表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
途中  作者: 古江 門
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/21

第二話 公園の老人 (一)

一 学校の帰り


 玄関まで送ってきた先生が、航に手を振った。


「じゃあ、また来週ね」


「うん」


 航は返事をしてから、美紀を見上げた。


「来週から?」


「そうみたい」


「明日じゃないの?」


「航が使う席や端末を用意したりするんだって」


 航は少し残念そうに校舎を振り返った。


 窓の向こうを、何人かの子どもが通っていく。こちらに気づいた一人が足を止めたが、後ろから来た子に呼ばれ、すぐに見えなくなった。


「さっきの子、同じところ?」


「同じ教室かもしれないね」


「名前、聞けばよかった」


「来週聞けるよ」


 学校の前には、直人を迎える車が止まっていた。


 直人は端末の時刻を確かめ、車と美紀を交互に見た。


「そろそろ行くよ」


「うん」


「二人は?」


「公園を通って帰る」


 直人の視線が、美紀の顔へ戻った。


「歩くの?」


「少し休みながら」


「疲れたら呼んで」


「分かってる」


 車から短い音がした。


 直人は扉へ向かいかけ、航を振り返った。


「ハルに引っ張られるなよ」


「ハルに言って」


 航が答えると、直人は足元のハルを見た。


「お母さんを急がせるなよ」


 ハルは聞いているのかいないのか、車のタイヤへ鼻を近づけていた。


「聞いてないよ」


「航も同じだろ」


「ぼくは聞いてた」


 美紀が直人の背中を軽く押した。


「遅れるよ」


「ああ」


 直人は車へ乗った。


「夕方には帰る」


「いってらっしゃい」


 扉が閉じ、車がゆっくり動き出した。


 航は手を振った。


 直人も窓越しに手を上げる。


 車が角を曲がると、航はリードを持ち直した。


「お父さん、何しに行ったの?」


「前に話していた人と会うの」


「お仕事の人?」


「そう」


「今日から?」


「今日は話すだけ」


 航は直人が乗っていった車のほうを見た。


「話すだけなのに、あの服なの?」


 美紀は少し笑った。


「お父さんは、あのほうが落ち着くんじゃないかな」


「暑そうだった」


「帰ったら聞いてみようか」


「ぼくは着ない」


「まだ着なくていいよ」


 ハルが先へ歩き出した。


 航も引かれるように進む。


 学校の周りには、低い住宅と細い木が並んでいた。初めて通る道が気になるのか、ハルは何歩か進むたびに立ち止まり、地面や植え込みへ鼻を近づけた。


「ハル、遅い」


 航が言う。


 少し前まで自分が引っ張られていたことは、もう忘れているらしい。


 美紀は二人の後ろを歩いた。


 学校にいたあいだは感じなかったが、外へ出ると足が少し重かった。昨日よりはましだった。帰る道も、休める場所も分かっている。


 腕の端末には、歩く速さを落とすよう小さな表示が出ていた。


 美紀が表示を閉じると、航が振り返った。


「お母さん、遅いよ」


「ハルを待ってたの」


「ハル、もう歩いてるよ」


「じゃあ、お母さんが遅いのかな」


 航は美紀のところまで戻ってきた。


「疲れた?」


「ちょっとだけ」


「公園、まだ?」


 美紀が端末を見る。


「この先みたい」


「じゃあ、そこで休もう」


「ハルも?」


「ハルは休まないかもね」


 航がハルを見る。


「休む?」


 ハルは植え込みから顔を上げ、そのまま先へ進んだ。


「休まないって」


「航が聞いても分からないでしょう」


「分かるよ」


「なんて言ったの?」


「早く行こうって」


「それは航が言いたいことじゃない?」


「ハルも言ってる」


 道の先に、公園の入口が見えた。


 広い芝生の周りを木が囲み、奥にはいくつかベンチが置かれている。遊具の近くでは、数人の子どもが遊んでいた。


 公園へ入ると、ハルの足が速くなった。


「待って、ハル」


 航も早足になる。


「航」


 美紀に呼ばれ、航は立ち止まった。


「走ってないよ」


「今、走ってた」


「ハルが引いたの」


 航はリードを短く持った。


 美紀は木陰にあるベンチを探した。


 少し奥に、並んで置かれた二つのベンチがある。


 一つには老人が座っていた。


 灰色の上着を着て、足元に古びた布の鞄を置いている。手には何も持たず、芝生の向こうを見ていた。


 隣のベンチは空いていた。


「あそこにしよう」


 美紀が言った。


 航がうなずき、ハルを連れてそちらへ向かう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ