↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
途中  作者: 古江 門
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/70

第九話 名前のない壁画 (二)

二 直された絵


 数日後、義一は共同作業所へ向かう途中で壁画の前を通った。


 手押し車に使う留め具が届いたという連絡を受けていた。公園を通る道もあったが、こちらのほうが少し近い。


 それだけだった。


 壁画の前には、通りかかった二人が立ち止まっているだけだった。


 義一は歩きながら中央の作業者へ目を向け、そのまま数歩進んだ。


 違和感があり、足を止める。


 振り返って、壁の前へ戻った。


 作業者の姿勢が変わっている。


 右足を引き、身体を設備の正面から外していた。左手は機械の縁へ添えられ、取っ手を握る手も反対になっている。


 義一は壁へ近づいた。


 手の位置は、自分が示した場所より少し低かった。


 それでよかった。


 肩を上げずに触れられる。異常があっても、すぐに身体を引ける。


 設備の下には、薄い靴跡も加えられていた。油汚れではなく、清掃しても完全には消えない台車や靴の跡だった。


 描き直した境目は、近くで見てもほとんど分からない。最初からそう描かれていたように見える。


「あれなら動かせる」


 口に出してから、義一は周囲を見た。


 近くにいた二人はこちらを見ていなかった。


 工場の外へ伸びていた道も修正されている。搬入口の前を横切らず、建物の裏へ回っていた。壁際には細い搬送路も加えられている。


 義一が働いた場所と同じ形ではない。


 それでも、車両と作業者が同じ場所を通らずに済む。


 前よりはましだった。


 嬉しいというのとは、少し違った。


 ただ、間違ったままではなくなったことには、胸の奥が少しだけ軽くなった。


 一つ直ると、ほかの不自然さも目についた。


 だが、義一はそれ以上確かめるのをやめ、壁画の横にある制作記録を開いた。


《制作担当 接続情報なし》


 さらに押すと、説明が表示された。


《制作担当者は、氏名および現在の活動記録との接続を希望していません》


 義一は先日会った人物を思い出した。


 袖についていた青い塗料。壁画の細部を尋ねる、妙に具体的な質問。


 あれが作者だったのだろう。


 自分の話を絵へ入れておきながら、誰が描いたのかは残さないらしい。


 礼を言われたくないのか。


 間違いを指摘されたことを知られたくないのか。


 それとも、描いた者として扱われるのが嫌なのか。


 考えても分からなかった。


 義一は表示を閉じ、共同作業所へ向かった。


 数歩進んでから、もう一度振り返った。


 作業者の左手は、機械へ正しく添えられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。