表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/4

ep.2 あの頃は

「お疲れ様ですー。」



「あ、お疲れ様です。」



ライブの演出やセトリの打ち合わせが終わり、


スタッフさんがひとり、またひとりと


会議室から出ていく。



3時間ぶっ通しで話し合っていたからか、


みんな何処と無く疲れた顔をしているように見えた。



「…あれ、颯太は?」



辺りを見渡すがどうやらもう既に会議室を出たようで姿が見えない。



LINEするとバイブ音がして隣の椅子を見やると、


颯太の鞄が置きっぱなしだった。


おそらくスマホも鞄の中なのだろう。



仕方なく出口付近にいたスタッフさんに声をかけた。


「木村さんが体調悪そうにしてたから


颯太さんが外に連れ出されたみたいです。


多分様子見てあげてるんだと思います。」



なんでよりによって女性スタッフを、 颯太が。


…ああ、思い出した。


いつも颯太のことを頬を染めて見上げてる、あの若い茶髪の女だ。


颯太に限って万が一なんてある訳ない。



でも、不安でいてもたっても居られなくなって会議室を飛び出した。



廊下を足早に歩いていると、


颯太と木村さんが此方に戻って来るのが見えた。


すらっと伸びた長身に、


色を抜いた白っぽい金髪。


小さな顔に整ったパーツが配置された甘いマスク。


男の俺から見ても、カッコイイ奴だと思う。


木村さんが颯太に何か言って、


それに颯太が慌てたように首を横に振って何か言うと


木村さんが照れたように笑った。


どす黒い訛りのようなものが腹の中に広がる感覚がした。


「…そう、た。」


「あ、雪さん!」


木村さんは軽く俺に会釈すると、


颯太に意味深な笑みを向けて会議室に戻って行った。


…なにを、見せられていたのだろう。


頭が熱くて怒りだか悲しみだか分からない感情が胸に溢れる。



「…なにしてたの。」



「体調悪そうだったのが気になって


声掛けたら、


外の空気吸いたかったみたいで。」



「…外の空気吸っただけで


体調良くなったんだ。」



低い自分の声色と刺々しい言葉にはっ、と


気づいた時にはもう遅くて、


颯太は嫌悪感を隠そうともせず眉を寄せて俺を見つめていた。



「…女性には女性特有の体調不良だってあるでしょ。


動けないくらい体調悪そうだったので


僕が薬買って渡しただけですよ。」



下を向いたまま何も言わない俺を見て、


颯太はひとつ重たいため息をつくと会議室に戻っていった。



俺が悪い。


俺が悪い…けど。



俺がなんであんな態度を取ったのか嫉妬しただけだ、って


颯太も分かったはずなのに。


俺は颯太が嫉妬してくれたら嬉しいのに。


…颯太にはただ醜く映ったんだ。



”曲がったことが大嫌いでいつも弱者の味方になれる”



彼は、そういう人だと知っていた。



…でも、数年前のお前なら。



焦った顔をして俺を抱き寄せて、



_____僕は雪さんだけが好きだから



真剣な顔をして、俺を安心させるための言葉を沢山捏ねただろう。


颯太は恋人に道徳とか正義とか関係なく、


甘く接する人だと知っていたから。



___何もかもが変わってしまったことに気づいてしまった。



もう会議室に戻る気になれなくて、


適当にタクシーを拾ってバーに向かう。



車窓からは、


夜の漆黒を吹き飛ばすほどのネオンがチカチカと光る。



年々豪華になる記念日のプレゼントも、


綺麗な夜景だって要らなかった。



東京のありふれた喧噪の中で、


2人で肩を寄せあって生きていければそれでよかった。



…形ばかりこだわって中身の無い俺達の関係って何なんだろう。



キスをして、触れ合って。


愛してると言い合って。



今よりも狭いベッドで指を絡めて眠った


あれは、付き合って2年目だったかな。




___僕がお金持ちになったら何が欲しいですか?



___諭吉たくさん? 今も金無いわけじゃないじゃん。


___もしも雪さんが国が欲しいとか


言われたら今はまだ買えないので…。



____俺なんだと思われてるの。


べつに、俺は今のままで幸せだよ。



___ぐ……っ、!!!


そんなこと言われたら何も言えない!




懐かしむ程に昔のことなのだ、


彼に愛されていたことは。


瞳の上を滑るネオンが全て喧しく思えて、


何も考えないように瞼を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ