29.交易都市《ローレンス》
【交易都市】は、四方に線路が伸びた円形の大都市である。
多くのNEOプレイヤーが拠点に選ぶほど利便性が高く、周辺のダンジョンの難易度も【はじまりの街】とは一線を画している。
今までとは違った空気に、アリスたちは気分を高揚させた。
「おっきい街! なんかワクワクしてきた!」
「探検しがいありそ」
「その前にギルドホーム探しです。人口が多い分、良い物件は押さえられているかもしれませんが」
「では探索も兼ねて、二人ずつで物件を探すというのはどうでしょう」
「うんっ」
じゃんけんによるチーム分けの結果、アリスとココア、シズクとユイに分かれることに。
「〜♪」
「チッ……」
ココアのドヤ顔とシズクの憎らしげな顔の対比である。
「では私とシズクさんは街の東側。アリスさんとココアさんは街の西側を探索するということで」
「わかった。あとでまたここで合流しよ」
「アリスはあたしとのデート一時間で終わらせちゃうんだ。ふーん?」
「アリスさん、何かあったらすぐに運営に通報するんですよ」
悪態をつきつつかれつ、シズク、ユイとは別行動を取った。
アリスとココアは人が賑わう大通りを行った。
露店で買った串焼きを手に
「街の規模が違うと生産職の出店も多いね。いろんなお店があって楽しい」
「生産職っていいよね。スローライフ満喫みたいな感じで」
「戦闘職じゃ出来ない楽しみ方だよね。もらったサブ垢は生産職にしようかな」
「いいじゃん。てかうちも生産ギルドと提携考えた方がよくない?」
「ああ、そうだよね」
モンスターの討伐や冒険を主とするのが戦闘職ならば、農業や建築、鍛冶に創作活動などといった、ゆったりとした生活を目的とするのが生産職。
では両者の領分は交わらないのかというとそうではない。
装備の作成、アイテムの定期供給、ストレージを活かした荷物運びなどのサポートなど、様々な面で二つは相互的な関係にある。
そしてこれはギルド間にも同じことが言える。
装備が出来れば戦闘職が潤い、それによる金銭で生産職の懐が潤うといった風にサイクルが発生するのだ。
そのため大手の戦闘ギルドほど、専任の生産ギルドを抱えている。
それはNEOにおいて、一つのステータスのようなものかもしれない。
「でも、私たちと提携したいギルドなんてあるかな?」
「むしろ注目されてる今だからこそかもよ。もう何個か打診が来てるかも。そういう対外的なやりとりは全部シズクに任せてるからわかんないけど。まあ、売名したいだけのギルドならいらねーんだけど」
「厳しいなぁ」
そんな風に駄弁りながら街の探索を続けていたときのこと。
「あん?」
ガラの悪い男たちに道を塞がれた。
「邪魔くせーなどけよ」
「この街じゃ見ねぇな。新顔だろ? 暇してんだ、ちょっと付き合えよ」
「うるせーよ気持ちワリィ。ナンパなら鏡見てから出直せよ」
「クックック、威勢のいい女だぜ。遊び甲斐があるってもんだ」
「遊んでほしいなら相手してやるけど」
ココアか大鎌に手をかけたのを見てアリスが止める。
「居住区での戦闘行為はマナー違反だよココアちゃん」
「わかってるって」
「ヘッヘッヘ、やる気満々ってか?」
「それじゃあ心ゆくまで遊んでやるとするか。かくれんぼ、おままごと……ククク、手押し相撲もいいなぁ」
「……は?」
ココアが間の抜けた声を出した。
「バカがみんなで遊ぶんだ。やっぱり鬼ごっこがマストだろうが」
「へへへ、腕が鳴るってもんだぜ」
「鬼ごっこ……」
「おれたちが鬼やるからよぉ、お前たちは逃げなぁ。スキルや人の迷惑になることは禁止で、せいぜい転ばねぇように気をつけなぁ。ハッハッハ」
「おれたちから逃げ切れたらいいモンやるぜぇ、ヘッヘッヘ」
「なんだこいつら」
この男たち、ただのチンピラではない。
【R.G.】という、街案内や道案内を目的としたサポートギルドである。
その貢献度によりプレイヤーはもちろん市民NPCからの評判が高く、マッピングに特化した彼らに知らない場所は無いとまで噂されるほどの情報通だが、女性に免疫は無く妙な態度を取ってしまうことでも有名なのであった。
「よくわからないけど、鬼ごっこすればいいってことかな?」
「めんどくさ。あたしパス」
「おれらと遊ばねぇってのかぁ? ククク、ならそこの喫茶店でお茶でもしてるこったなぁ」
「アールグレイがオススメだぜぇ」
「毎週金曜はケーキセットがお得だから試してみるんだなぁ、ヘヘヘ」
「うるせぇよ目ェ見て話せバカ共」
「ココアちゃん、めっ」
アリスに諌められココアは唇を尖らせた。
「せっかくだから私は一緒に遊ばせてもらいます。よろしくお願いします」
「ヘッヘッヘ、イキがいい女だぜ」
軽くストレッチ。
10カウントが開始される。
「五人の鬼から三分逃げ切ればそっちの勝ちだ。せいぜい楽しみな」
「三分もいらねーからフルパで行けよ。どうせ」
カウント直後、鬼たちが一斉にアリスに飛びかかる。
「アリスには指一本触れないんだから」
アリスは呼吸を一度、鬼たちの方へとダッシュした。
身体を捻りながら狭い隙間を縫うように抜け、脱兎の如く走り去っていく。
ほんの少しの障害物を使って身体を入れ替える、壁を蹴って壁をよじ登る、建物から建物へ飛び移る……素でパルクールを体得しているアリスだ。
シンプルな鬼ごっこで負ける道理がない。
【R.G.】も最初の三十秒ほどは辛うじてついていけたもの、徐々に自力の差が出始めた。
一分も経った頃にはアリスを見失う始末であり、鬼ごっこはあっけなくアリスの勝利で幕を閉じた。
「ハンパねぇぜ」
今まで負け無しを誇っていた男たちは愕然としながらも、女性と戯れたことに満足気にした。
「ったく余計な時間取らせやがって」
「でも鬼ごっこに勝ったからって、いいものもらったよ。ほら」
「【案内人の案内状】……【交易都市】の隠れた名店が網羅された一冊、ってこれただのガイドマップだろ」
「この星空ラーメンってお店気になるなぁ。どんな味なんだろ」
ココアは興味無さそうだが、アリスは満更でもない様子。
「あ、見て見て。不動産屋さんも載ってる。【大地の語り部】だって」
「有名な不動産ギルドじゃん。たしかにあそこならいいの取り扱ってそう」
「ここから近いし行ってみようよ」
そう思い立ち、大通りに面する店舗にやって来たのだが。
「もォ〜しわけありませんお客様。当店はご覧の通りの高級店でございましてェ〜レベル50以下の貧乏人……コホン、お客様はお引き取りいただいておりましてェ〜はい〜」
「そんなバカな話あるわけねーだろ。こっちは物件探しに来てんだっつーの」
「大ッ変もォ〜しわけないのですがねぇ〜ええ、お客様方はなんというか、こう……」
「お金持ってなさそうって?」
「いぃえいえ、とォんでもございません! そんなことはとォてもとても、ええ。ただですねェ……見るからになんと言いますかそのォ、ザコ……ああ失礼ひ弱そうにお見えになられますのでェ」
インチキくさいシルクハットの男にココアが苛立ちを見せ始めた。
それを察したアリスは、
「ココアちゃん、もう出よう」
袖を引いて退店した。
「あンのヤロォ! 頼まれたってこんな店二度と来るか! しかもよりによってあたしのアリスをバカにして……っああ!」
「怒らない怒らない。他にもきっと不動産屋さんはあるよ。ほら、この【緑の家】ってところもそうみたいだよ。ね、行ってみよ」
「次顔見せたらぶん殴ってやる」
怒り冷めやらぬココアの手を引き、歩くこと数分。
路地の奥の更に奥の行き止まりにその店はあった。
「ここ、だよね?」
「ただの潰れた一軒家じゃねーの?」
小さく悪態をつくと、店の扉を勢いよく開けて飛び出てきた人物が一人。
「誰の店が廃屋だって?! どこのどいつだアホなこと言うのは!」
小麦色の肌が健康的な少女だ。
「ご、ゴメンなさい! 失礼なこと言って! ココアちゃんも謝って!」
「見たまんまをそのまま言えるのは美徳だと思ってるが?」
「時と場合によるの!」
「チッ、あんたら客? 何の用? こんな廃!屋!に来るくらいだからどうせ大した客じゃないんだろうけど」
「なんだこの態度デケー女は」
「お口悪いのダメって言ってるでしょ! あ、あの、私たちギルドホーム向けの物件を探してて! ここって不動産屋さんですよね?」
「不動産? あんたアホ?」
少女は腰に手を当て、巨大な金槌を肩に担いだ。
「ここは泣く子も黙る建築ギルド、【緑の家】。あたしはギルドリーダーのウラ。世界一の【特級建築士】の名前を欲しいままにする……予定の女よ」




