『ワンワン翻訳機と、心の周波数』
『ワンワン翻訳機と、心の周波数』
### 1. 開発者・ハル主任のひらめき
「こたぅ、なに、お話ししてるの? ……ぼく、わかるようにする!」
ハル君が持ってきたのは、空き箱と、色とりどりの糸、そして紙コップで作られた不思議な装置。
どうやら幼稚園で習った「糸電話」を応用して、僕の心の声を聴くための「翻訳機」を自作したようです。ハル君は、紙コップを僕の耳にそっと当て、もう一方を自分の耳に当てて、全神経を集中させました。
### 2. チビの「割り込み」通信
「局長、そのデバイス、僕のゴロゴロ音にも対応していますか?」
チビが横から糸をチョイチョイとつつきます。
「ハルくん、僕の今のメッセージは『お腹が空いたから、サチコさんに内緒で煮干しをくれ』だよ。翻訳できるかな?」
生垣の向こうでは、ルークが羨望の眼差しを送っていました。
「コタロウ、その技術が確立されれば、私の『サモエド・スマイル』に秘められた100通りの意味も、ようやく正しく理解してもらえる日が来るのだな……!」
### 3. 事件:翻訳機が捉えた「本当の声」
ハル君が糸電話を握りしめて、僕をじっと見つめていました。
僕は、わざと「ワン!」とは鳴きませんでした。代わりに、ハル君の目を見つめながら、静かに尻尾を左右に大きく、ゆっくりと振りました。
すると、ハル君が「あ……!」と声を上げ、紙コップを耳から離しました。
「こたぅ、……いま、……『だいすき』って、いった?」
僕は驚いて、ハル君の頬を優しくペロリと舐めました。
機械の糸は震えていなかったけれど、ハル君の心には、僕の尻尾の振幅が、どんな言葉よりも正確な「言語」として届いたようです。
### 4. アーサー先輩の「非言語」講義
その様子を後ろで見ていたアーサー先輩が、静かに鼻を鳴らしました。
「ハル君、翻訳機はもう必要ないようだね。心を通わせるのに、複雑な配線は要らぬ。お前がコタロウの目を、コタロウがお前の背中を見ている時、言葉はすでに空を飛んでいるのだ」
「ギィーッ! 信号受信! 絆の強度は本日最高値を記録!」
ソラが上空から、二人の「無言の対話」を祝福するように羽ばたきました。
### 5. 陽だまりの「秘密のチャンネル」
夕暮れ時、サチコさんがおやつを持ってやってきました。
「あら、ハルくん、素敵な機械を作ったのね。コタロウ、なんて言ってた?」
ハル君は、誇らしげに胸を張って答えました。
「……ないしょ。……ぼくと、こたぅだけの、おはなし!」
ハル君は「翻訳機」の紙コップを大切に自分のリュックにしまいました。それはもう、音を運ぶ道具ではなく、僕との秘密を共有した「宝物」になったのです。
陽だまりの警備保障、言語開発プロジェクト・完了。
僕は、言葉を介さないからこそ伝わる「温もり」を、ハル君が正しく受け取ってくれたことが、何よりも嬉しくて、今夜はいつもより少しだけ長く、彼の枕元で番をすることに決めました。
五度目の夏休みが、もうすぐそこまで来ています。
次は何を話そうか、ハル。僕は、言葉を使わずに、君に全部伝えてみせるよ。
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