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何でも屋「スケープゴート」をどうぞご贔屓に!  作者: ねんねこ
2話:海辺の町に潜む者たち
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04.よくある厄介な依頼(4)

 嵐のような女、衣雪が去った事により真白の関心は次なる人物へと向けられた。

 ――直属の上司・矢木直影である。

 何せ一緒の依頼はかなり久々、それまで他に何の仕事を請け負っていたのか不明だ。下に回って来ない話である為、恐らくは碌でもない仕事なのだろうけれど。

 彼は寡黙なシゴデキ、勿論同期である久墨からも気に入られている右腕のような存在だ。ヤギ家なので真白としても昔馴染みではあるものの、衣雪と違ってこちらから声を掛けなければそのまま疎遠になりそうな程度の縁である。

 彼が今回のメンバーである件について目下の心配事は、直影とアルブスの面識はほぼ無さそうだという事。上司と部下ではあるものの、アルブスはスケープゴートに来て日が浅い。


「俺の顔に何か?」


 見過ぎていたのだろうか。意地の悪い笑みを浮かべた直影その人に尋ねられ、真白は大慌てて首を横に振った。


「いやー、衣雪姉さんも久墨さんも急ぎみたいだったので。何かあるのを、直影さんなら知っているかなって……」


 下手な答えを投げれば直影が何をしてくるのか分からないので、大慌てて話を逸らす。実際、久墨も衣雪も揃って忙しいなど別件であったとしても面倒事の前触れだ。

 ただ話を逸らせられればそれでよかった訳だが、真白の言葉を額面通りに受け取ってくれたグレンが非難がましい視線を向け、直影が何事か答える前に誰に出したいのか分からない助け舟を出した。


「説明されていない組織の内情を探るのは、コンプラ的に良くないだろう。同郷のよしみだからと、直影さんを困らせるな」

「グレンさんのそれ、久墨さんだけじゃなくてこっちにも適用されるんですね」

「当然だ。直影さんは俺の目標でもある」

「あ、そうですか……」


 久墨に並々ならぬ憧れを抱くグレンが、重用されている直影を目指すのは――成程、理にかなっているなと納得してしまう。

 わちゃわちゃと脱線した話題で盛り上がる若手に対し、ようやっと直影がその口を開いた。真白の誤魔化しなど分かっているだろう意味深な表情ながらも、衣雪の話題についてコメントを残す。


「そもそも衣雪は諜報、現場には滅多に顔を出さない。お前達は事前に作戦を立てる類の大仕事にあまり駆り出されないから知らないだけで、今回のような作戦会議にはよく参加している。奴の仕事は依頼の遂行ではなく、依頼遂行の為の下準備――忙しいのは今に始まった話ではないな」

「直影さんは割と頻繁に姉さんと会ってる感じです?」

「そうだ」


 そういえば、とアルブスが何やら不審な物でも見たかのような表情を浮かべる。


「あの面を付けた女……衣雪だったか、よく侍らせているな。顔が良いのを」

「はは!」


 何が面白かったのか、直影が手を打って笑い声を漏らした。

 アルブスの指摘通り、衣雪はよくホストか?と思うような青いツバメを連れ歩いている。そのラインナップは多岐に渡り、一種異様な光景だろう。あのアルブスが困惑顔で何だあれはと呟く程度には。

 答え辛い目撃情報に閉口していると、直影が事も無げにフォローでもなくただの事実を口にした。


「衣雪はツラの気に入った部下を連れ回す癖がある。そのせいで諜報チームは若いのばかりだが、人を見る目は確かだ。あれで一応、諜報に適性のある人間を入れてはいる」

「本当か、それは……」

「そうでなければ、お前も今頃衣雪の後ろを歩くツバメになっていただろうさ」

「何?」

「諜報に向かんだろうと、実働チームに入れられたんだぞ。お前。よかったな」


 アルブスが心底ゾッとしたような表情を浮かべる。

 あまりにもいつも同じ仕事をこなしているせいで慣れたが、確かにアルブスは彫りの深い美丈夫ではある。


「衣雪さんはともかく、久墨さんは本当に今回の仕事に参加されないのでしょうか?」


 紅蓮の寂し気な問い掛け。こちらとしてはいない方が簡単な仕事という意味合いになるのでいてくれなくて結構だ。

 肩を竦めた直影は首を横に振る。


「別件でいないな。奴は奴で多忙だ」

「そうですか、残念ですね」

「そも、久墨が出張らなければならない依頼などそうそうはない。あれは後進の育成にも力を入れているから、同じ依頼をこなしたいのであればお前が上に来るしかないな」

「はい、頑張ります!」

「程々にな」


 グレンはやる気に燃えているようだが、真白としては直影の言葉通り程々にやりたいものである。

 大体、力を入れれば入れる程この残機能力を活かして何度でも死ぬ、或いは仲間をシステム上の問題で殺す作業が増える訳だ。お優しい彼がそれに耐えられるところを想像できない。

 彼のような人物でも、回数を重ねればヤギ家のように残機を使用する事に抵抗を感じなくなるのだろうか。こういった類の個人資質が変容しているのを目にした事は、今の所はない。


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