32.発芽する種
「いィや〜【不思議の国のアリス】様方ねェ〜大ッ変なご無礼を働きましてえェ〜。いえねけして、けっして皆様を貧乏人だなんて思っては、けっして思ってはいないわけでしてねェ〜。言葉の綾というかなんと言うか、私共も虚勢を張らねばこういう商売ですからねェ、何卒……何ッ卒ご容赦を賜りたく、つきましてはァその、私共のギルドにもダンジョンボスの素材を卸していただきたいと、そういう所存でしてェはい〜」
「うるせぇよ」
ココアの一蹴がドルフを真っ白な灰にする。
人を差別し続けてきた報いとばかり。
これから彼がどうなるかは、彼の態度と頑張り次第といったところだろう。
【緑の家】のギルドリーダー、ウラもまた。
「本当にいいの?」
「うんっ。ウラちゃんに私たちのギルドホームを作ってほしい」
「……わかった」
コウヨウ及びモンスターを倒して得た素材は全てウラに譲渡。
施工代のみを支払うという形で双方の納得に至った。
「この未来の【特級建築士】が、あんたたちのギルドホームを作るわ。最強の名前に恥じない最高のものを」
「こんだけの素材持ってきてボロいの作ったらキレるけど」
ウラはムッとココアを睨むと、木材に向かって大鎚を叩きつけた。
衝撃は相当なものだったが、木材には傷一つついていない。
「あたしがやるって言ったんだから。これはもう確定事項よ。今さら文句言ったって撤回させてやらないんだから」
「素材の強度が心配だっただけで、べつにお前のセンスは疑ってねーよ。頼んだよウラ」
「任せなさい」
二人は軽く拳を合わせた。
「なにはともあれ、これでいよいよ【交易都市】での活動が開始したということですね」
「ウラさん、ギルドホームの完成にはどれほどの時間が?」
「これだけの素材があれば、家財一式揃えても結構なものが出来上がると思うわ。あとは土地の規模次第ね。今さっと見ておきたいんだけど、どの辺なの?」
四人は一斉に黙った。
「ねえ」
なんてことは無い。
というよりも土地が無いのである。
「完全に……」
「忘れてたね……」
その日は解散。
土地が決まったらまた来なさい、ウラに言われたその翌日、【不思議の国のアリス】は改めて土地探しに動くこととなった。
ログアウト後。
「はぁ〜すっごい熱中しちゃった」
時刻はすでに深夜を回っている。
各々は部屋に戻り眠りにつくことにした。
「ゲームが終わってもみんながいるの、なんか不思議な感じするね」
「はい。なんだか寝るのがもったいない気がします」
「エヘヘ、私も」
唯華はアリスと同部屋。
客用の布団が無いため一緒なベッドで眠ることに。
興奮で眠れないのではないかと杞憂した唯華だったが、疲れによる睡魔には勝てず。
ものの数分で眠りについた。
一方でアリスは眠気はそこそこ。
眠るまでの間と、ベッドの中でスマホをいじっていた。
目を通していたのはストレージ欄。
コウヨウを撃破した際のラストアタックボーナスである。
「【樹竜剣】……HPが+60でSTRが+20かぁ。ステータスもいいけどこっちのスキルも強いなぁ。【深緑の息吹】、環境によるダメージとデバフを無効。このスキルはパッシブで欲しいかも……【大賢者】でこっちのスキルは私にカットアンドペーストして……でもせっかくウラちゃんと攻略したダンジョンの記念品だしなぁ」
布団に包まりながらモゾモゾと唸ること一分。
「【死と祝福の剣】と統合してみようかな……」
という結論に至った。
「【大賢者】は今まで変な武器とかスキルは創らなかったし……試してみても、いいよね? うん、きっと大丈夫。【大賢者】のことは私が一番信頼してる……って、私しか持ってないんだから当然か」
「ん……」
唯華が寝返りを打ち、暗い部屋でスマホを見つめブツブツ呟く自分の不気味さにハッとした。
「そろそろ寝よ。武器の統合は明日にしようっと」
あくびを一つ。
アリスはスマホを枕元に置き瞼を閉じた。
『――――――――』
『――――――……の――――――――た』
『プレイヤー、名……アリス……の、要請を、受――――――――――――――――受諾しました。【死と祝福の剣】と【樹竜剣】の統合を開始……上昇ステータス、クリア。スキルの統合……クリア。世界に新たな叡智が誕生しました』
――――――――
間もなく明け方。
Project Stormの社長室では、キーボードを叩く音が鳴っていた。
志郎がモニターに視線をやっていると、部屋の扉がノックされた。
「おはよう。進捗はどう?」
姿を見せたのは瑞希だ。
手には袋を提げている。中身はエナドリと軽食だ。
「朝には間に合う。向こうはどうだった?」
「楽しかったわよ。作業もスムーズに終わったし」
「そうか」
「どんな気分なのかしらね。自分の家に年頃の女の子を住まわせるっていうのは」
瑞希は意地の悪い言い方をしてソファーに腰を下ろした。
「監視カメラとか盗聴器とか仕掛けてたら私が通報するわよ」
「ああ、その考えはなかった」
志郎も冗談交じりに返す。
「あとどれくらいで終わるの?」
「スキルの最終チェックだけだ。すぐに終わる」
ふと、瑞希は志郎が心なしか楽しそうなのに気が付いた。
徹夜続きでハイになっているのかとも思ったが、それも違う。
「何かあった? なんだか嬉しそうだけど」
「ん? ああ」
エンターキーを叩いて、眼鏡を外し前髪を掻き上げる。
子どもっぽく笑って志郎は言った。
二つ目の種が発芽した……と。
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