『秋の運動会と、背中を叩く小さな手』
『秋の運動会と、背中を叩く小さな手』
### 1. 司令官の「特訓」開始
「こたぅ、……はしるよ! ……よーい、どん!」
ハル君が、幼稚園の運動会に向けて「かけっこ」の練習を始めました。
どうやらリレーの選手に選ばれたらしく、ハル君はやる気満々です。
僕は、並走者として指名されました。ハル君の歩幅に合わせて、でも彼が全力で追いかけたくなるような「絶妙な距離感」を保って走るのが僕の新しい任務です。
「局長、ハル君の足腰、去年の倍以上の出力が出ていますね。これは期待できます」
チビが門柱の上から、ストップウォッチを持った監督のような顔で見ています。
### 2. ルークの「加速装置」理論
生垣の向こうでは、ルークが冷静にフォームチェックを行っていました。
「コタロウ、ハル君はコーナーリングで少し外側に膨らむ癖がある。……私がフェンス沿いに立って、視覚的な『ガイドライン』になろう」
ルークが白い体をフェンスに寄せ、ハル君が曲がるべきポイントで「ワン!」と短く合図を送ります。
アーサー先輩も、庭の真ん中でどっしりと座り、ハル君が転んだ時にすぐに受け止められる「ゴールテープ兼クッション」の役割を買って出ました。
### 3. 事件:消えた「やる気のスイッチ」
練習を始めて三日目、ハル君が急に庭の真ん中で座り込んでしまいました。
「……むり。……かけっこ、むり」
どうやら幼稚園で、自分より足の速いお友達を見て、少し自信をなくしてしまったようです。
ハル君の小さな肩が、寂しそうに丸まっています。
「ギィーッ! 司令官の士気が低下! 警備保障、総員でメンタルケアを開始せよ!」
ソラが上空から緊急事態を知らせました。
### 4. 継承される「柴犬のガッツ」
僕は、ハル君の前に座り、彼の膝にそっと顎を乗せました。
(ハル、忘れたのか? お前はあの嵐の夜も、トラちゃんを助けた時も、誰よりも強かったじゃないか)
僕は立ち上がり、ハル君の目の前で自分の尻尾を「ブンッ!」と力強く振りました。そして、庭の隅にある「あの場所」——松ぼっくりを埋め、ひまわりの種を植えた場所へ彼を誘いました。
ひまわりの大きな花の下で、ハル君は自分が植えた種が、立派な花を咲かせているのを見つめました。
「……ひまわり、……がんばった?」
(そうだよ、ハル。お前が植えたから、こんなに大きくなったんだぞ)
アーサー先輩が静かにハル君の背中を鼻で押し、ルークがフェンス越しに「ウゥーッ」と力強いエールを送りました。
### 5. 陽だまりの「金メダル」
運動会当日。
サチコさんが撮ってきたビデオには、一生懸命に腕を振って走るハル君の姿がありました。結果は一等賞ではなかったけれど、最後まで走り抜いたハル君の顔は、秋の夕日のように輝いていました。
帰宅したハル君は、真っ先に僕の元へ駆け寄りました。
「こたぅ、……はしったよ! ……いっしょ、はしった!」
ハル君は、幼稚園でもらった「折り紙のメダル」を、僕の首輪にそっと掛けてくれました。
「こたぅ、……きんめだる」
陽だまりの警備保障、秋の運動会支援任務・完了。
僕の首にかかった金色の紙は、どんな豪華な首輪よりも誇らしく、秋風に揺れていました。
四度目の秋。
庭にはコスモスが咲き乱れ、ハル君の笑い声は、また一つ「自信」という新しい音色を奏でていました。
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