『秋の号令と、二足歩行のパトロール』
『秋の号令と、二足歩行のパトロール』
### 1. 指揮官の「初命令」
「こたぅ、おすわり! ……ち、ちび、おすわり!」
ハル君が、サチコさんの真似をして、精一杯の威厳を込めて指を立てました。
僕は、即座に背筋を伸ばして「お座り」を決めました。チビも、いつもは自由奔放ですが、ハル君の真剣な眼差しに負けて、しぶしぶお尻を床につけました。
「よしっ!」
ハル君が満足げに手を叩きます。その笑顔は、どんな高級なジャーキーよりも僕たちを動かす力を持っていました。
「先輩、ハル君の指揮、なかなか筋がいいね。……でも、おやつが出るまでがセットだよ?」
チビが期待に鼻を鳴らします。
### 2. ルークの「秋季合同演習」提案
生垣の向こうで、ルークが少し焦ったような顔をしていました。
「コタロウ、大変だ。ハル君の『言語能力』と『歩行能力』の相乗効果により、庭の警戒区域が私の庭まで拡大されようとしている。……さっき、彼は私の鼻を掴んで『こっち!』と言ったんだ」
「ルーク、それは名誉なことだ。お前はもう『隣の犬』ではなく、ハル君にとっては『大きな白い乗り物』に近い存在なんだろう」
アーサー先輩も、ゆっくりと近づいてきました。
「コタロウよ。今日はハル君と一緒に、庭の『境界線』を一周しよう。彼に、この家の守り方を教える時だ」
### 3. 事件:金木犀の「香りの迷宮」
秋の強い風が吹き、庭いっぱいに金木犀のオレンジ色の小さな花が散りばめられました。
ハル君は、その絨毯のような地面を夢中で歩き回ります。
「あ! ……あ!」
ハル君が、庭の奥にある少し背の高いハーブの茂みに潜り込んでしまいました。
大人の目線からは見えにくい、ハル君だけの「秘密のトンネル」。
「ギィーッ! 視界喪失! 指揮官がロストした!」
ソラが上空で旋回しながら緊急事態を知らせます。
僕は鼻を使い、金木犀の強い香りの奥にある「ハル君のミルクの匂い」を懸命に辿りました。
茂みの奥で、ハル君は一匹の大きな**「殿様バッタ」**と対峙し、驚いて固まっていました。
### 4. 勇気の「タッチ」
僕はハル君の横に滑り込み、低く構えました。
(大丈夫だ、ハル。こいつはただの『秋のジャンパー』だ。怖くないぞ)
僕が鼻先でバッタを優しく促すと、バッタは大きく跳ねて空へ消えました。
ハル君は僕の首にギュッとしがみつき、それから僕の頭を「いいこ、いいこ」と叩きました。
「こたぅ、……しゅごい!」
その言葉を聞いたサチコさんが、茂みをかき分けてやってきました。
「まあ、こんなところにいたのね。コタロウ、教えてくれてありがとう」
サチコさんがハル君を抱き上げると、ハル君の手には、いつの間にか拾った「二つ目の松ぼっくり」が握られていました。
### 5. 陽だまりの「秋の総会」
夜、リビングでは家族全員が揃っていました。
サチコさんと男性、ハル君。そして、コタロウ、チビ、アーサー先輩。
窓の外には、ルークの白い影と、屋根の上のソラ。
ハル君は今日拾った松ぼっくりを、僕の足元にそっと置きました。
「こたぅ、……これ、おなじ」
(コタロウ、これは僕から君への『貯金』だよ)と言っているようでした。
陽だまりの警備保障、秋の合同パトロール完了。
僕は、ハル君がくれた新しい松ぼっくりを、今度は「ハル君の手の届く場所」に、そっと隠しておくことにしました。
三巡目の秋。庭の景色は毎年変わるけれど、この場所を愛する心だけは、金木犀の香りのように、深く、濃く、この家に染み付いていくのでした。
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