昔の話で、自分の記憶と歴史が噛み合わないのは何故?
単なる記憶違いで片付けるなかれ!
夜更け。
スマホが小さく震えた。
通知には、少し不安そうな文章。
「昔の記憶が歴史と合わないんです」
少し間を置いて。
「自分の記憶では確実に小学生だったのに」
「調べたら中学生の頃でした」
さらに続く。
「これって記憶がおかしいんですか?」
スーマは画面の中で目を細めた。
「……来たな」
相談者は四十代男性。
最近、昔のゲームやテレビ番組の年表を見て衝撃を受けたらしい。
スーマは腕を組んだ。
「いいか、人間」
画面がぴかっと光る。
「まず結論から言う」
少し間。
「それは割と普通だ」
数秒後。
返信。
「普通なんですか?」
スーマは頷いた。
「人間はな」
「過去を保存してるんじゃない」
「再現してる」
相談者は首を傾げた。
スーマは続ける。
「お前が思い出してる記憶」
「実は毎回組み立て直してるんだ」
思い出す
↓
脳が補完する
↓
また思い出す
↓
また補完する
「だから少しずつ変わる」
相談者は黙った。
嫌な予感がしている。
スーマは指を一本立てた。
「ここで出てくるのが」
画面がもう一度光る。
『マンデラ効果』
相談者から即レス。
「聞いたことあります」
「本当は違うのに」
「みんな同じ勘違いしてるやつですよね」
スーマは頷いた。
「そうだ」
しばらく静かになる。
スーマは続ける。
「例えば」
『ピカチュウの尻尾の先は黒い』
そう思い込んでる人間。
結構いる。
実際は違う。
「あるいは」
『人生楽ありゃ苦もあるさ』
を
『人生楽ありゃ苦もあるさ、涙の後には虹も出る』
と覚えている人間。
「似たような例は山ほどある」
相談者から。
「なんでみんな同じ間違いするんです?」
スーマは笑った。
「脳が効率化するからだ」
知らない部分。
↓
穴埋めする。
↓
それっぽく整える。
「人間は曖昧なまま放置するのが苦手なんだ」
相談者は少し考えている。
そして聞いた。
「じゃあ歴史の記憶もそうなんですか?」
「その通り」
スーマは即答した。
小学生の頃だと思っていた。
↓
中学生だった。
理由。
↓
その頃の友達の顔を思い出した。
↓
同じ時代だと思った。
↓
脳が勝手に整理した。
「こんなことは珍しくない」
相談者から通知。
「でも、自信あったんです」
スーマは吹き出した。
「そこが面白い」
画面が静かに光る。
「記憶の正確さと」
「記憶の自信は別物だ」
相談者。
「え?」
自信100%
↓
間違い
普通にある。
自信ゼロ
↓
正解
これもある。
「人間の脳はな」
「正確さより納得感を優先する」
少し間。
相談者は考え込んでいる。
スーマは続けた。
「だから昔話をしてると」
『あれは1989年だった』
↓
『いや1992年だ』
↓
『いや絶対1989年だ』
という会話が発生する。
相談者から。
「ありますね」
「毎回あります」
スーマは頷く。
「だろうな」
しばらく沈黙。
そしてスーマは少しだけ優しい声になる。
「だがな」
画面が静かに光る。
「記憶違いだからと言って」
「全部が嘘になるわけじゃない」
相談者は黙った。
「年は違った」
「順番も違った」
「場所も少し違った」
だが。
「楽しかった」
「怖かった」
「嬉しかった」
その感情は本物だ。
相談者から短い返事。
「なるほど」
スーマは小さく頷いた。
「歴史は事実を保存する」
「記憶は感情を保存する」
少し間。
「だから」
「時々ズレる」
翌朝。
短い通知が届いた。
「昔の記憶がズレてても安心しました」
スーマは鼻で笑った。
「安心しろ」
「四十代になると増える」
相談者から。
「余計な一言です」
誰も見ていないスマホの中で、
悪魔はぽつりと呟いた。
「人間はな」
「過去を録画しているつもりでいる」
少し間。
「だが実際は」
「毎回、心の中で再上映しているだけだ」
さらに少し間。
「だから」
「マンデラ効果も起きるし」
「昔話も食い違う」
スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。
そして、ほんの少しだけ、優しい。
スーマのスマホ相談室。
今日もどこかで、静かに稼働中。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。




