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何でも屋「スケープゴート」をどうぞご贔屓に!  作者: ねんねこ
2話:海辺の町に潜む者たち
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03.よくある厄介な依頼(3)

 その後、衣雪は地図で示しながら効率的な車での逃走ルート、万が一車が使えなくなった場合の逃走ルート、地元の人間しか知らないような裏道などを高速で説明した。説明する気があるのか疑わしい速度に、久墨ですら目を白黒させている程だ。


「え、ゴメン、衣雪。巻きすぎじゃない? ねえ、大丈夫? 逃走ルートとか大事なんだけど……?」

「巻く、つったじゃん。議事録取ってないの? 後で聞き返せよ」

「スピードラーニングか?? え、ちょ、大丈夫? これ行けそう、直影?」


 久墨の問いに直影はあっさり首を縦に振った。


「問題ない。頭には入っている」

「嘘でしょ。えー、真白とか絶対に分かってないって」

「車のハンドルは俺が握る。どうせ込入った町中の運転など、真白にはさせられない」

「お前か? 真白を甘やかしているのって、お前なの?」

「効率の問題だ」

「教えるの面倒臭がってないよね? うーん、グレン達はどう?」


 話を振られたグレンが胸を張って頷く。嫌な予感しかしない挙動だ。


「議事録を聞き返しますのでご心配なく。真白にも勉強させます」

「頼むよ本当。逃走経路が大事だから! アルブスは?」

「問題ない。理解した。そもそも、前職のせいでパールシティの町並みはよく理解している」

「これだから中途入社は頼もしい! 大丈夫そうな気がしてきたな……。全然期待してないけど、真白は?」


 はは、と優秀な同僚達を前に真白は乾いた笑い声を漏らした。


「全然分かりません」

「だよねー! いいよ、逆に! 逆にね! お前は嘘を吐いていないだろうなっていう安心感が凄い。私が解説したいのはやまやまだけれど、これから別件があるんだよね。直影も多分今から忙しいでしょ……えー、アルブスくん二人をよろしく」

「……ハァ。仕方ない」

「よしよし。何とかなりそうだ。あ、準備期間だけど長めに3日取るから。今回は依頼人と合流の関係で前倒しとかはないから気を付けてね」


 承知しました、とフライングしがちなグレンが返事をする。彼はやる気が凄いので、なるべく依頼を早く済まそうとしがちだ。


「他に何か連絡とか……ああ。そうだ。私と衣雪は別件があって拠点にいないから、何かあったらスマホに連絡してよ」


 待て、と衣雪が言葉を遮る。


「何かあっても私は電話に出ないから連絡してこないでよ。次の仕事中だ」

「はい。衣雪には連絡しても無駄なので控えてね。ま、諜報を電話で捕まえるような事には基本ならないか……。直影は? 何かある?」

「ない」

「おけ。じゃあ解散! 私は次に行きます!!」


 片付けすらせず会議室から一番に出て行った久墨を見送る。これはもしかして、この護衛依頼以外に重い依頼が重なったのだろうか。衣雪も忙しそうなのを見るに、予定がブッキングしたと考えるのが自然だ。

 ともあれ準備しなければ。逃走経路のスピードラーニングが待っている。車はともかく、徒歩でのルートは押さえておく必要があるだろう。


「真白」


 不意にまだ会議室に残っていた衣雪に声を掛けられた。

 久墨は酷い慌てようだったけれど、彼女にはまだ時間的な余裕があるらしい。振り返ろうとした瞬間、強制的に肩を組まれた。


「衣雪姉さん、何か用事ある感じですか?」

「おうさ」


 彼女とはプライベートで親交がある。そもそも同じ大地で同じように育った同郷だ。久墨や直影とも一定の交流があるのは当然である。

 衣雪はごそごそと持っていたカバンを漁ると、何かを真白へと押し付けた。


「久墨はどんな時でもあんな感じだからアレだけどさあ、今回の依頼は本当にヤバいヤツだから。これは私からの餞別だと思って持っとけよ」

「何ですかこれは」


 小さな丸い機器だ。サイズとしてはビー玉より少し大きいくらいである。見た事のないブツを前に真白は小首を傾げた。


「小型爆弾。自爆特攻用だ」

「は?」

「一応、遠隔操作用のスイッチはこれな」

「見た目、ただのライターじゃないですか! え? 着火しろってこと?」

「見た目がライターなだけで、そのボタンを押し込んだら起爆するぞ」

「あっぶな!!」


 喫煙者が誤ってやらかしていそうな起爆スイッチである。幸いな事に、真白は煙草を吸わないのでそういう間違いは起こらないだろうが。


「何かあったらコレで全て吹っ飛ばせば万事解決だぞ、真白」

「衣雪さん、この依頼で色々調査してくださったんですよね? 知っていると思いますが……この依頼、護衛なんですよ。全て吹っ飛ばしたら駄目です。そもそも諜報チームでこの攻撃性が高い支給品使うことあるんですか?」

「あるよ、証拠隠滅用」

「あー、そうでした。うちはスケープゴートでしたね」


 普通ならば確実にあり得ない使用法を伝授され、思わず納得してしまう。死んだら情報を持ち帰れないなどという常識は捨てろ。3日で復活するのだから、任務地によってはショートカットにもなりえる。

 溜息を吐きつつも、真白は小型爆弾をポケットに捻じ込んだ。


「起爆スイッチって使わなくても起爆できますよね? 特攻用とか言ってましたし」

「できるよ。スイッチがないと起爆できなかったら、いざという時に爆発できないじゃん」

「遠隔はあくまで搦め手って事ですね。ま、これ持って突進がスケープゴートとしては正しいのか……」

「あ、そだ。今回は私が申請して使用権取ったけど、本来なら事務に申し出と申請書出さないといけないから」

「めんどくさ……。え、わざわざ私の為に取ってくれたんですか? 衣雪さん」

「そうだよ。先輩の優しさに咽び泣け」

「わーい」


 一部始終を見ていたグレンが心底引きましたと言わんばかりの顔で、とうとう苦言を呈する。


「いや、絶対に使うなよ真白。お前の手には余る支給品だぞ、それ」

「分かりました!」

「テキトーな返事を止めろ」


 するり、と肩に回っていた衣雪の腕が離れる。

 ぐぐっと伸びをした彼女は手をひらひら振りながら踵を返した。


「そろそろ私も次の仕事へ行くかな。それじゃ」


 その背を見送ったグレンがぽつりと言葉を漏らす。


「俺はあの人の事をよく知らないが……かなりのボマーらしいな、衣雪さん」

「そうなんですか? うーん、でも爆発とか派手なヤツ好きそう」

「そもそも諜報チームはどうしようも出来なくなったら爆散がお家芸みたいな所があるからな。そこまで追い込まれるのは稀らしいが」


 グレンの困惑した様子の噂話を聞いていた直影が堪えきれなかったように笑い声を零した。同期の噂話がお気に召したらしい。


「ああいや、懐かしいな。まだ平社員だった頃、奴はよく依頼を爆発落ちで終わらせていた」

「成程。この噂は本当だと」


 ――全然関係ないけれど。グレンさんと衣雪さん、合わなさそうだなー。

 所属チームを決めたのは久墨だが、その辺りを分かった上でグレンを実働チームに入れたのかもしれないと思う。


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