『庭のハル先生と、初めての読み聞かせ』
『庭のハル先生と、初めての読み聞かせ』
### 1. 司令官、先生になる
「こたぅ、おすわり! ……あーさー、ここ! ちび、しずかに!」
幼稚園から帰ってきたハル君が、リビングに小さな椅子を並べ、絵本を小脇に抱えて宣言しました。
どうやら園での「絵本の時間」がよほど気に入ったのでしょう。今日はハル君が先生、僕たちが生徒という新体制が組まれました。
僕は、先生の威厳に敬意を表し、シャキッと背筋を伸ばして最前列に陣取りました。隣には、座布団を二枚使ってどっしりと座るアーサー先輩。そして、ハル君の膝のすぐ横で、早くも眠そうなチビ。
### 2. ルークの「聴講生」パトロール
「コタロウ、緊急連絡だ。私もその授業に参加したいのだが、フェンス越しでは出席扱いにしてもらえるだろうか?」
生垣の隙間からルークが、耳を限界までこちらに傾けていました。
「ルーク、お前は『特別聴講生』だ。そこで静かに聴いていろ」
ソラも、窓辺の止まり木に降り立ち、首をかしげてハル君の手元を見つめています。
「ギィーッ。今日の教材はなんだ? ……『おおかみと七ひきのこやぎ』か。我ら犬族にとっては、少しばかり複雑な役回りの物語だな」
### 3. 事件:ハル先生の「創作読み聞かせ」
ハル君は、まだ文字が完璧に読めるわけではありません。けれど、彼は自分の記憶と豊かな想像力を駆使して、ページをめくります。
「おおかみさんが、……きました! ……『こんにちは、こたぅです!』……いいました」
(……え? 僕、おおかみ役なの?)
僕が困惑した顔をすると、ハル君は嬉しそうにページをめくります。
「こやぎさん、……あーさーです。……みんなで、ねんね、しました。……めでたし、めでたし!」
アーサー先輩が、深く、満足げに鼻を鳴らしました。
「素晴らしい。争いを避け、全員が安眠を得るという結末……。ハル先生、実に見事な解釈だ」
### 4. 継承される「声の温もり」
読み聞かせが終わると、ハル君は満足げに絵本を閉じ、僕の首をぎゅっと抱きしめました。
「こたぅ、……おもしろかった?」
(ああ、最高だったよ、ハル)
僕は、ハル君の頬を一度だけ優しくペロリと舐めました。
かつて、サチコさんが僕を撫でながら「いい子ね、コタロウ」と語りかけてくれたあの声。今、ハル君が僕に語りかける声の中には、全く同じ「温度」が宿っています。
この家で育まれた「愛」という名の警備ログが、確実に次の世代へコピーされているのを、僕は確かに感じました。
### 5. 陽だまりの「教育実習」修了
夕暮れ時、サチコさんがお茶を持ってリビングにやってきました。
「あら、みんなで読書会? ハルくん、立派な先生ね」
ハル君は、今日拾った新しい「松ぼっくり」を絵本の上に置いて、誇らしげに笑いました。
陽だまりの警備保障、教育部門「ハル先生の特別授業」完了。
ハル君がこれから文字を覚え、もっと長い物語を読めるようになっても、僕たちはいつまでも最前列で、彼の声を聴き続けるでしょう。
四度目の春。庭の桜が風に舞い、ハル君の笑い声が、新しい季節のページを一枚、また一枚とめくっていくのでした。
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