表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽だまりのコタロウ  作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/101

『早春の足音と、秘密のチョコレート』

『早春の足音と、秘密のチョコレート』


### 1. 鼻先をくすぐる「甘い警戒」


二月に入ると、サチコさんの周りで不思議な匂いが漂い始めた。

それはいつものコーヒーやサツマイモの匂いとは違う、濃厚で、少しほろ苦くて、でもとびきり甘い……。


「先輩、今の匂い……僕、なんだか胸がソワソワするよ!」

チビがキッチンに向かって鼻をヒクヒクさせる。


コタロウは、キッチンの入り口でビシッと座り、サチコさんの手元を注視した。

サチコさんは、ボウルの中で黒くてツヤツヤした「何か」を練っている。

(これは……人間たちが『チョコ』と呼び、僕たち犬族にとっては『禁断の果実』とされる不審物ではないか?)


「チビ、ルーク。厳戒態勢だ。サチコさんが何か、とてつもなく魅力的な、そして危険なものを作っている」


### 2. ルークの「高度なバレンタイン分析」


生垣の隙間から、ルークが冷静な声(しかし喉は鳴っている)で解説を加えた。

「コタロウ、落ち着きたまえ。それは『バレンタイン』という人間界の伝統行事だ。大切な相手に感謝や愛を伝えるために、カカオの加工品を贈る儀式だよ。……ちなみに、僕の主人もさっきから台所で苦戦している」


「愛の儀式……」

僕は、あの「料理上手な男性」の顔を思い浮かべた。

最近、サチコさんがその人の話をする時、庭の梅の花が咲く時のような、温かな空気が流れる。


ソラが空から舞い降りた。

「ギィーッ! 街中の窓から甘い匂いが漏れているぞ。今夜は不審者の侵入よりも、甘い匂いに誘われた食いしん坊の迷い込みに注意が必要だ」


### 3. 事件:溶け出した「想い」


その日の夜。サチコさんが丁寧にラッピングした小さな箱を、リビングのテーブルに置いた。

「明日、喜んでくれるかな……」

彼女は少し不安そうに、でも幸せそうに微笑んで寝室へ向かった。


ところが、その夜は季節外れの「春一番」のような生暖かい風が吹き、暖房の余熱もあって、部屋の温度が少し上がりすぎてしまった。


「先輩、大変だ! 箱の中から『甘い涙』が溢れ出そうだよ!」

チビが異変に気づいた。ラッピングの隙間から、チョコの香りが一段と強く立ち上っている。このままではサチコさんの力作が形を崩してしまうかもしれない。


### 4. 警備保障、冷却任務!


「ルーク、今すぐ協力してくれ!」

僕は窓の隙間に鼻先を突っ込み、ルークに合図を送った。


ルークは自分の庭の雪解け水で冷たくなった外気を、その大きなサモエドの毛を扇風機のように使って、窓の隙間からリビングへと送り込んだ。

僕はテーブルの下に陣取り、自分の体から出る「冷たい冬の残り香」を逃がさないようにした。

チビは、一番風が通るルートを尻尾で扇ぎ、冷気を箱へと誘導した。


僕たちは、サチコさんの「想い」が溶けてしまわないよう、一晩中、その場所の温度を守り抜いた。


### 5. 春の訪れと、お裾分け


翌朝。サチコさんは箱を手に取ると、ホッと胸を撫で下ろした。

「あら……なんだかこの部屋だけ、シャキッと冷えてるわね。チョコも綺麗に固まったまま。よかった……」


サチコさんは、僕とチビに、チョコの代わりに**「最高級のボイルササミ・イチゴ添え」**を出してくれた。

「あなたたちも、いつも愛をありがとうね。これは私からのバレンタインよ」


庭に出ると、ルークとアーサー先輩も、同じように美味しいおやつを頬張っていた。

サチコさんのチョコは無事にあの男性の元へ届き、そのお返しとして、後日僕たちにはもっと大きな「お肉の詰め合わせ」が届くことになるのだが……それはまた別のお話。


「先輩、愛って美味しいね」

チビがイチゴを丸かじりしながら笑う。


「ああ。でも、それを守るのが僕たちの仕事だからな」


陽だまりの警備保障、バレンタイン任務完了。

庭の梅が、一輪、二輪と誇らしげに咲き誇り、三度目の春がもうすぐそこまで来ていた。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ