17.完了報告
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「はあ……」
酷く重い気分のまま、ただ一人生き残ったグレンはようやくスケープゴート拠点へ戻って来ていた。気落ちしてはいても安全に運転し、車庫へ入れる。
屋宜久墨に仕事の報告をしなければならない。
今回はぐだぐだ過ぎた。小言の一つでも貰いたいくらいには。
ぐったりとした状態で聖堂へ入る。真白の形見となってしまった肩掛けカバンの間抜けな色味にすら疲労を覚える程だ――
「お帰り~。魔導書は回収できたかな、グレン?」
「あ! 久墨さん……!」
ダウナーな気分が全て吹っ飛んだ。偶然だろうが、珍しく久墨その人が聖堂で茶をしばいていたからだ。休憩中だったのかもしれない。
「一人だけ? まあいいや、報告を聞こうかな。あ、私は今、文字類を見たくないからここでいい?」
「はい。どこでも構いません、聞いていただけるのなら」
「よろしく」
促されるまま、まずは回収物を提出。大まかな経緯と、死亡者が2人出た報告を行う。
それを受けた久墨はあちゃー、と顔をしかめた。
「真白、今月やっぱり12日しか働いてないことになるな……。もう終わりだしね、今月も」
「すみません、俺が付いていながら……! アルブスはともかく、真白は……」
「あー、いいよいいよ。まさか運転が出来なくて強制的に囮役になるなんて思わなかったからさあ。困ったな、私には車の運転の何が難しいのかさっぱり分からないし。そんな事より、今回もご苦労様」
「アルブスは勤務日数は足りているのですか?」
「彼、基本スペックが高いから滅多に死なないんだよね。だから今月1乙だけだよーん」
「そうなんですか?」
「報告を聞いた感じ、ちゃんとトドメを刺されているのなら復活は72時間後……捕まってまだ生きていたら還って来られないけど大丈夫かな。そっちが心配」
何でも屋・スケープゴートは神格存在である白黒ヤギの権能によって成り立っている。
彼の邪神は下僕達に一つだけ能力を授けた。
――身代わりを生成する異能力をだ。グレンも久墨も、当然真白やアルブスだってこの教会の地下に本体は眠っている。活動しているのは生成された身代わりだ。
この身代わりが死亡した場合、72時間で再生成される。
真白は今月死亡し過ぎており強制的に3日休んでいる為、勤務日数が終わっている数字になったのだ。
などと言いつつも。
――それでも、俺は未熟だ。そこまで割り切って平気で同僚を囮になど出来ない。
尤も、真白や久墨、要はヤギ家にはその心の底が見透かされているようだが。自分自身が死ぬのには抵抗が無いくらいに慣れた。仲間の無残な死体を、それが身代わりと分かっていても見るのが心身にあまりよくないのだ。
「ま、こういう捕縛事故が起こらない為に真白をメンバーに入れた訳だし。大丈夫でしょ」
「どういう意味ですか?」
「真白はうっかりで捕まった仲間の介錯が出来る子だからね」
――あるのか、そういうケースが。
だから真白は同郷のいないこの外部2人が指揮を執るチームによく混入させられるのかと思い至る。恐らく自分には出来ないので、久墨の判断はやはりいつだって正しいのである。
唖然としているのが伝わったのか、久墨は目だけ細めて笑みを浮かべた。
「お前は優しいね。そういう人間も必要だから、改めなくていいよ。今日はゆっくり休んでおいてね」
「え、ああ、はい。ありがとうございます……」
「あ。暇なら私とおやつでも食べる? 戻りたくないんだよねー。書類が溜まっててさあ」
「是非。ああそうだ、書類整理ならお力になりますよ」
「助かる~」
***
「残機、復活!!」
教会の地下。真白の声が高い天井に反響する。
この地下の空気というのが何となくホラーじみていて苦手なので、恐怖を吹き飛ばす為の儀式のようなものだ。ほぼ同時期に死亡したと推察されるアルブスがまだいるかと思ったが、彼も彼でさっさと地上へ行ってしまったらしい。
長居したくないので足早に移動し、地上へ。真っ直ぐ聖堂へと向かった。
「おはようございます」
聖堂ではグレンとアルブスが小さな声で会話しているところだった。恐らく仕事がどうなったのかを聞いているのだろう。真白もしれっと参加した。
「来たか、真白」
「アルブスさん、私を待っていてくれても良かったのですが」
溜息を吐かれてしまった。
ここでグレンによるフォローが入る。
「やっと揃ったか。お前達が揃って死んだあと、どうなったのか説明しよう。何度も説明したくないからな」
「お待たせしました」
復活を待たれていたようだ。
報告を聞き、仕事が無事に終わった事に安堵する。勤務日数も足りてない上、仕事も失敗しましたでは流石に久墨から叱られるだろうからだ。
アルブスが渋い顔で感想を漏らす。根は真面目な男なのだ。
「ナイフ1本でカルト教団との戦闘は厳しかったな。様子がおかしい時点で武器類を用意しておくべきだった」
「でも殺人は最終手段ですよ、アルブスさん。私達と違って普通の人は命なんて1つしかありませんし。軋轢を生むとうちを利用してくれなくなるかもしれないでしょ」
「あの連中にこの高級何でも屋を雇う金など無いだろう」
「えー、分からないですよ!」
真白、とグレンが深い溜息と共に言葉を遮る。あまりにも重々しい雰囲気に背筋がぴんと伸びた。
「久墨さんがまともに運転できるようになれと仰せだ。空き時間に俺が練習をさせる」
「えっ、それは……業務ですか?」
「業務外に決まっているだろ。久墨さんに迷惑と心労を掛けるな」
「ま、待ってください。アルブスさんだって運転下手糞なんでしょう?」
真白の悪足掻きにアルブスがふん、と鼻を鳴らした。
「私は運転が嫌いなだけで、別に出来ぬとは言っていない。お前よりは上手に運転できるわ。一緒にするな」
「ええー! 仲間だと思っていたのに」
「そういう訳だ。後で車庫に来い。それと、あまり死ぬな。練習時間が確保できなくなる」
――面倒臭い事になってしまった……。
嬉々として死なないよう誘導してくるグレンには悪いが、恐らく今後も自分は死亡しまくると予想される。
彼はスケープゴート屈指の『優しい』人物なのだが、如何せん優し過ぎる。人が死ぬのにいつまで経っても慣れず、この職場にいながら死なないよう提案までしてくる程だ。
――残酷だし、何でも屋を辞めるのも難しいから言わないけれど。うちの会社は死んでナンボみたいな所があるのは分かっていて欲しい。
何でも屋・スケープゴート。
何でも請け負います。
犬の散歩、ショッピングに護衛、探し物。勿論、貴方の身代わりにもなりましょう。
端的に何をする組織なのかを示す客引きの文。スケープゴート紹介のホームページを作成し、これらの紹介文を掲載したのは屋宜久墨である。




