『年中さんの誇りと、初めての「お散歩バッグ」』
『年中さんの誇りと、初めての「お散歩バッグ」』
### 1. 司令官、装備を刷新する
「こたぅ、みて! ぼく、おにいちゃんに、なったんだよ!」
ハル君が新しい名札を指差して、僕の鼻先に突き出しました。
今日から年中さん。ハル君は自分専用の「お散歩バッグ」を準備し始めました。
これまではサチコさんが持っていた、エチケット袋や水飲みボウル、そして僕へのご褒美。それを、ハル君は一つずつ丁寧に自分のリュックに詰め込んでいきます。
「先輩、ハルくんの手つき……なんだか職人みたいになってきましたね」
チビが、ハル君が一生懸命にファスナーを閉める様子を、尊敬の眼差しで見守っています。
### 2. ルークの「年中さん」お祝い演習
生垣の向こうでは、ルークが耳をピーンと立てて、祝賀の舞を披露していました。
「コタロウ、聞け。年中さんとは、組織において『中核』を担う存在だ。ハル君がその域に達したということは、我々の警備ネットワークも、より高度な連携が求められるということだよ」
ルークは、自分の庭から「おめでとう!」の代わりにかっこいいフリスビーを投げ込み(たまたま飛んできただけですが)、ハル君を喜ばせました。
アーサー先輩も、新しい季節の匂いを嗅ぎながら、ハル君の足元を静かに歩きます。
### 3. 事件:桜の木の下の「迷い犬」
ある日の散歩中、近所の公園で少し困った事件が起きました。
一匹の小さなテリアが、飼い主さんの手を離れて、パニックになって走り回っていたのです。
サチコさんが「あら、大変!」と声を上げたとき、ハル君が僕のリードをぎゅっと短く持ち直しました。
「……こたぅ、待て。……おにいちゃん、たすける!」
ハル君は、僕をその場にピタッとお座りさせました。そして、自分のリュックから「予備の松ぼっくり(お守り)」を取り出し、震えているテリアに向けてそっと差し出しました。
「……だいじょうぶだよ。……こわくないよ」
### 4. 勇気の橋渡し
ハル君の優しい声と、僕が放つ「警備局長としての落ち着き」が伝わったのか、テリアは静かになり、無事に飼い主さんの元へ戻ることができました。
「ありがとう、坊や。立派なワンちゃんの飼い主さんね」
褒められたハル君は、照れくさそうに、でも誇らしげに僕の首元を撫でました。
(ハル、お前はもう、立派な僕の『相棒』だ。……いや、僕が君の『部下』でもいいかもしれないな)
「ギィーッ! 現場対応、100点満点! 指揮官の風格が出てきたぞ!」
空ではソラが、五度目の春の風に乗って高らかに歌っていました。
### 5. 陽だまりの「進級祝い」
夕暮れ時、庭にはサチコさんが用意した特別なご馳走が並びました。
ハル君は自分の席に座る前に、僕の器に新鮮な水をたっぷり注ぎ、チビにはおやつを一粒差し出しました。
「こたぅ、……明日も、パトロール、いく?」
僕はハル君の手に自分の右手をそっと乗せました。
(もちろんだよ、ハル。お前がどこへ行こうと、僕はこのリードの先で、ずっとお前を支え続けるからな)
陽だまりの警備保障、年中さん進級任務・大成功。
庭では、雪の下で眠っていたあの「松ぼっくり」の場所から、新しい命の音が聞こえてくるようでした。
五度目の春。
桜の花びらが、ハル君の新しい帽子の色に染まっていくのを、僕はいつまでも、いつまでも眺めていました。
---




