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何でも屋「スケープゴート」をどうぞご贔屓に!  作者: ねんねこ
1話:よくある探し物のお仕事
16/19

16.収穫祭(4)

 ***


 魔導書を受け取った真白は村の中央を目指して走っていた。

 ゴールは車の停車位置だが、どのみち中央の広場を突っ切ることになる。事情を知らないグレンを拾う必要もあるので必須のルートだ。

 既に魔導書は肩掛けカバンの中に入れた。両手は空いているのが望ましい。


「……いた。グレンさん!」


 まだ中央にまでは騒ぎが伝わっていない。それを良い事に真白は走りながら大声で用件を伝えた。


「グレンさん、回収しました! 行きましょう!」

「了解」


 走って来た真白に視線が集まるものの、止めに入る者はいない。

 ――が、流石にグレンまで並走し始めればざわめきが広がった。足を止めてはならない。後ろから騒ぎの伝達役が追ってきているはずだからだ。


「アルブスは?」

「囮やってます。警備員とドンパチ始めちゃったみたいで」

「何……? どうやって回収したものか……」

「……」


 ここで一応、仲間を回収しようという意識を向くのがやはり外部からきたヤギの血を引かない者なのだと思う。


「一先ず車を回収するぞ。武器類もそこに積んでいるからな」

「はいはーい」


 背後が俄かに騒がしくなってきた。ややあって、「待て」「逃がすな」などの怒号が飛び交い始める。事の伝達が終わったのだろう。本性を表してきた。


「真白。見ろ、前から誰か来る」

「車に向かってるの、バレバレだったみたいですね」


 当然の帰結である。

 この車へ行かせまいとする村人の集団を押しのけて車に乗り、発進。この険しい山道をそれなりの速度で下りる――


「次の囮役は私みたいですね。はいこれ、魔導書です。カバンごと渡しちゃいますね」

「……いや、囮なら俺が」

「誰が車を運転するんですか。私、この山道を帰れませんよ」

「――……それも、そうか……」


 グレンへ半ば無理矢理カバンを押し付ける。既に拳銃と幾つかの弾倉をポケットに捻じ込んだ。

 あまり乱射したくはない。

 前を塞ぐ村人達に向けて銃を構える――怯みはするが、退く気はないらしい。この献身的で恐れに立ち向かう勇気はカルト教団特有の動きである。

 二連続で破裂音が響く。

 銃弾2つで2人倒れた。どこに当たったのかはよく分からない。今度こそ恐怖にざわめく村人数名が棒立ち状態になる。


「お願いします、グレンさん」

「ああ……。任せろ」


 呆然と立ち尽くす村人達を押しのけ、グレンの背中が村の外へと消えて行った。

 ここからは車が追いつかれない安全地帯へ行けるまで、なるべくの時間稼ぎとなる。アルブスの回収などと言っている場合ではない。


「そこで止まってください! 動いたら撃ちます」


 時間を稼ぐ為には、銃弾を温存しなければならないのでそう声を上げて今度は背後から追いかけてきた村人の集団を威嚇する。彼等はとにかく集団行動だ。これなら引き金を引きさえすれば、必ず誰かには当たってしまうだろう。

 だがやはり、そう上手くはいかない。

 狼狽える村人を掻き分け、武装している数名が眼前に躍り出た。警備員である。


「止まるのはお前だ、旅行者。僕達も当然、武装している。変な行動は起こすな」


 警備員さん、と老婆がしゃがれた声で言葉を紡ぐ。


「もう既に教会へ侵入した男は殺してしまいましたよ。死んでいるので儀式には使えんでしょう?」


 そう言って老婆が震える指で真白を指す。そうだそうだ、と若い男が同調した。


「一人逃げたが、まだそこに儀式に使える女が生きている」

「魔導書をどうせ取り戻さなければいけないのでは?」

「あの体格がいい男を無理矢理引き摺って連れて帰るのは難しいんじゃないか」


 ――生体じゃないと儀式に使えないから、深夜の襲撃はなかったって事ね。

 どうせ時間稼ぎをしなければならないので、真白は村人達の会話に参戦した。


「あのぅ……ちなみに儀式って、その、どんな……?」

「生きたまま腹を捌いて川に流す……「 」様へ血肉を捧げる儀式じゃ」

「水質汚染ヤバそうな上、コテコテですね。生きたまま……うーん、生きたままかあ。痛そ」


 老婆の端的な説明に顔を歪める。

 生きたまま捌かれた上、川に捨てられるのか。なかなかハードな儀式である。あの石造りの簡易祭壇は何だったのか。


「――あ、アルブスさん……魔導書を最初に持ち出した私達の仲間ってどうなりました?」

「ハッ、お前等どこかの異教徒か? それとも同じ「 」の信仰者か? 魔導書だけ狙っていたようだしな。勿論、お仲間は先に殺したよ」

「それってちゃんと息の根を止めて、完全に死亡したのを確認したんですよね?」

「え? 気にするところ可笑しいだろ……まあ、うん。ちゃんと死んでる」

「あ、ご確認いただきありがとうございます」


 正直、コソコソと情報収集している時より悪だくみが露出して何をしても問題がなくなった後の方が緊張しなくていい。狂人ロールプレイをしていると、日々の人間社会で溜まっていたストレスが解消されていくかのようだ。

 腕時計に視線を落とす。話をしている間に十数分経過していた。

 グレンは車で移動しているので、これだけ時間を稼いだら十分だろう。今回は相手がド素人で助かった。問答無用で拘束されていたら儀式の生贄として生きたまま腹を捌かれるところだった。絶対に痛いので遠慮したい。


「よし。時間も経ちましたので私もお暇させていただきます! もっとマイルドな儀式なら参加しても良かったんですけど、痛そうなので! ああそうだ、もし何かありましたら――何でも屋・スケープゴートを是非ご利用ください」


 誰もが異様な空気に一瞬だけ言葉を失い、硬直する。

 その隙を見逃さず、真白は手に持っていた拳銃で自身の頭を撃ち抜いた。


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