何かに刺されて痒いけど、何か分からない
何に刺されたか分かんない事って多いよね?
深夜一時。
静かな部屋で。
スマホが小さく震えた。
通知には、切実な一文。
「めちゃくちゃ痒いです」
少し間を置いて。
「でも何に刺されたのか分かりません」
さらに続く。
「蚊ですかね?」
「でも蚊を見てません」
「助けてください」
スーマは画面の中で顔をしかめた。
「……夏だな」
相談者は三十代男性。
現在進行形で腕を掻いているらしい。
スーマはため息をついた。
「いいか、人間」
画面がぴかっと光る。
「まず言っとく」
「刺した犯人が分からないのは普通だ」
数秒後。
返信。
「普通なんですか?」
「普通だ」
即答だった。
「刺す連中はな」
「お前に見つからないよう進化してる」
相談者は黙った。
たしかにそうだ。
刺される瞬間を見ることはほとんどない。
スーマは指を一本立てた。
「まず有名なのは蚊だ」
蚊。
「一か所だけ」
「ぷっくり膨らむ」
「痒い」
「犯人の八割くらいはこいつ」
相談者から返信。
「でも見てないです」
スーマは鼻で笑った。
「だから言ったろ」
「見つからないようにやる」
少し間。
スーマは二本目の指を立てた。
ダニ。
「布団」
「カーペット」
「ソファ」
「この辺が現場だ」
相談者から。
「嫌な予感しかしません」
スーマは頷く。
「安心しろ」
「俺も嫌だ」
さらに続ける。
「ダニは朝起きたら痒いパターンが多い」
「しかも複数箇所」
「割と雑に噛む」
相談者は腕を見ているらしい。
返信が来た。
「二か所あります」
「知らん」
スーマは即答した。
「それだけじゃ判断できねぇ」
三本目の指が立つ。
ブヨ。
「こいつは厄介だ」
画面が少し暗くなる。
「後から本気を出してくる」
相談者から。
「後から?」
「そうだ」
「最初は大したことない」
「翌日」
「地獄」
返信。
「怖いですね」
「実際怖い」
スーマは真顔だった。
しばらく沈黙。
その後。
相談者から通知。
「結局何なんです?」
スーマは大きくため息をついた。
「人間が一番嫌がる質問だな」
画面がもう一度光る。
「分からん」
相談者。
「えぇ……」
「だがな」
スーマは続けた。
「医者ですら」
「刺された跡だけ見て」
「100%犯人特定できるとは限らん」
少し間。
そして珍しく真面目な声。
「ただし」
「腫れが大きい」
「痛みが強い」
「熱が出る」
「息苦しい」
「こういう時は病院行け」
相談者は短く返した。
「分かりました」
数十分後。
新しい通知。
「冷やしたら少し楽になりました」
スーマは頷く。
「なら今のところは大丈夫そうだな」
そして少し笑った。
「だが犯人はまだ近くにいるかもしれん」
相談者から。
「それ言わないでください」
誰も見ていないスマホの中で。
悪魔は小さく呟いた。
「人間はな」
「見えない相手にやられると」
「妙に気になる」
少し間。
「だが」
「蚊もダニも」
「お前のことを覚えちゃいない」
スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。
そして、ほんの少しだけ、優しい。
スーマのスマホ相談室。
今日もどこかで、静かに稼働中。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。




