おにぎりが高いのは海苔のせい?
お米の値段は下がって来てるんですがね。
夕方。
スーパーの弁当売り場。
スマホが小さく震えた。
通知には、短い不満。
「おにぎり高くなってません?」
少しして続きが来る。
「昔は100円くらいだった気がするのに」
さらに。
「これ、海苔が高いからですか?」
スーマは画面の中で片眉を上げた。
「……海苔だけじゃねぇな」
相談者は四十代男性。
値札を見るたびに昔の価格を思い出してしまう年頃だ。
スーマはため息をついた。
「いいか、人間」
画面がぴかっと光る。
「おにぎり一個ってな」
「米だけで出来てるわけじゃない」
数秒後。
返信。
「そりゃそうですけど」
「じゃあ何なんです?」
スーマは指を一本立てた。
「まず米だ」
「今、これが強い」
相談者は首を傾げる。
「海苔じゃなくて?」
「海苔もだ」
「だが米も上がってる」
スーマは続ける。
「米が上がる」
「海苔が上がる」
「具材が上がる」
「包装が上がる」
「運送が上がる」
「電気代が上がる」
少し間。
「店員の給料も上がる」
相談者から返事。
「全部じゃないですか」
スーマは頷いた。
「そうだ」
「だから厄介なんだよ」
しばらく沈黙。
そして相談者が聞く。
「でも海苔って結構影響ありますよね?」
スーマは少しだけ笑った。
「それはある」
「海苔は昔から不作や海の環境変化で値段が動きやすい」
「だからコンビニもスーパーも結構苦しんでる」
「だがな」
そこで言葉を切る。
「海苔だけ安くなっても、おにぎりの値段は元に戻らねぇ」
相談者はすぐ返した。
「なんでです?」
スーマは即答した。
「他が下がってねぇからだ」
画面がもう一度光る。
「人間は海苔を見る」
「だが企業は全部を見る」
「一つ下がっても」
「九個上がってたら意味がねぇ」
相談者は静かになった。
たぶん値札の裏側を想像している。
スーマは少しだけ優しく続けた。
「それにな」
「おにぎりって商品は安すぎた」
「え?」
「昔は競争が激しすぎたんだよ」
少し意地の悪い笑み。
「100円で売って当然みたいな顔してたが」
「作る側は結構ギリギリだった」
相談者から短い返事。
「そう言われると……」
スーマは肩を竦める。
「値上げは嫌だ」
「それは分かる」
「だが今のおにぎりは」
少し考えてから言った。
「海苔一枚の問題じゃない」
「世の中全体の値上がりを握り飯に押し込んだ結果だ」
翌朝。
また通知が来た。
「今日おにぎり買いました」
「前より高かったです」
少し空いて。
「でも前より具が多かったです」
スーマは鼻で笑った。
「そういうこともある」
誰も見ていないスマホの中で、
悪魔は小さくつぶやく。
「値段だけ見てると高く見える」
「だが中身も少し見ろ」
スマホの中の悪魔は、今日も毒舌だ。
そして、ほんの少しだけ、優しい。
スーマのスマホ相談室。
今日もどこかで、静かに稼働中。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。




