『琥珀色の秘密と、ハル君の「初号令」』
『琥珀色の秘密と、ハル君の「初号令」』
### 1. ターゲット、お喋りを開始
最近のハル君は、何やら一生懸命に空気を震わせています。
「あーうー」「ばぶばぶ」……それは僕やルークが交わす言葉よりも複雑で、でもどこか懐かしい響き。
「コタロウ、見て。ハル君、何か言おうとしているわよ」
サチコさんが期待に目を輝かせながら、ハル君と僕を見比べています。
人間たちはこれを「ハジメテノコトバ」と呼び、それが「ママ」なのか「パパ」なのかで、静かな、しかし熱い議論を戦わせているようです。
### 2. ルークの「音響解析」とアーサーの予言
生垣の会議室では、ルークが耳をピクピクさせていました。
「コタロウ、僕の解析では、ハル君の舌の動きは『M』よりも『W』に近い形を描いている。つまり、彼が最初に出す言葉は、ママでもパパでもなく……」
「……『ワン』だな」
アーサー先輩が、どっしりと横たわったまま断言しました。
「彼はこの数ヶ月、誰よりもお前の背中を見、誰よりもお前の声を聴いて育ってきた。魂の共鳴が、言葉を追い越すのだ」
僕の胸が、少しだけ誇らしく、そして少しだけ申し訳ない気持ちで熱くなりました。(サチコさん、ごめんなさい!)
### 3. 事件:嵐の予感と「青い石」
その日の午後、庭で遊んでいたハル君が、土の中から何かを見つけました。
それは、かつて僕が埋めた「青いビー玉」——あのタイムカプセルからこぼれ落ち、土に馴染んでいたはずの「記憶の欠片」でした。
ハル君はそれを口に入れようとします。
「危ない!」
僕は咄嗟に、ハル君の手を鼻先でそっと押し止めました。
ハル君は驚いて動きを止め、僕の目をじっと見つめました。
「……あ、あ……」
ハル君が口を開きます。
サチコさんも男性も、固唾を飲んでその瞬間を見守りました。
### 4. 世界で一番短い、最高の命令
「……たぅ……」
「え?」サチコさんが耳を疑います。
「……こ、たぅ!」
ハル君の小さな指が、僕の鼻先を指差しました。
それは、まぎれもない僕の名前。「コタロウ」と呼ぼうとした、世界で一番甘くて力強い音でした。
「コタロウって言ったの!? ハルくん、今、コタロウって……!」
サチコさんが歓声を上げ、僕の首を抱きしめました。
男性も「負けたよ、コタロウには勝てないな」と苦笑いしながら、僕の頭を撫でてくれました。
僕は、尻尾がちぎれんばかりに左右に揺れるのを止められませんでした。
警備局長として、こんなに誇らしい報酬をもらったのは初めてです。
### 5. 三度目の春、継承の儀式
その夜、月明かりの下。
ハル君は僕の隣で、僕の毛をぎゅっと握ったまま眠っていました。
庭の松ぼっくりの上を、ミミズクが静かに横切ります。
「おめでとう、コタロウ。これで君は、名実ともに彼の『守護者』として、公式に認められたわけだ」
ルークがフェンス越しに、誇らしげに鼻を鳴らしました。
「いいや、ルーク。僕は今日から、彼の『部下』だ」
僕は、寝言で「こたぅ……」と呟くハル君を見つめながら答えました。
陽だまりの警備保障、ハル君成長記録・第二章「言葉の契約」完了。
これから彼が「コタロウ、行こう!」と僕を呼ぶ日が来るまで。
そして、その先もずっと。
僕の背中は、彼が歩む道の、一番頼もしい「相棒」であり続けるでしょう。
庭の隅では、ハル君が見つけた青いビー玉が、月光を反射して琥珀色の光を放っていました。
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