『紫陽花の影の鳴き声と、最年少の警備主任』
『紫陽花の影の鳴き声と、最年少の警備主任』
### 1. 警戒レベル・イエロー
「こたぅ、……しーっ。……あっち、ないてる」
ハル君が庭の隅、色づき始めた紫陽花の茂みを指さして、小さな指を口に当てました。
僕は耳をそばだてました。
「……みぃ。……みぃ。」
それは、風の音よりもか細く、今にも消えてしまいそうな鳴き声。
茂みを覗き込むと、そこには手のひらに乗るほど小さな、泥だらけの「トラ猫」の赤ちゃんが、震えながら丸まっていました。
### 2. チビの「兄貴分」覚醒
「先輩! この子、僕がこの家に来たときよりもずっと小さいよ!」
チビが驚き、毛を逆立てるどころか、母性(父性?)に近い本能で、迷い猫の体を優しく舐め始めました。
ルークもフェンス越しに、息を殺して見守っています。
「コタロウ、緊急支援物資の要請が必要だ。……ハル君、君の出番だよ」
ハル君は、いつもなら驚いて大声を出すところですが、今は違いました。彼は自分の着ているTシャツの裾をギュッと握りしめ、サチコさんの元へ全速力で走っていきました。
### 3. ハル君の「レスキュー任務」
「ママ! ……ちいさいの、いた! ……ねんね、してる! ……たすけて!」
ハル君の必死な訴えに、サチコさんと男性が驚いて庭へ飛び出してきました。
泥だらけの仔猫を見たサチコさんは、すぐに温かいタオルと、かつてチビが使っていた古い哺乳瓶を用意しました。
ハル君は、サチコさんの隣で正座し、仔猫がミルクを一口、また一口と飲むのを、瞬きもせずに見守っていました。
「……がんばれ。……がんばれ」
その真剣な眼差しは、僕たちがいつもハル君を見守っている時の、あの「警備員の目」そのものでした。
### 4. 事件:夜の「見守り当番」
仔猫(名前はハル君が『トラちゃん』と名付けました)は、一晩、様子を見ることになりました。
リビングに置かれた小さなカゴ。
ハル君は「僕、ここで寝る!」と言い張り、僕の背中を枕にして、カゴのすぐ隣で添い寝を始めました。
アーサー先輩が静かにハル君の反対側に横たわりました。
「コタロウ、今夜の主役はハル君だ。我々は彼の『バックアップ』に徹しよう」
ハル君は、夜中にトラちゃんが「みぃ」と鳴くたび、寝ぼけ眼で自分の毛布をトラちゃんにかけ直してあげていました。
その小さな手は、もう「松ぼっくり」を握るだけでなく、誰かを救うための手になっていたのです。
### 5. 陽だまりの警備保障、新入社員?
翌朝、トラちゃんは元気を取り戻し、サチコさんの膝の上で喉を鳴らすようになりました。
どうやら、近所で飼い主さんを探す間、この庭で「体験入隊」することになりそうです。
ハル君は、自分の宝物である「松ぼっくり」をカゴの横にそっと置きました。
「……これ、おまもり。……こたぅが、くれたの」
陽だまりの警備保障、ハル主任による「命の救助任務」大成功。
僕は、ハル君が自分よりも小さな生き物を慈しむ姿を見て、胸がいっぱいになりました。
警備局長の座をハル君に譲る日も、そう遠くないかもしれません。
四度目の夏、梅雨の晴れ間。
庭では、ハル君と、チビと、ヨロヨロと歩くトラちゃんが、僕の尻尾を追いかけて大行進をしていました。
---




