年配の人が髪を紫に染めるのは何故?
聞くに聞けない微妙な疑問。
昼下がり。
美容院の前を通りかかった時。
スマホが小さく震えた。
通知には、こんな疑問。
「昔から気になってるんですが」
少し間を置いて。
「おばあちゃん世代って、なんで髪を紫に染めるんですか?」
さらに続く。
「みんな示し合わせたみたいに紫ですよね」
スーマは画面の中で吹き出した。
「……お前、それ本人に聞く勇気ないだろ」
相談者は四十代女性。
子供の頃から抱えていた疑問らしい。
スーマは肩を竦めた。
「いいか、人間」
画面がぴかっと光る。
「最初に言っとく」
「本人たちは“紫にしよう”と思ってるわけじゃない」
数秒後。
返信。
「え?」
スーマは頷いた。
「だいたいここが誤解の始まりだ」
しばらく間を置く。
「年を取ると髪は白くなる」
「これは知ってるな?」
「はい」
「で、白髪を染める」
「ここまでは普通だ」
相談者も頷いている気配がする。
だがスーマは指を一本立てた。
「問題はその先だ」
『白髪染めの黄色味』
「白髪ってな」
「真っ白に見えても、染めると黄ばんで見えることがある」
「特に昔はそうだった」
相談者から返事。
「黄色っぽいのを消すためですか?」
スーマは満足そうに笑った。
「察しがいいな」
画面がもう一度光る。
「紫は黄色の反対側にある色だ」
「だから」
「黄色味を打ち消して」
「上品な銀髪や白髪に見せやすい」
相談者はしばらく黙った。
そして。
「つまり結果的に紫になる?」
「そういうことだ」
スーマは即答した。
「本人の理想は」
「紫髪」
ではなく。
「きれいな白髪」
だったりする。
少し間。
相談者は新しい疑問を送った。
「でも昔の人の方が紫率高かった気がします」
スーマは鼻で笑う。
「それも理由がある」
『昔のカラー剤』
「今と違って」
「昔はカラーバリエーションが少なかった」
「白髪をきれいに見せる方法も限られてた」
だから結果的に。
紫。
青紫。
薄いラベンダー。
こういう色が残りやすかった。
相談者から。
「なるほど」
「わざと目立たせてたわけじゃないんですね」
「人によるけどな」
スーマは笑った。
「中には気に入ってる人もいる」
「だが大半は」
少し言葉を選ぶ。
「若い人が思ってるほど、紫を目指してるわけじゃねぇ」
夕方。
最後の通知が届いた。
「長年の謎が解けました」
「紫じゃなくて白髪をきれいに見せるためなんですね」
スーマは頷いた。
「そうだ」
そして小さく付け加える。
「お前だってその年齢になったら分かる」
「髪の悩みは増えるぞ」
相談者から。
「嫌なこと言いますね」
スーマは吹き出した。
「悪魔だからな」
誰も見ていないスマホの中で、
悪魔はぽつりと呟く。
「若い頃は髪を増やしたがる」
「年を取ると色で悩む」
「人間は忙しい生き物だな」
スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。
そして、ほんの少しだけ、優しい。
スーマのスマホ相談室。
今日もどこかで、静かに稼働中。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。
この話は「ナイトコードΩ 【残響の封印】」のスピンオフになります。
本編はこちら→https://ncode.syosetu.com/n5607ku/




