39.大賢者
「なんだったんだろ……」
キュウ、と目を回すダイナミックホグの上で、アリスは困惑しながら剣を収めた。
「倒すのは倒しちゃったけど、よかったのかな……?」
このモンスター、これでもれっきとしたユニークである。
硬く重く、また膨大なHPを有するのが特徴だが、反面動きは鈍重なため、アリスが苦戦することはなかった。
その上【魔剣ダークヴルム】の【ディープイノセンス】が発動。
低確率で即死状態を与えるこのスキルはLUK値に依存するわけだが、アリスのLUKはほぼ最低値。
ほとんど発動することがない即死が、この場で発動してしまった。
それ故に、ダイナミックホグはユニークモンスターながら、これ以上無いまでに呆気なく、光の粒子となって消えたのだった。
「あ、アイテム。それにスキルも」
《ドロップアイテムを取得しました》
《ユニーク装備【飽食のショートダガー】を取得しました》
《ユニークスキル【大喰らい】を習得しました》
《称号【美食家】を取得しました》
「【飽食のショートダガー】……【HPドレイン】と【MPドレイン】付きのナイフかぁ。スキルは強いんだけどなぁ。ユニークスキル【大喰らい】……こっちは、お腹がいっぱいになっても食べられるようになるスキル? どうやって使うんだろ……」
慣れず頭を使ったせいか、アリスのお腹がきゅう……と可愛らしい音を鳴らした。
「変なスキル手に入れたからかな。お腹すいちゃった。一回ログアウトして、何か食べてからまた考えようっと」
と、アリスは電脳世界から身を離した。
『プレイヤー名アリスの要請を受諾しました。これよりスキルの分解、統合を開始。プレイヤー名アリスの食欲を外殻形成、クリア。食欲のアルゴリズムを計算、構築。構築想定時間三十秒。クリア。世界に新たな叡智が誕生しました』
――――――――
「あれェ?!!」
おにぎりを咀嚼中、行儀悪くもスマホを眺めていたアリスが目を丸くした。
「【化け蜘蛛の盾】の【捕食】、【飽食のショートダガー】のドレイン……それに【大喰らい】が統合されて新しいスキルになってる?!! なんで?!! 私【大賢者】使ってないよね?!! あれ、あれぇ?!!」
もぐもぐと食べかけのおにぎりを飲み込み、穴が空くほどスマホのステータス画面を見つめる。
しかし何度見直しても同じ。
「これ、もしかしてバグ……? 一度志郎さんに……」
prrr……
『もしもし?』
「あ、志郎さんゴメンなさい急に電話して。あの、今大丈夫ですか?」
『ああ。どうかしたか?』
「あの、それが」
かくかくしかじか。
「ってことなんです」
『【大賢者】が勝手にスキルを統合した……か。それでバグを疑っているということだな』
「はい……。NEOはバグもグリッチも無いっていうのはわかってるんですけど。やっぱり気になっちゃって」
『メインのスキルや装備が消失したり、プレイに不具合が出たわけではないんだな?』
「はい」
『おれの方で確認してみよう。問題があれば修正し連絡する。取り立てて問題が無いようなら、そのままプレイを続けて構わない』
「わかりました。でも、スキルが勝手に発動することなんてあるんですか?」
『普通は無い。だが、知ってのとおり【大賢者】は普通じゃないからな。何かしらのイレギュラーを起こしても不思議じゃない。とにかく、お前は気にしなくていい。【大賢者】はお前の力であり、お前の味方だ。それはおれが保証する』
心配するなと言い、通話は終了した。
訝しむところはあったもの、アリスは志郎の言葉を信じ、改めてステータス画面に目をやった。
「強くなるのはいいけど、あんまり変なことされると困っちゃうんだからね。【大賢者】」
画面を軽くタップしたとき、スマホに着信が。
「わっ?!」
驚いて床に落としてしまったスマホを拾うと、アリスは通話の相手にまた驚いた。
「も、もしもし?」
『おつかれアリス』
「黎果さん、こんにちは。おつかれさまです」
『ゴメンね急に。なんかアリスの声聞きたくなっちゃって。今平気?』
「はい、大丈夫です。ちょっとログアウトしたところで」
『そっか。今から時間ある? デートしようよ。今って志郎の家に住んでるんだよね? 最寄りの駅で待ち合わせしよ。一時間後くらいでいい?』
「あ、はいっ。わかりました。それじゃ」
一時間か……と時計を見る。
服を選んで軽く髪を整える時間はあると、アリスはベッドから足を下ろした。
鼻歌を歌いつつ部屋の扉を開けようとしたところで。
「…………デート?!!」
レイこと七峰黎果の戯けた文句に、顔を真っ赤にしたのであった。
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