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何でも屋「スケープゴート」をどうぞご贔屓に!  作者: ねんねこ
2話:海辺の町に潜む者たち
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01.よくある厄介な依頼(1)

「パールシティの魚料理は絶品なのですよ」


 上品で静かな女の声が、大衆向けのレストランでしっとりと反響する。

 既に日は傾き、昼食と言うには遅すぎるが夕食と言うには早すぎる――そんな時間帯だ。必然、店内にあまり客はおらず女とその正面に座る男の密やかな話し声は、内緒話というには秘匿性が低い状態だった。


「久墨さんは何も食べないのでしょうか? 勿論、私の奢りですよ」


 男――久墨はその提案に小さく拒否を示した。

 唇は緩やかに弧を描いていて、一見するとにこやかだがよく見ると目がまるで笑っていない、少しばかり不気味な男である。


「お気遣いなく。仕事中なのでね。それに、今何か腹に入れたら夕飯が入らなくなります」

「そうですか? 私だけ食べてしまって、少し申し訳ないのですが」

「私の事は気にせず心行くまで食事を楽しんでください。貴方は腹に何か入れておかないと、この後どうなるか分からないのだから」

「……」


 ――どうなるのか分からない。

 そう。彼が勧めるままに食事など摂っているからうっかり忘れてしまいそうだが、今後の展望が一切予想できない状況に立たされているのだった。

 ざらざらとしたような不安に心臓を撫でられるような心地を味わっていると、それを悟ったのか何でも屋店主が飄々と依頼人を落ち着かせる為の言葉を口にする。


「時間が押しているので、依頼の話でも始めましょうか。手は止めなくて結構ですよ。高い依頼料を頂く予定ですから。何から何までこの何でも屋――スケープゴートにお任せを」


 ***


 真白はスケープゴート拠点内にある、いつもの会議室に朝一で招集されていた。

 いつもの事だが、本日は屋宜久墨のテンションが驚く程に高い。相当高い依頼を受けたのだろう。ウキウキで浮足立っているのが分かる。


 ――そしてこの、メンバー……。

 ちら、と真白は集められた愉快な仲間達の顔を見やる。

 グレンとアルブスは最近よく組まされる、比較的歳とキャリアが近いメンバー。いつものメンバーなので何も問題はない。

 問題はこの2人だ。

 実働チームのリーダー、つまりは直属の上司である矢木直影。そして諜報チームのリーダーである矢木衣雪である。

 ちなみに二人は同じ『矢木』ではあるが、特に血の繋がった兄妹という訳ではない。そもそも読み方が『ヤギ』の人間はほんのりと全員どこかで血が繋がっているというややこしい家系図だ。

 一説によると血が濃くなりすぎないように、字を変えて管理しているらしいのでリーダー2人はかなり血統が近いかもしれないけれど。どれだけ体裁を繕おうと、所詮はカルト教団の1つであるスケープゴートもこういった生々しい人間社会から乖離した歪みを内包せざるを得ないという訳である。


「――真白。俺の顔に何か?」

「あ、いや、まさか同じ仕事なのかなーと思いまして」

「ハハ」


 上司・直影が乾いた笑い声を漏らす。

 彼は精悍な顔つきの男性だ。久墨・衣雪は同期なので年齢帯はその辺りである。常に冷静であり、口数は多くはないけれど普通に冗談を言ってくるようなタイプ。関わりが多くなればなる程、味が出て来る御仁なので初対面だと取っ付き辛いような感覚があるだろう。なお、本人に人見知りの気は一切ない。


「直影。真白は私達がいるから、今回の依頼がやべーヤツなんじゃないかって心配してんだよ。言わせるな」

「無論、分かった上でからかって遊んでいる」

「ああ! なんて可哀想な真白! 可愛い後輩に意地悪するヤツが上司で……おねえさんは涙が止まらないよ。ふふふ……」

「心にもないことを。何が涙だ」

「お? お前、私が本当に涙を流していない証拠でも出せるのか?」

「その面、剥ぎ取って確認してやろうか」


 一方で衣雪は非常にお喋りだ。

 直影が言っている通り、彼女はいついかなる場面でも顔を覆い隠す面を装備している。本日は狐面を使用しているが、日によってバリエーションは様々だ。故に、彼女の表情はおろか顔すら知らない者も多くいる。

 中背で、すらりとしたモデルのような体型。情報収集で目立つのは御法度なので、この薄い身体に色々と装備してどこにでもありそうな体型を作り出し、市井に紛れ込む。体型に関しては減らすより増やす装備の方が楽らしい。


 2人のパーソナルデータはいい。

 問題は上司2人がこぞってこの場にいるという恐ろしい事実だ。しかも最悪な事に、店主の久墨が信じ難い程の上機嫌。高額で高難易度の依頼に違いない。


「絶対ヤバい仕事じゃん……。穏便に犬の散歩とかであってくれ……!」

「その場合の犬は、我々が想像する犬とは異なる可能性が高いが……それでもお前が望むのならば、俺も犬の散歩である事を願おうか」

「もー! 凄く絡んできますね、直影さん!!」

「この面子ではな。誰を突けば一番面白い悲鳴が聞けるかという話だ」


 チラ、と直影が集まったメンバーを見回す。

 確かにグレンとアルブス、真白で並べば自分でも自分自身をからかい先に選ぶだろう。アルブスからは無視されそうだし、グレンはクソ真面目でつまらないだろうからだ。


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