マンボウは自分が食べられていても気にならない?
何とも不思議な生命体。
夜。
スマホが小さく震えた。
通知には、なんともマンボウらしい質問。
「マンボウって」
少し間を置いて。
「自分が食べられてても気付かないって本当ですか?」
さらに続く。
「ネットで見たんですが」
「体をかじられてても平気らしいです」
スーマは画面の中で顔をしかめた。
「……またマンボウ伝説か」
相談者は三十代男性。
どうやらマンボウの都市伝説を読み漁っているらしい。
スーマは腕を組んだ。
「いいか、人間」
画面がぴかっと光る。
「まず結論から言う」
少し間。
「気付いてないわけじゃない」
数秒後。
返信。
「そうなんですか?」
スーマは頷く。
「当たり前だ」
「生き物だぞ」
しばらく沈黙。
相談者は続きを待っている。
スーマは続けた。
「マンボウはな」
「海の人気者だ」
相談者。
「人気者?」
「捕食者から見ればな」
マグロ。
↓
サメ。
↓
シャチ。
↓
アシカ。
「結構いろんな奴に狙われる」
スーマはため息をついた。
「人気あり過ぎるんだよ」
相談者から。
「じゃあ食べられてるんですか?」
「食べられてる」
即答だった。
だが。
スーマは指を一本立てる。
「ここからが誤解ポイントだ」
画面がもう一度光る。
「マンボウは体がでかい」
「そして丈夫だ」
少し間。
「人間だって」
「指を少し切っただけでは生きてるだろ」
相談者。
「まあ」
「マンボウも似たようなもんだ」
ヒレ。
↓
皮膚の一部。
↓
表面。
「その程度なら」
「食われても生存することがある」
相談者は納得したようだった。
「なるほど」
「だから食べられてても泳いでる写真があるんですね」
「そうだ」
スーマは頷いた。
「痛覚が無いわけじゃねぇ」
「気付いてないわけでもない」
しばらく静かになる。
そして相談者。
「でもなんか鈍そうですよね」
スーマは吹き出した。
「それは否定しにくい」
マンボウ。
↓
体重数百キロ。
↓
最大では1トンを超える。
↓
しかし主食はクラゲ。
「生き方が全体的にのんびりしてる」
スーマは肩を竦めた。
相談者から。
「じゃあネットで見る」
『気付かず食べられてる』
は嘘ですか?
スーマは少し考えた。
そして答えた。
「完全な嘘ではない」
「完全な本当でもない」
画面が静かに光る。
「正しく言うなら」
『食べられても致命傷にならないことがある』
「これが近い」
相談者は短く返した。
「だいぶ印象変わりますね」
「だろ?」
スーマは笑った。
「ネットはな」
「真実より面白い方を選びがちだ」
夜も更けてきた。
最後の通知が届いた。
「マンボウって思ったより普通の魚ですね」
スーマは首を傾げる。
「いや」
少し間。
「十分変な魚だぞ」
相談者から。
「どっちなんです」
スーマは小さく笑った。
「変だが」
「伝説ほどではない」
誰も見ていないスマホの中で、
悪魔はぽつりと呟いた。
「人間はな」
「変わった生き物を見ると」
「本当の話だけじゃ満足しない」
少し間。
「だから」
「マンボウには毎年新しい伝説が増える」
スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。
そして、ほんの少しだけ、優しい。
スーマのスマホ相談室。
今日もどこかで、静かに稼働中。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。
この話は「ナイトコードΩ 【残響の封印】」のスピンオフになります。
本編はこちら→https://ncode.syosetu.com/n5607ku/




