ホッケを干物でしか見ないのは何故?
ホッケは開きしか食べた事ありません。
夕方。
スーパーの鮮魚コーナー。
スマホが小さく震えた。
通知には、やたら生活感のある疑問。
「そういえば」
少し間を置いて。
「ホッケって干物でしか見なくないですか?」
さらに続く。
「サバやアジは生でも売ってるのに」
「ホッケはだいたい開かれてますよね」
スーマは画面の中で目を細めた。
「……気付いてしまったか」
相談者は四十代女性。
晩ご飯のおかずを探している最中らしい。
スーマは腕を組んだ。
「いいか、人間」
画面がぴかっと光る。
「まず結論から言う」
少し間。
「ホッケは鮮度が落ちやすい」
数秒後。
返信。
「それだけですか?」
スーマは首を横に振った。
「それだけじゃねぇ」
しばらく間。
スーマは指を一本立てた。
「昔のホッケはな」
「北海道近海でよく獲れた」
「つまり」
「本州の人間からすると遠い魚だった」
相談者は頷く。
「なるほど」
「昔は輸送が弱かったんですね」
「そうだ」
スーマは続ける。
「今みたいに冷蔵トラックもない」
「空輸も一般的じゃない」
「だから傷みやすい魚は加工する」
画面がもう一度光る。
「そこで干物だ」
相談者から返信。
「保存食ですね」
「その通り」
スーマは満足そうだった。
「水分を減らす」
「旨味が濃くなる」
「運びやすくなる」
「長持ちする」
「いいことだらけだ」
少し静かになる。
そして相談者。
「でも今は冷蔵技術ありますよね?」
スーマは笑った。
「そこが面白い」
「今は生ホッケもある」
「北海道では普通に刺身で食う地域もある」
相談者は驚いた。
「刺身!?」
「そうだ」
「鮮度が良ければうまい」
「だが全国区ではない」
スーマは少しだけ意地悪そうに続ける。
「人間はな」
「最初に成功した売り方を忘れない」
ホッケ。
↓
干物が売れる。
↓
みんな慣れる。
↓
店も干物を置く。
↓
客も干物を買う。
「つまり」
スーマは肩を竦めた。
「ホッケは干物界で出世しすぎたんだ」
相談者から。
「そんな理由ですか」
「そんな理由だ」
即答だった。
「アジと言えば開き」
「鮭と言えば切り身」
「ホッケと言えば干物」
人間の頭の中では、
そういう役割が出来上がる。
夜になった頃。
最後の通知が届いた。
「なんか可哀想ですね」
スーマは吹き出した。
「何がだ」
「生でも美味しいのに」
「干物のイメージしかないじゃないですか」
スーマは少し考えた。
そして答えた。
「まあな」
「だが」
画面が静かに光る。
「一つの食べ方で国民的人気になれる魚なんて」
「そう多くないぞ」
誰も見ていないスマホの中で、
悪魔は小さく呟いた。
「人も魚も同じだ」
「たまたま得意だったことで」
「一生呼ばれることがある」
スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。
そして、ほんの少しだけ、優しい。
スーマのスマホ相談室。
今日もどこかで、静かに稼働中。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。
この話は「ナイトコードΩ 【残響の封印】」のスピンオフになります。
本編はこちら→https://ncode.syosetu.com/n5607ku/




