第四話 やめる人 (二)
二 見つからないままで
女性はこの一年に六つの活動へ参加し、どれも二週間以内に離れている。
植物苗の植え替え。
古い音声記録の整理。
小型配送機の点検。
子ども向け工作場所の準備。
器の補修。
そして、今回の日よけ作り。
活動先からの記録は悪くなかった。
《説明をよく聞く》
《観察が丁寧》
《継続参加を提案》
案内の仕組みは、短い活動を重ねている履歴を、本人に合うものを探している途中だと判断したらしい。
「この分類は、職員が付けたものではありません」
佐伯は言った。
「過去の参加履歴から、自動で付いています」
女性は画面を見つめた。
「私は、試しているつもりではありません」
「植物苗の植え替えには、どうして参加したんですか」
水野が尋ねた。
窓際には、葉のない小さな鉢が置かれていた。
「前に育てていた植物を枯らしました。水が足りないと思って、何度も足して。あとで、根が詰まっていたと聞いたので、見に行きました」
「植え替え方を覚えて、また育てようとは?」
「そのときは、育てたいものがありませんでした」
古い音声記録の整理では、昔の作業場で鳴っていた機械音の正体を確かめたところで離れていた。
小型配送機の点検でも、止まった箇所を開いて中を見たあと、継続の誘いを断っている。
「どれも、分かったら終わりなんですか」
少し考えてから答えた。
「たぶん」
「まだ分からないことが残っていても?」
「全部を知りたいわけではないので」
水野は口を閉じた。
佐伯が尋ねた。
「これらは、もう終わったものですか」
「今は、していません」
「戻る予定は?」
「ありません」
「二度と戻らない?」
「それも分かりません」
困ったように笑った。
「うまく言えません。気になったから行って、分かったところで行かなくなりました」
水野は履歴を指で追った。
「私は、ばらばらだとは思いませんでした」
女性が顔を上げる。
「植物の根も、昔の機械の音も、配送機の中も。何かがうまくいかなくなったときに、そのままにせず確かめています」
水野は黄色い布を見た。
「だから森川さんの活動が合うと思いました。古くなった物を、捨てる前に見る。使えるところを探す。これまでしてきたことと近いと思ったんです」
「紹介してもらえて、よかったです」
女性は言った。
「森川さんに見てもらわなければ、この布は捨てていたと思います」
水野の表情が少し緩んだ。
「では、合っていたんですよね」
「はい」
「それなのに、三日で終わるんですか」
声が強くなった。
女性の手が止まる。
水野も自分の声に気づいたようだったが、視線を外さなかった。
「森川さんは、続きをするつもりだったはずです」
「それは、確認できていません」
佐伯が言った。
水野がこちらを見る。
「でも、普通は――」
「今確認できるのは、森川さんが終了を了承したことと、残っている作業がないことです」
佐伯は過去の履歴を閉じた。
水野は黙った。
「申し訳ないと思っています」
女性が言った。
水野は低い声で尋ねた。
「申し訳ないなら、もう少し続けるという考えにはならなかったんですか」
佐伯は水野を見たが、口を挟まなかった。
「最初は、もう少し続けると思っていました」
「では、なぜ」
「途中で変わりました」
「それだけで?」
女性は顔を上げた。
「変わったら、やめてはいけませんか」
「やめてはいけない理由はありません。離れるための条件は、すでに確認できています」
佐伯が答えた。
水野は黙った。
窓の布が、風を受けてわずかに膨らんだ。
「せっかく、合うものが見つかったと思ったのに」
独り言に近い声だった。
女性は少しだけ目を伏せた。
「私も、そうなればいいと思うことはあります」
「なら」
「でも、今は続けようと思えません」
水野は口を閉じた。
佐伯は端末を女性のほうへ向けた。
「補助分類については、支援室へ戻ってから処理します。変更内容は、確定前に送ります」
「お願いします」
二人が立ち上がると、水野はもう一度、黄色い布を見た。
「いつか、本当に続けたいものが見つかるといいと思います」
女性はすぐには答えなかった。
「見つからないままでは、だめですか」
水野の表情が止まった。
「だめではありません」
答えるまでに、少し時間がかかった。
女性は小さくうなずいた。




