『庭を横切る大冒険と、フェンス越しの友情』
『庭を横切る大冒険と、フェンス越しの友情』
### 1. 「おつかい」の司令官
「ハルくん、お隣のルークさんのパパに、このお菓子を届けてくれる?」
サチコさんが、小さな紙袋をハル君に託しました。
家の中から、隣のルークの家までは、庭を横切ってわずか30メートル。大人なら10秒の距離ですが、ハル君にとっては、名もなき草花や不思議な虫たちが潜む「広大なサバンナ」を横断するような大冒険です。
「こたぅ、……いっしょ! ……あーさー、きて!」
ハル君が、僕とアーサー先輩を招集しました。
警備保障、フルメンバーによる「おつかい護衛艦隊」の結成です。
### 2. ルークの「着艦誘導」
生垣の向こうでは、ルークがかつてないほど規律正しく待機していました。
「コタロウ、こちらルーク。ターゲット(お菓子)を保持した小隊が、こちらに向かっているのを確認した。フェンスの門は既に開放されている。……繰り返す、全方位異常なしだ!」
ルークは、まるで滑走路の誘導灯のように、白い尻尾を大きく振ってハル君を導きます。
ソラも空から旋回し、不審なカラスが近寄らないよう目を光らせていました。
### 3. 事件:茂みの「障害物」
あと数メートルというところで、ハル君がピタッと足を止めました。
足元には、梅雨の走りで見つけた大きな「カタツムリ」が、ゆっくりと道(ハル君の歩道)を横断していたのです。
「……ん、ん……」
ハル君は、踏まないように慎重に足を上げ、バランスを崩してよろけました。
僕は咄嗟に、ハル君の膝の横に体を滑り込ませ、がっしりと支えました。
「ハル、大丈夫だ。ゆっくりでいい」
アーサー先輩も反対側から寄り添い、ハル君が「二足の足」を取り戻すのを待ちました。
### 4. フェンス越しの「条約調印」
ついにハル君は、隣家の玄関先で待っていた男性とルークの元へたどり着きました。
「はいっ、……どーじょ!」
小さな手から、紙袋が手渡されます。
「ありがとう、ハルくん。立派なおつかいだったね」
男性がハル君の頭を撫で、ルークがハル君の手に温かな「鼻ツン」を送りました。
それは、二つの家族が一つになり、さらにその隣の家族とも固い絆で結ばれたことを象徴する、歴史的な「条約調印式」のようでした。
### 5. 凱旋と「松ぼっくりの勲章」
帰り道、ハル君の足取りは驚くほど軽やかでした。
もう僕を「壁」にする必要もないほど、しっかりと、自分の足で大地を蹴って進みます。
「こたぅ、……できた! ……あーさー、できた!」
ハル君は庭の「あの場所」にたどり着くと、ポケットから拾ったばかりの、小さな、でも綺麗な松ぼっくりを取り出しました。
そして、それを僕の目の前に置き、小さな声で言いました。
「……ありがと」
陽だまりの警備保障、ハル君初おつかい任務・完全勝利。
僕は、ハル君がくれた三つ目の松ぼっくりを、これまでの二つと並べて、静かに見守ることにしました。
四度目の夏。
ハル君の背中は、去年の夏よりも一回り大きく、逞しくなっていました。
その背中を追いかけながら、僕たちの警備保障は、また新しい「平和」の形を記録していくのでした。
---




