40.あたしと
「おいすー」
一時間後、アリスと黎果は駅にて邂逅した。
「黎果さん、こんにちは」
「ゴメンね急に呼び出しちゃって。そのワンピース可愛いね。アリスっぽくて」
「そうですか? エヘヘ、ありがとうございます。黎果さんも……」
黎果の服を褒めようとして、上下をジャージでまとめた野暮ったさに気付き口が止まった。
「あたしオシャレとか興味無くてさ。人前に出るときはちゃんとするんだけど。アリスならいいかなって」
「い、いえ、そんな黎果さんもカッコいいです」
「ありがと。とりあえずどっか入ろ」
近くのカフェへ。
黎果がコーヒーをブラックで注文するのを見て、アリスも同じものを注文したが、苦くてとても飲めたものでなく顔を歪ませた。
「うえぇ……」
砂糖とミルクを追加してやっと飲めるようになった辺りで、黎果は話を切り出した。
「最近どう?」
「どうって、NEOですか?」
「まあそれも含めいろいろ? 近況報告的な」
「近況報告……毎日楽しいから特に……? あ、もうすぐギルド同士でバトルします」
「【ROSELIA】でしょ? どう? 勝てそう?」
「勝ちます……って、まだハッキリと勝ち筋が見えてるわけではないんですけど。でも、精一杯頑張ります」
「強いよホロウは。魔法だけならあたしより」
「黎果さんより……」
最強がそれを口にする重みを、アリスはひしひしと感じた。
「あたしが特別気にしてるゲーマーの一人でもあるからね。スタイルは一貫してストイックで、どんなことにも手を抜かないし、プレイヤースキルにあぐらをかくこともしない努力型の超人ってとこかな。あんな性格だから、誤解されがちなとこもあるけどね」
「私もホロウさんの配信のアーカイブを観ました。リスナーを楽しませるような魅せるプレイはしてないのに、ホロウさんの動きの全部が目を惹きつけるような感じがしました」
「ホロウも天才だから。あたしとか、アリスと一緒で」
「わ、私は自分のことそんな風に思ったことは……」
照れた風に言い澱むアリスを、黎果は小さく笑った。
「天才にもいろんなタイプがあるから。アリスはそうだなぁ、人に愛される天才かな? 小動物みたいな」
「しょ、小動物……?」
「アリスみたいなペットなら、あたし喜んでお世話するよ」
「それって、褒めてるんですか……?」
「まあね。クスクス」
いくつか当たり障りない会話をした後。
「なんかお腹すいた」
と、黎果はアップルパイを注文した。
「あむ、んーんまい。アリスはいいの?」
「ご飯前に食べると雫ちゃんに怒られちゃうから」
「いいなぁルームシェア。あたしもご飯作ってほしい。アリスたちのとこ勝手にお邪魔しようかな」
「アハハ、いいですね。楽しそうです」
「ご飯食べさせてもらって、洗濯も掃除もしてもらって。一生お世話されるだけの人生送りたい。あ、アリスに飼われるのもアリかなぁ。歳下とか結構好きだし。そういえば、アリスって好きな人とかいるの?」
「ほぇっ?!」
「あ、友だちの好きじゃなくてちゃんと恋愛の方ね」
「いいいいないです! 何言ってるんですかもうっ!」
「ふーん? じゃあ興味は?」
「きょ、興味って……そういうのはあんまりわかんないです……。恋愛したこともありませんし……」
「モテそうなのに。あ、じゃああたしと付き合ってみる? 試しに」
「ほえぇ?!」
顔を真っ赤にして慌てふためくアリスに、黎果はプッと吹き出した。
「ウソウソ冗談。半分は」
「もうっ、黎果さん! そんな意地悪言うんだったら帰っちゃいますからね!」
「えー? じゃあ帰る前に用件だけ……アリス、あたしとバトルしない?」
「ほぇ……?」
時が止まったかのように呆けるアリスに、黎果は言葉を続けた。
「今すぐってわけじゃないんだけどさ。配信もギャラリーも無しで、あたしと1v1。どう?」
「どう、って……それは、もちろん……。でも、なんで急に」
「見てみたくなったんだよ。今アリスがどこにいるのか」
「黎果さん……」
「プッ、アッハハハ。そんな固い顔しないでよ。べつに命の取り合いしようって言うんじゃないんだから。ただやるからには真剣だし手加減もしない。どう? やる?」
アップルパイの切れ端にフォークを突き刺し、まあ……と微笑む。
「ホロウに負けるようなら、今はまだあたしには遠く及ばないってことになるけど」
まずは勝っておいで。
黎果はそう言った。
「ヤりたいでしょ? あたしと」
百獣の王さえ震え上がるだろう優しい眼差しで。
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