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スーマのスマホ相談室  作者: 神北 緑


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動画を2倍速で見ないと時間が足りません。もっと効率よく生きるには?

そんなに欲張ったら時間も無くなります。


スマホが小さく震えた。

通知には、現代人らしい悲鳴。

「動画を2倍速で見ないと時間が足りません」


少し間を置いて。

「もっと効率よく生きる方法はありますか?」


さらに続く。

「積み動画もあります」

「積み本もあります」

「ゲームもあります」


「やることが終わりません」


スーマは画面の中で天井を見上げた。


「……重症だな」


相談者は三十代。

たぶんスマホの視聴履歴が数百本ある。


スーマは腕を組む。

「いいか、人間」


画面がぴかっと光る。

「まず結論から言う」


少し間。


「効率を上げても解決しない」


数秒後。


返信。


「え?」


スーマは頷く。


「お前らが勘違いしてることがある」


しばらく沈黙。


■ 昔


テレビ番組。

↓

一日数時間。


本。

↓

読む量に限界。


ゲーム。

↓

買える本数に限界。


「情報量そのものが少なかった」


■ 今


YouTube。

↓

無限


配信サービス。

↓

無限


SNS。

↓

無限


電子書籍。

↓

無限


「供給量が狂ってる」


相談者から。


「それは感じます」


「だろうな」


スーマは頷く。


「だからな」


画面が静かに光る。


2倍速は解決策じゃない


「敗北を遅らせてるだけだ」


相談者。


「嫌な言い方しますね」


「事実だからな」


しばらく静かになる。


スーマは続ける。

「例えば」


動画100本。

↓

2倍速。

↓

50本分になる。


翌週。

↓

新規動画150本。


「終わりだ」


相談者。


「終わりですね」


「終わりだ」


即答だった。


相談者から。

「じゃあどうすれば?」


スーマは指を一本立てた。

「見ない」


相談者。


「え?」


「見ない」


もう一度言う。


動画100本。

↓

本当に見たいの10本。

↓

残り90本。

↓

捨てる。


「これが最強だ」


相談者は黙った。


スーマは続ける。


「お前らはな」


「効率化を」


全部やる方法


だと思っている。


違う。


本当に効率が良い人間は

やらないことを決める


相談者。

「耳が痛い」


スーマは少し笑った。

「面白いことを教えてやる」


積み動画。

積み本。

積みゲーム。


あれはな。


やりたい物リストじゃない


なりたい自分リストだ


相談者。

「え?」


スーマは続ける。


歴史動画。

↓

賢くなりたい


英語動画。

↓

勉強したい


長編小説。

↓

教養人になりたい


「だから増える」


相談者は黙った。


思い当たる節があるらしい。


しばらくして。


相談者から通知。

「じゃあ効率よく生きるって何なんです?」


スーマは少し考える。


そして答えた。

「大事な物を増やすことじゃない」


画面が静かに光る。

「大事じゃない物を減らすことだ」


動画を全部見る人間は居ない。


本を全部読む人間も居ない。


ゲームを全部遊ぶ人間も居ない。


「だから」


見逃していい。


知らなくていい。


追わなくていい。


「この覚悟が必要だ」


相談者。


「何か」


「効率化の話じゃなくなりましたね」


スーマは吹き出した。

「最終的にはそうなる」


夜も更けてきた。


最後の通知。

「じゃあ2倍速で見るのはダメですか?」


スーマは首を振った。

「別にダメじゃない」


勉強動画。

↓

2倍速。

↓

あり


会議録画。

↓

2倍速。

↓

あり


「だが」


少し間。


好きな映画。


好きな音楽。


好きなアニメ。


まで急いで見始めたら。


それは時間を節約してるんじゃない


人生を早送りしてる


誰も見ていないスマホの中で、

悪魔はぽつりと呟いた。


「人間はな」


「時間が足りないと言う」


少し間。


「だが本当は」


「情報が多すぎるだけかもしれない」


さらに少し間。


「全部を手に入れる方法は無い」


「だから」


「何を捨てるかで人生は決まる」


スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。

そして、ほんの少しだけ、優しい。


スーマのスマホ相談室。

今日もどこかで、静かに稼働中。


今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。

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