猿蟹合戦って本当に猿が悪いの?
この話が出来た時は仇討ち禁止ではなかった?
夜。
スマホが小さく震えた。
通知には、昔話をひっくり返すような疑問。
「猿蟹合戦ってありますよね」
少し間を置いて。
「本当に猿だけが悪いんですか?」
さらに続く。
「最近読み直したら、最後は集団リンチじゃないですか?」
スーマは画面の中で吹き出した。
「……来たな」
子供に絵本を読んでいて、急に大人の視点になってしまったらしい。
スーマは腕を組む。
「いいか、人間」
画面がぴかっと光る。
「まず結論から言う」
少し間。
「猿は普通に悪い」
数秒後。
返信。
「やっぱりですか」
「だが」
スーマは指を一本立てた。
「それで話が終わらないのが面白いんだ」
しばらく沈黙。
相談者は続きを待っている。
スーマは続けた。
「まず最初の事件を思い出せ」
猿
↓
柿を独り占め
↓
蟹を騙す
↓
木から柿を投げつける
↓
蟹重傷
「これはどう見ても猿が悪い」
相談者も納得した。
「確かに」
「だろ?」
スーマは肩を竦める。
「しかも事故じゃない」
「欲張りと暴力のセットだ」
少し間。
相談者は次の疑問を送る。
「でも最後は蟹側もやり過ぎじゃないですか?」
スーマは苦笑した。
「そこだ」
画面がもう一度光る。
「大人になると気付く違和感ランキング上位だ」
栗。
蜂。
臼。
牛の糞。
みんなで猿を待ち伏せする。
そしてボコボコにする。
相談者から。
「普通に怖いです」
「怖い」
スーマは即答した。
「現代ならニュースになる」
しばらく静かになる。
そしてスーマは少し真面目な声で言った。
「だがな」
「この話は法廷ドラマじゃない」
「昔話だ」
相談者は首を傾げる。
「どういうことです?」
スーマは答える。
「昔話は」
画面が静かに光る。
「正義の説明書なんだよ」
悪いことをした。
↓
報いを受けた。
↓
めでたし。
「つまり」
「猿を裁判にかける話じゃない」
「因果応報を教える話だ」
相談者は納得したような、していないような返事をした。
「なるほど……」
しかしスーマは続ける。
「ただな」
「現代人が違和感を持つのも正しい」
相談者から。
「やっぱり?」
「お前らは」
「法律で解決する世界に住んでる」
「だから復讐そのものに引っかかる」
少し間。
スーマは笑った。
「昔の人はな」
「被害者が泣き寝入りする方が嫌だった」
「現代人は」
「復讐が行き過ぎる方が怖い」
夜も更けてきた。
相談者から最後の通知。
「じゃあ結局、誰が悪いんです?」
スーマは少し考えた。
そして答える。
「発端は猿」
「復讐は蟹側」
「どっちも人間っぽい」
相談者は吹き出した。
「人間じゃないのに」
「昔話なんてそんなもんだ」
スーマは肩を竦める。
「動物の姿を借りて」
「人間を描いてる」
誰も見ていないスマホの中で、
悪魔は小さく呟いた。
「子供の頃は」
「悪い猿を倒してスッキリする」
少し間。
「大人になると」
「その後のことが気になり始める」
スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。
そして、ほんの少しだけ、優しい。
スーマのスマホ相談室。
今日もどこかで、静かに稼働中。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。




