34.下準備
「えー?!」
合流するなり、アリスは【交易都市】の宿屋で間の抜けた声を上げた。
「みんな新しい装備とスキルゲットしてる! ズルいー!」
「って【大賢者】持ちが言ってる」
「小一時間ありましたから」
「河岸が違えばそれだけ入手出来るものも変わってくるということです。運もありますが」
ココアとシズクはそれぞれ防具一式を。
ユイはスキルを入手していた。
「あたしは見た目可愛かったから一式揃えちゃった。ちょっと聖職者っぽいのよき〜。ブレッシングシリーズって、HPとVIT上がるやつ」
「私のはノーブルゴーストというシリーズです。MPとINTに補正がかかるもので、私と相性が良さそうだったので」
「二人とも可愛い。いいなぁ……。屍龍シリーズも黒系でカッコよかったけど、私も可愛い装備欲しいな」
「アリス様は素で可愛らしいですから問題ありません」
「それな」
「それです」
「む〜。ユイちゃんのスキルは?」
「まだ試していませんが、かなり有用なスキルかと」
「あ、そういえば耐性系のスキルがめっちゃ豊富な店見つけたの。睡眠と暗闇と混乱、鈍化、あと石化に封印」
「え、すごい! 耐性系はレアだからあんまり売ってないのに!」
「どっかのギルドが溜め込んでたやつを売ったんだって。これアリスの分の技能結晶ね。あたしらは買ってもう習得してるから」
「ありがとう。お金渡すね」
やり取りを終えシズクが訊ねる。
「そういえばシロさんの話とはなんでしたか?」
「コラボの案件をもらったんだって。【ROSELIA】ってグループと」
「「【ROSELIA】?!!」」
「わぁっ?!」
ココアとシズクが前のめりに驚いて、アリスは思わず後ろにひっくり返った。
「びっくりした……」
「こっちのセリフ! 【ROSELIA】ってあの【ROSELIA】?! Re:ACTORの虚祇ホロウの?!」
「そ、そうだけど」
「まさかもう話を承諾したなんてことは!」
「しちゃった、けど……」
二人は揃ってため息をついた。
「なんでこんなことになったかはともかく……」
「めちゃくちゃマズいことにはなってるの草……」
「お二人ともどうなされたのですか? コラボ……というのはよくわかりませんが、ようは嬉しいお話ということですよね?」
アリスの傍に寄り添うユイにまたため息をついて、シズクが話を始めた。
「コラボ自体は結構です。私たちの知名度を上げ、人脈の輪を広げることに繋がりますから。ですがその相手が問題なのです」
「問題というと? もしかして素行が悪い方々であったり……」
「そこに関しては心配しなくていいと思うよ。【ROSELIA】は今まで炎上とかしたことないし。虚祇ホロウだけはちょっと話違うかもだけど」
「VTuberには珍しくトークでリスナーを楽しませるというタイプではないのです。というより自身のチャンネルを持ちながら自分で配信をせず、他の方の配信に移るというのが基本のようで」
「でも、たしか登録者が二百万人超えって」
「ええ。ですから、自身の配信を行わずもそのプレイスタイルと卓越したゲームセンスで登録者を増やしたのです」
それがどれほど異色で異常なことであるか、アリスとユイはVTuberに明るくなくもその巨大さに身震いした。
「クールビューティーなビジュと裏表が無いキャラがウケるってのもあるだろーけど。話戻すけど、そもそもRe:ACTORってのはいろんなジャンルに秀でた人がいるわけ。Re:ACTORの一期生の【ROSELIA】はその中でも特にゲームが上手い人たちの集まりなの。所謂プロゲーマーってやつ」
「プロゲーマー……」
「特に虚祇ホロウ……彼女の腕前とセンスは、かのレイさんに肉薄するほど。そう。プロになって日の浅い……いえ、言葉を濁しました。ほとんど運だけでプロになった私たちとは違う"本物"です」
シズクの物言いに誰も何も返さない。
それが事実であるという認識は誰よりも自分たちが感じていたから。
「あ、相手がすごいのはわかりましたが、皆様だってこれまで何度も自分たちよりレベルが上の方々を相手に勝利を収めてきたはずです。いくらプロゲーマーだからと気負いすることは」
「ユイ、今のレベルは?」
「15ですが……」
「ゲームを始めたのは?」
「一ヶ月ほど前……です」
「ユニークモンスターを倒してもまだ15。初心者にしては破格のレベルだけど。基本的にNEOはレベルが上がりにくい仕様になってる。ザコモンスターを何百万って倒したって1レベルも上がんない。だからリリース初期からNEOをプレイしてても50ちょいのプレイヤーが大半。けど、【ROSELIA】は全員が70オーバー。今まではプレイヤースキルとシズクの作戦でゴリ押し出来たけど、これだけ差があるとそうもいかない」
「早い話が、勝てない相手とのバトルになるということです」
突きつけられた重い現実。
しかし、彼女たちは抗うことを知らないわけではない。
「今は……だよね。なら今より強くなればいいよ」
簡単に……と、ココアとシズクは眉根を寄せたが、すぐに肩を落とした。
それしかないのだと。
「はぁ、しゃーねーなぁあたしたちの可愛いリーダーは」
アリスを後ろから覆い被さるようにココアが抱きついた。
「言っておきますが、べつに尻込みしていたわけではありませんから。冷静に戦力差を言語化しただけです。勝つための理論、どう組み立てようかワクワクします」
「私も! 私なんかに何が出来るかはわかりませんが……精一杯やらせていただきます!」
「いーじゃん。あっちぃ。んじゃまー……いっちょかましてやろーぜっ」
「うんっ!」
四人は拳を合わせ士気を高めたのであった。
「ふーん。【ROSELIA】とね」
数時間後、土地購入の申請を得てウラにその旨を伝えた。
「そっちに関しては何も力になれないから応援だけしとくわ。その代わりこっちはとびきりなものを作ってあげる。期待してなさい」
「うん。楽しみにしてるねウラちゃん。素材が足りないってことがあったらいつでも連絡して」
「……そういうことじゃないと連絡しちゃダメ?」
ウラはもじもじと上目遣いになって訊くが、返ってくる答えは決まっている。
アリスは目をキラキラさせた。
「ううんっ! いつでも連絡して! ココアちゃんたちはリア友だから、メッセージのやり取りってあんまりしなくて。って、そもそもフレンドが少ないんだけど……連絡してくれるの嬉しい! ウラちゃんとたくさんお話したい!」
「わ、わかったからそんなにグイグイこないで! もう……ドキドキして頭の中グルグルしちゃうじゃない……」
「ほぇ? 何か言った?」
「なんでもない! 完成は未定だから、出来たら連絡するから!」
顔を赤くしたウラに小首を傾げこそしたもの、なにはともあれ無事ギルドホームの建築が開始された。
新しいギルドホームに心を躍らせる一方で、アリスたちは【ROSELIA】とのバトルに向けて各々準備に動いた。
装備や防具のメンテナンス、スキルやアイテムの調達、相手の調査、シミュレーション……何度も何度も念入りに。
特にユイはアリスの指導をマンツーマンに受けた。
「ユイちゃん、今の攻撃のタイミングちょっと遅いよ」
「はい!」
アリスは生粋の感覚派だ。
いくら言葉を以て自分のやっていることを伝えようと、その十分の一もユイには伝わらない。
しかしユイは自らの勤勉さとアリスへの愛を以て理解を深めた。
スタイルこそ違うもの、ユイの剣は見る見る内にアリスのそれに酷似していった。
難儀を極めたのは剣技よりもアリスの身のこなしの方。
パルクールを基盤とした精密な体重移動と体幹は一朝一夕では身につかない。
「はぁはぁ……」
「あんまりアリスの動きマネしようとすると潰れるよ」
「い、いいんです……これくらいしないと、私はただの足手まといですから」
「ゲームの中なので多少の無茶は出来るとしても、そもそも素で人外の動きが出来るタイプの人なんですからあの人」
「ヨユーで跳び箱十段片手ハンドスプリング決めるようなバケモンなんだから」
「なんか酷いこと言われてる?」
「けど……なんと言いますか、けほっ。アリス様に厳しくされていると、こう……新たな快感に目覚めそうというか」
「気持ちはわかる」
「わかりますとも」
「ほぇ?」
アリスは再び小さく首を傾げた。




