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途中  作者: 古江 門
第一部

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第五話 父の最初の仕事 (四)

四 一つ下の項目


《動作中の記録を残す》


《端末の担当表示を残す》


《交代前の操作権限を残す》


 大庭が一番上を指した。


「変えるのは、これですね」


「はい」


 直人は項目を選び、条件を入力した。


 機械が動き終えるまで、最初の記録とのつながりを残す。動き終えたら、新しい担当へ切り替える。


 確認画面へ進むと、端に、


《設定案作成 森川直人》


 と表示された。


 まだ試験もしていない案に、すでに自分の名前がついている。


「採用されなかった場合も残るんですか」


「残ります。なぜ採用しなかったかも残します」


「失敗した案も?」


「理由が分かれば、次に同じことを試さずに済みますから」


 大庭は当然のことのように答えた。


「この記録は、誰が評価するんですか」


「評価?」


「私の活動についてです」


 大庭は少し考えた。


「次の担当を決める参考にはなります。でも、点数をつけるものではありません」


 直人には、違いがよく分からなかった。


 参考にするなら、それは評価と同じではないかと思った。


 直人は設定を読み直し、試験へ送った。


 すぐに警告が出た。


《設定内容と変更先が一致しません》


 画面の一行が強調される。


《端末の担当表示を残す》


 直人は表示を見た。


 一番上を選んだつもりで、その一つ下を開いていた。


「一つ下ですね」


 大庭が言った。


 直人は何も答えず、設定を取り消した。


 入力した内容は合っている。だが、入れる場所が違っていた。このまま進めても昇降機は直らず、端末に担当名が表示される時間だけが変わる。


 設定画面は閉じた。


 だが、活動記録には新しい行が残っていた。


《設定内容と変更先の不一致》


《作成者 森川直人》


 直人の視線が、自分の名前で止まった。


 まだ試験には進んでいない。設備にも何も送られていない。


 それでも、取り消した操作まで、自分の活動として残っていた。


 大庭は二つの項目を並べた。


「名前が似ていて、内容を入れる場所を間違えやすいことが分かります」


「私が間違えただけです」


「前にも同じところで止まった記録があります」


 過去の記録には、別の二人の名前が並んでいた。どちらも一つ下を選んでいる。


「それで、内容まで読んで止める確認が加わりました」


「その確認がなければ、間違ったまま進んでいた」


「だから、確認を加えたんです」


 大庭の声は変わらなかった。責めても、慰めてもいない。


「間違いをしない人だけで動かすより、途中で見つかるようにしたほうが安全です」


 直人は過去の記録を見た。


 二人の名前は残っている。その後の活動から外されたとも、権限を失ったとも書かれていない。代わりに、その間違いを受けて、確認方法が加えられたことがつながっていた。


 それでも、自分の名前の横にある《不一致》という言葉は消えなかった。


「すみません。確認したつもりでした」


「では、次はどう確認すれば見つけられるか、考えましょう」


「次?」


「同じ画面を使う人がいますから」


 大庭が考えているのは、直人の評価ではなかった。このあと同じ場所を開く、名前も知らない誰かのことだった。


 直人は一番上の項目を開き直した。


 今度は名前を指でなぞってから条件を入力する。確認画面でも、最初の行を二度読んだ。


 試験へ送る。


 今度は警告が出なかった。


 昇降機の箱が動き始める。


 途中で担当記録を切り替えても止まらない。目的の階へ着くと、最初の記録とのつながりが閉じ、新しい担当へ移った。


 大庭がもう一度試す。


 結果は同じだった。


「直りましたね」


「試験では。現地へ入れる前に、ほかの設備も見たほうがいい」


「そうしましょう」


 画面に、その日の記録が並ぶ。


《停止原因を発見》


《試験で再現》


《修正方法を提案》


《変更先の取り違えを検出》


《試験前に修正》


 大庭は最後の二行へ、


《設備への影響なし》


 と加えた。


 さらに、過去の取り違えと今回の記録を、一つの改善案へつないだ。


《設定項目を用途ごとに分けて表示する》


「こうしておけば、次は人が気をつけなくても済むかもしれません」


 直人は画面に並んだ名前を見た。


 間違いの記録が、そのまま次の改善へつながっている。


 そのつながりを、直人はまだうまく読めなかった。


「森川さん、お昼にしませんか」


 壁の時刻は十二時を過ぎていた。


「もうそんな時間ですか」


「朝からずっと見ていましたから」


 大庭は立ち上がった。


「下で食事を選べます。魚もありますよ」


 直人は一瞬、何のことか分からなかった。


 手元の表示を開くと、昼食の候補の一番上に魚料理が出ていた。生活AIが朝の会話を拾い、自動で候補へ加えたらしい。


 そこでようやく、


「今日は魚がいいよ」


 と言った航の顔を思い出した。


「別のものにしますか」


 大庭が尋ねた。


 直人は少し考えた。


「いえ。魚で」


 二人は部屋を出た。

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