33.次なる戦いの予感
「あれェ?!」
目覚めた頃には正午前。
遅めの朝食を終えたアリスは、ログインするなり大きな声を上げた。
「ど、どうなされたんですか?」
「見てよこれ! 私の剣が変わってる!」
【魔剣ダークヴルム】
片手剣/ロングソード
MP+70 STR+30
レアリティ:S
スキル
【ディープイノセンス】……攻撃に毒属性を付与。クリティカル命中時に低確率で即死を与える。環境によるダメージ、ステータス異常を無効化。
【形状変化】……大剣に変化。STRが更に+20されるがAGIが-10される。
「寝る前はこんなんじゃなかったのに! んん?!」
「強くなってるしべつにいんじゃない?」
「何か不都合でも?」
「無いけど……なんでぇ? 寝ぼけて【大賢者】使っちゃったのかな……」
「まあまあ。結果オーライって感じじゃん」
「そうですね。ダンジョンもこれまでより難易度が上がりますし、ここから先は敵もどんどん強くなりますから、装備の強化は必須です」
「そうなんだけど……んん」
「では改めて、今日はギルドホーム建設のための土地探しを」
意義無しと四人は街の散策を開始した。
【案内人の案内状】を頼りにそれらしい空き地を巡ること数時間。
土地の金額や広さ、周囲の利便性を考慮した結果、候補は幾つかに絞られた。
「やっぱりここが一番いいかな」
「街の中心からは外れていますが、その分静かで土地も広く価格も無理無く手を出せる。良いと思います」
「じゃあ決定ってことで。申請出しちゃうね」
土地の購入にはその街を運営する市参事会への申請が必須となる。
申請の受理にはプレイヤーのレベルや所持ゴールドの他、素行やNEOへの貢献度が加味される。
アリスたちの場合それらに問題は無く、今日中には土地を購入出来るだろう。
「これでよしっ、と。あとはウラちゃんに報告すればオッケーだね」
「受理待ちにどれだけの時間がかかるかわかりませんから、どこかダンジョンでも回りますか?」
「んー……ん? メッセージ……シロさんからだ」
「どした?」
「休日中にすまない。至急話したいことがある。直接話したいから店まで来てくれるか、だって」
「どうしたのでしょうか」
「わかんないけど、とにかく行ってみる。みんなは好きにしてくれていいから」
アリスはその足で【はじまりの街】の【おかしな帽子屋】へと向かった。
「どうしましょうか」
「戻ってくるまでテキトーにブラついてる」
「ですね。では、また後ほど」
アリスが一緒でなければ共に行動することをしないココアとシズク。
どちらか片方に付いていくのは気が引けて、ユイも一人で街を歩くことにした。
【おかしな帽子屋】……ここはProject Storm代表の山風志郎こと、店主のシロウサギが経営する店である。
「こんにちはシロさん」
「ああ、悪かったな急に呼びつけて。一人か?」
「みんなは自由にしてればいいかなって思ったんですけど、呼んだ方がよかったですか?」
「いや、一緒ならそれでよかったというだけだ。それで用件だが……まあ、とりあえず掛けてくれ」
「はい。…………?」
「どうかしたか?」
「シロさん、だけですか?」
「この店はおれだけでやってるからな」
「そうです……よね?」
首を傾げつつも勧められるままにソファーに。
紅茶と焼菓子を出され、向かいにシロウサギが腰を下ろした。
「家の住み心地はどうだ?」
「はいっ、すごくいい感じです。本当にありがとうございます」
「ならよかった。おじさんの匂いがすると言われたら立ち直れないところだった」
軽く冗談を混じえて本題へ。
「質問だ。お前は動画配信には明るい方か?」
「あんまりです。レイさんのことも最近知ったくらいで」
「そうか。なら、Re:ACTORのことも知らないな」
「Re:ACTOR?」
「株式会社リーダスが運営する日本のVTuber事務所だ。多くのクリエイターがゲームを始めとした様々なジャンルで動画投稿やライブ配信を行い人気を博し、業界では最大手と呼ばれている」
アリスはよくわかっていないものの、すごいところなんだろうなという認識を得た。
「つい先ほどリーダスから連絡があった。Re:ACTOR所属のVTuber、虚祇ホロウをリーダーとした【ROSELIA】とのコラボ案件だ」
「コラボ」
「彼女については」
アリスは首を横に振った。
「その辺については改めて勉強だな」
「はい……」
「虚祇ホロウ。チャンネル登録者数二百万人を超える人気VTuber。主なプレイジャンルはFPSや対戦アクションだが、NEOがリリースされてからはこちらにも力を入れている。多くのVTuberがNEOをプレイしている中でも、はリリース初期を支えたその筆頭だな」
ウィンドウに表示されたデータを見ながらアリスが質問する。
「そんなすごい人がどうして私たちとコラボなんて」
「理由は定かじゃない。しかし十中八九コラボ内容はバトルだろう。単純な好奇心か、リーダスがお前たちに利を見たか。何にせよ、うちとしては断る理由が無いわけだが、お前たちはどうする?」
「どうするって、私たちが決めてもいいんですか?」
「意思確認の有無を怠れば、後々両者で齟齬が生まれかねないからな」
「じゃあ受けさせていただきます」
迷った様子無くアリスが言ったので、逆にシロウサギが面食らったように固まった。
「……即決だな。仲間と相談してもいいんだぞ」
「みんなもきっとオーケーすると思います」
アリスはココアに言われた言葉を反芻した。
いつかは越えなきゃいけない壁……目を逸らせない、立ち阻かる現実。
今の自分たちとは違う圧倒的な強者たちを相手に、自分たちがどれほど戦えるのか。
アリスの興味はそこにあった。
「いい顔だ」
「ほぇ?」
「なら、受けるということで返事を出すが構わないか?」
「はい。よろしくお願いします」
詳細は後日ということでその場は解散することに。
「そういえば、武器を変えたのか」
「じつは……」
かくかくしかじか。
「寝ぼけて【大賢者】を」
「そうなんですよ……今度から気を付けないと」
「夜更かしはやめないとな」
「はい……」
小さく諭され店を出て、アリスは再び【交易都市】へ戻った。
「バレるかと思った」
「隠れる必要があったのか?」
「雰囲気だよ雰囲気。ていうかさすがに勘が鋭いね」
「あれは天性の素質だな。それで、本当に良かったのか。元々はお前宛に来ていた案件だったんだろ」
「いいのいいの。ホロウとは飽き飽きなくらいヤり合ってるんだから。あたしの全戦全勝だけど」
「どうやって焚き付けた?」
「アリスに勝ったら相手してあげる、って」
「大概性悪な奴だ。レベル30未満のあいつらに、レベル70オーバー……NEOにおけるごく上澄みのプレイヤーをあてがうとは」
レイはテーブルに腰掛け片膝を抱えた。
「何が起こるかわかんないから、ゲームは楽しいんだよ」
シロウサギは目の前の女性と自分が同じ感性であることにため息をついた。




