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NEVER END ONLINE〜少女、終わりなき世界の攻略者〜  作者: 無色


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26/40

26.一緒に

 後日のこと、三人はProject Stormの社長室でお叱りを受けていた。


「今回のことは、けして手放しで褒められたものではない」


 志郎は柔らかくも厳しめな口調で言った。


「お前たちがやったのはバトルじゃない。ただのケンカだ。如何に相手が強かろうと、そこにどんな理由があろうと、怒りをぶつけ、それを発散したのはいただけないな」

「ゴメンなさ……申し訳……ありませんでした……」


 アリスは頭を下げた。

 次いで、心愛と雫も。


「お前たちはプロなんだ。自覚を持て」

「自分が宣戦布告の動画公開を許したくせに」


 そう言う瑞希を一睨みし、瑞希は小さく舌を出した。


「いいのよ。社長はあくまでプロとして意識することを忘れるな、って言いたいだけだから」


 志郎は、ふぅ、と息をつく。


「今後は憎悪で戦うな。ゲームの世界に人間の負感情は不要だ。……まあ、これはあくまで個人としての意見だが」

「個人として?」

「代表として、開発者としての意見は違う。……ゲームとプレイヤーの迷惑行為は切っても切り離せない。何故かわかるか?」

「システム的な話?」

「対応が追いつかないとかでしょうか」

「一番の理由は、必要悪だからだ。奴らは一般プレイヤーの行動を阻害することで愉悦を覚え、一般プレイヤーはそんな奴らに不快感や嫌悪感を覚える。するとどうなるか」

「運営に非難の目が向く……?」

「そのとおり。好評も悪評も表裏一体だ。好対応なら神ゲー、塩対応ならクソゲーと、ゲームは常にバランスが取れるようになってる。害悪プレイヤーを排除することなんていつでも出来るが、どこもそうしない。それはな、既存の害悪プレイヤーを排除することで、一般プレイヤーが害悪プレイヤーにならないようにしてるためだ」

「働きアリのような話ですね」


 雫の意見に志郎と瑞希が笑った。 


「バランス……あんまり、よくわからないかもしれません」

「大人の汚いところだ。お前たちはまだ知らなくていい。……さて、ここからは業務の話をしよう」


 手元のキーボードを操作し、壁のモニターにグラフを表示する。

 赤と靑の二色のそれ。

 志郎は今回の【ケルベロス】戦の折、新規プレイヤーが約二千人ほど増えていることを三人に伝えた。


「時間的に【不思議の国のアリス】が関与しているのは間違いない。全員が全員というわけではないにせよ、並々ならぬ影響力だ」

「赤のグラフが新規プレイヤー……青のグラフの方はどのような? 先日だけかなり数を増やしていますが」

「【ケルベロス】によってギルドを壊滅させられNEOから離れていたが、【ケルベロス】が解散したことで復帰したユーザーの数だ」


 バトルの後、【ケルベロス】は解散した。

 ギルド及び個人で所有していたゴールドやアイテムは、全て【不思議の国のアリス】へ。

 また投稿していた動画は全て削除され、その後彼女たちを見かけたという話も無い。 


「にしてもマジで害悪だったんだが。てか、なんであんなの放置してたの? 絶対BAN対象っしょ」

「暴言や素行の悪さは目立っていたけど、社長は嫌悪でプレイヤーを選ばないから」

「そんなもん?」

「そんなものだ。多少の寛容さが無ければゲームなんて運営出来ない。話は以上だ。呼び出して悪かったな」

「こっちこそ……本当にゴメンなさい。これからは気を付けます」


 アリスが再び頭を下げたので二人もそれに倣った。

 アリスのあまりにしょんぼりした顔を見て、大人二人はいたたまれない気持ちになる。


「すっごい罪悪感」

「言うなよ」

「だ、大丈夫よアリスちゃん。本気で怒ってるわけじゃないから。ちょっと注意しただけで」

「でも……」

「そ、そうだわ。社のレストランでご飯でも食べましょ。社長のおごりで。ね?」

「あ、ああ……そうだな」

「さ、行きましょ行きましょ」


 三人は瑞希に押されながら会社の中のレストランへと赴いた。

 肉厚なハンバーグステーキをごちそうになった後、瑞希の運転で三人は家へと送られた。


「それじゃあ、またな」

「すみません、ありがとうございました。……志郎さん」

「なんだ?」

「じつは……」


 アリスはユイのことを志郎に伝えた。


「ということなんですけど」

「ああ、いいんじゃないか?」


 志郎は二つ返事でアリスの申し出を了承した。


「いいんですか?」

「そのプレイヤーがプロ入りを希望するというなら話は変わるが、仲間内でプレイすることは咎めない。好きにしてくれていい。アリスが口添えするくらいなら、素行の悪いプレイヤーというわけではないんだろ」

「それは、はい。とっても良い子です」


 ならいい、と志郎は笑う。


「ありがとうございます」

「……アリス」

「はい?」

「……いや、なんでもない。じゃあな」


 何を言おうとしたのか、アリスは去っていく車を不思議そうに見送った。






 ――――――――






 車内で。


「何を言おうとしたの?」

「ん?」

「アリスちゃんに何か言いかけたでしょ」

「ああ」


 窓の外を眺めながら。


「アリスは良いプレイヤーになるな、って」


 聴いて瑞希は小さく吹き出す。


「そうね」

「瑞希、たまには二人で飲みに行くか」

「【不思議の国のアリス】を肴に? いいわよ、朝まで付き合ってくれるなら」


 若い才能の話題に華を咲かせつつ、夜の街へと繰り出すのだった。

 しかし志郎は一つの事柄を胸中に秘めた。

 【大賢者】という、未だ全容が明らかにならない神秘の力について。






 ――――――――



 


 ゲームにログインしたアリスは、自分宛てにメッセージが来ていることに気付いた。

 差出人と文面を見てすぐギルドホームを飛び出し、森の奥の泉へと駆ける。

 清らかな泉の前では、白織に身を包んだ少女が待っていた。


「ユイちゃん!」


 ユイは駆けてきたアリスを見て、傍目にもわかるほど嬉しそうにした。

「ゴメン、待たせちゃった」

「いいえ、全然待っていませんよ」


 とは言うもの、メッセージが届いていたのは数時間前。

 その間ずっと待っていたのだと察した。

 しばらく無言が続いた。

 お互いに言いたいことがあるが言葉が出ない。

 アリスはあたふたと話題を切り出した。


「ええと……なんか久しぶりだね。何日かログインしてなかっただけなのに」

「え、ええ」

「……あ、今日ね、すごくおいしいハンバーグを食べてきたんだぁ。ユイちゃんはハンバーグはどんなのが好き? 私はね、家だとケチャップなんだけど、お店で食べるのはデミグラスソースのが好き。鉄板の上でジュージュー跳ねるやつ。中にチーズなんか入ってたら最高だなぁ。あとね」

「アリス様」


 意を決したように、ユイは口を開いた。


「本当に申し訳ありませんでした」


 突然の出来事。

 なにも謝ることなんてないのに、とアリスは困惑した。


「な、なんで? ユイちゃんが謝ることなんて」

「私が不甲斐ないばかりに、アリス様たちに尻拭いをさせることになってしまいました。そればかりか、皆様にはあんなに楽しくなさそうに……」


 仇討ち、憎しみ、怒り……そんなものを掲げてプレイするゲームが楽しいものであるはずがない。

 初心者ながら、或いは初心者だからこその本質をついた言葉だった。


「本当に、本当に申し訳ありませんでした!」


 声が震える。

 どうしたいいのかわからない。

 そんな今にも泣き出しそうなユイの頭を、アリスはそっと胸に抱き寄せた。


「大丈夫。大丈夫だよ。言ったでしょ、ユイちゃんはまだゲームのおもしろさも、楽しいこともほんの少ししか知らないって。怖いことも、怒ることも、悲しくなることも、楽しいことと同じだけあると思う。それでも私は知ってほしい。この世界は人生を賭けるだけの価値があるって。この世界で一生懸命生きてる人がいるんだって」


 腕を解き、ユイの前に手を差し伸べる。


「楽しいこともつらいことも全部分け合って、ユイちゃんと一緒にゲームがしたいです」


 太陽のように明るい笑顔に、めいっぱいの大好きを込めてそう言った。

 彼女はきっと、心からゲームが好きなんだろうとユイはそう確信した。

 自分の好きなものを知ってほしいと。

 自分が生きる世界を見てほしいと。

 けれど、けして押し付けるようなことはなく。

 そんなひたむきな彼女がどうしようもなく魅力的で、愛らしく、惹かれ、焦がれ、求めたくなる。


「私のような初心者でも良いのですか?」

「うん」

「皆さんみたいにはなれないかもしれませんよ?」

「気にしない」


 優しいからこそ仕えたくなる。

 強いからこそついていきたくなる。

 本人を前に、自分の思いは本物なんだと熱くなる。

 好きだからこそ並び立てるように強くなりたい。

 この人の背中を守れるくらい、と。


「ユイちゃん。私たちのギルドに、【不思議の国のアリス】に入ってくれませんか?」


 唇を力いっぱい噛み締めて、目尻に透明な雫を浮かばせて。


「はいっ!!」


 ユイは強さへの第一歩を踏み出した。






 その様子を、ココアとシズクは隠れて窺っていた。


「あーあ、ガチ恋勢が増えた」

「フフ、いいじゃありませんか。元から二番目なんですし」

「盛大なブーメラン草」

「私はいつだって正妻のつもりですし、譲るつもりはありませんよ。さあ、私たちも行きましょう。新しい仲間を迎えに」

「はいはい、っと」


 彼女がアリスに、またはギルドに何を齎すのか。

 それはまだ誰も知らない物語。

 【不思議の国のアリス】は新たな仲間と共に、世界の果てを目指し続けるのだった。

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