君の慣れない手つきを穏やかな目で見守っています。
### 3. 事件:逃亡した「赤い犯人」
サチコさんが少し席を外した隙に、事件は起きました。
ハル君が編みかけていたセーターの端から、毛糸だまがコロコロと転がり、開いたドアから庭へと飛び出してしまったのです。
「あ……! まって! あかいの、にげた!」
(ハルの大切なプレゼントが!)
僕は反射的に庭へ飛び出しました。雪混じりの風の中、赤い毛糸は風に吹かれ、まるで生き物のように庭を這い回ります。
「ギィーッ! 目標、ひまわりの枯れ茎に引っかかった! 第1班、直ちに回収せよ!」
ソラの的確な誘導により、僕は毛糸の先を優しく口でくわえました。
### 4. 継承される「温もりの記憶」
僕が毛糸をくわえてリビングに戻ると、ハル君が半べそをかきながら待っていました。
「こたぅ、……ありがとう。……これ、だいじなの」
ハル君はサチコさんに手伝ってもらいながら、再び一目、一目、丁寧に編み始めました。
「おじいちゃんが、こたぅに『あったかい』をあげるんだよ」
かつて、サチコさんが僕を家族に迎えた冬、僕に初めて毛布をかけてくれた時のあの感覚。ハル君が編んでいるのは、ただのセーターではなく、この家で代々受け継がれてきた「誰かを想う温度」そのものでした。
### 5. 陽だまりの「赤い騎士」
数日後、ついに完成したセーターが僕の体に纏わされました。
少し形はいびつで、袖がちょっと長いけれど、袖を通した瞬間にハル君の小さな手の温もりが体中に広がりました。
「こたぅ、……にあう! ……かっこいい!」
ハル君は僕の首元に、あの「松ぼっくりの勲章」を付け直してくれました。
陽だまりの警備保障、冬の防寒対策・完了。
僕は赤いセーターをなびかせて、意気揚々と庭のパトロールに出かけました。
五度目の冬。
空からは白い雪が舞い落ちてきますが、赤いセーターを着た僕の心は、春の日差しを浴びているかのように、ぽかぽかと温かいのでした。
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