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NEVER END ONLINE〜少女、終わりなき世界の攻略者〜  作者: 無色


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25/40

25.怒りの雷

「やってるねー。そんじゃ、ボチボチこっちも始めよっか。残飯女、名前なんて言ったっけ」

「ココア様でも何でも好きに呼んでいーよ。そっちの名前とか覚えるだけ頭の容量無駄使いだし」


 ココアは軽やかに鎌を振り回し、鋭利な切っ先をニーアに向かって立てた。


「瞬殺してやるからかかってこいよ」

「マジになってやんの。キャハハ、だっさー。弱いのに目立つからこうなるってわかんないの? ザコはザコらしく大人しくしとけばいーのにさ」


 余裕、慢心、それら全てを宿し、ニーアはココアの真正面で弓を引いた。


「【アイシクルライナー】」


 氷属性の矢が青い尾を引き、ココアの左肩を射抜く。


「あっれぇ? こーんなのも避けられないのー?」

「避けるまでもないってわかんない? そんなんだから、ケンカ売る相手間違えるんだよ」


 ニーアの頭上から光の鉄槌が振り下ろされ、交わしたところに光の矢が連射される。

 【光魔法】、【デストロイ】から【ライトニングアロー】。

 さらに【ヘブンバラージ】。

 光の弾丸の集中砲火をニーアに浴びせる。

 ニーアはココアの魔法を、同じだけの……或いはそれ以上の数の矢で相殺した。


「ザーコ。こんなしょぼい魔法なんか効かないよ」


 ニーアもスキルで火力を補っていた。

 射出、放出系の技の使用時、それらの手数を増やす【増殖】。

 実体のあるものを二分割する【分裂】。

 その二つに加え、射撃系スキルの動作を速める【速射】が火力に拍車をかけていた。


「【スコールペイン】」


 上空に放った矢が弾け、豪雨の如くココアに降り注ぐ。

 肌にいくつもの赤いダメージエフェクトが刻まれ、HPが怒涛の勢いで削られていく。

 【超速再生】さえ追いつかず、冷気と霜が舞う中でココアは沈黙した。


「【アールヴバリスタ】」


 鏃に鋭利な氷片を纏った矢が、射出されたと同時に巨大化する。

 もはや矢というより巨大な丸太のサイズ。


「死ねバーカ」


 嘲笑を以て放たれた矢は、数を増やし回転しながら空を抉る。

 ココアは気怠げに息を吐いて、それら全てを受け入れた。


「キャハハ! ザーコザーコ! 1ダメもくらわせられないとかありえる? そんなんで本当にプロ? あ、わかった〜。お金払って土下座でもしたんでしょ。それか身体でも売った? キャッハハ、それなんてエロゲ? モブはモブらしく、暗い部屋で隠れて震えてろっての」

「そんだけ?」

「は?」

「言いたいことはそんだけかっつってんの」


 凍てつき穴が空いた身体を立たせ、ココアはニーアを睨みつけた。


「この程度で粋がってんじゃねぇよ。モブ一人倒せねぇ没キャラが」

「はぁ? なにそれ。調子乗んなつってんの! 【デスブリザード】!」


 氷雪が荒れ狂いスキルによって百、二百と数を増やした氷の矢が一斉にココアを穿とうとする。

 ココアは迫りくる矢に手を翳し、


「【触手(プレデター)】」


 黒い触手に変化させた手でそれらを阻んだ。


「ッ?!」


 触手を伸ばしニーアを捕縛。

 付与された麻痺でニーアは身体の自由を奪われた。


「このッ、こんなんで捕まえた気になんないでよ! あんたなんかどーせ棒立ちしか出来ないクソザコのくせに!」

「しゃーねーんだよ」


 嘲笑うニーアは、ココアの身に起きた異変に気付いた。


「は?」

「こうしなきゃ、あたしの力が使えないんだから。圧倒的な実力差で勝つって、リーダーの命令なんだよ」


 黒い瞳に赤く縦に裂けた瞳孔。

 漆黒の翼を背に、ココアは鎌を薙いだ。


「光栄に思えよ。たかが野良犬が、あたしの新スキルの犠牲者第一号になれるんだから。慄えろ」


 漆黒の闇へと身を堕とす。


「モード、【堕天使(フォールン)】」


 可憐さや爛漫さとは遠くかけ離れた、寒気がするほどの圧倒的な存在感。

 ニーアは確かに自分の身体が震えているのを感じ、虚勢のままに弓を引いた。


「は、ハッタリ? そんなんでビビるわけない、じゃん! ザコなんかに私らが負けるかって……むぐ?!」

「うるせぇよ。もう黙ってろ」


 触手を口に突っ込む。

 何本も、乱暴に。


「吐くまで食わしてやるっつったっしょ。ほら、味わえよ」

「む、ぐ、ふぅ……!」


 ニーアは息苦しさに目元に涙を浮かべた。


「いい加減、キレてんの察しろ」


 黒い眼がニーアを威圧する。

 自分たちを嘲られ、卑下され、あまつさえアリスとシズクを悲哀の底に沈められ、ココアの怒りは頂点に達していた。


「あたしってば半分は優しさで出来てるし、ちゃんと反省してたら手加減くらいしてやってもよかったんだけど。……って、ウソ。やっぱ無理だわ。とことんブチ倒さなきゃ気が収まんない。あたしの友だち悲しませて、ただで済むと思うなよ」

「待、だす……」

「【モノクロームディストーション】!!」


 ココアは閃光のスピードでニーアを斬りつけ過ぎ去った。

 冷ややかな視線の奥に燃ゆる怒りを刃に乗せて。


「なん、で――――――――」


 光と闇を複合させた一撃がニーアの身体を斜めに分断し、空中にて白黒が爆ぜる。


「なんで? ……ハッ。くだらねぇこと訊くなよ」


 鎌を払い肩に担ぎ振り返る。


「あたしらとあんたらとじゃあ、格も覚悟も違ぇからだよ」






 ――――――――




  

 

「【不思議の国のアリス】の腕利きのガンナーやっけ? シズク」


 モナは右手に白のアサルトライフルを構え、引き金に指をかけてクルクルとハンドガンのように遊ばせた。


「相当な腕前やんね。同じガンナーとして、一回お相手願いたかったんよ」

「真っ向からなら挑戦くらい受けたものを。あまりに卑劣、度し難い。あなたたちはやりすぎました。百万の死を以てしても赦されるものではありません」

「プッ、ゲームの中で何言うとんの? ええよええよ、赦してなんかいらん。勝者は全てを肯定される。強さこそが正義やもん。せやから鬱陶しい連中を潰したかって誰も咎めんし、むしろ称賛される」

「そんな似非な大義名分を掲げて、いったい幾つのギルドを……何人のプレイヤーを破滅に追い込んだのですか」

「弱い連中のことなんてイチイチ覚えてへんよ」


 そうですか、とシズクは黒い砲身を構えた。


「では、二度と忘れられない敗北を与えましょう。そして後悔しなさい。あなたたちは、けして怒らせてはならないギルドの逆鱗に触れたのだと」

「忘れへんかったらね」


 シズクとモナは同時に銃身を上げ、互いに頭に照準を合わせ引き金を引いた。


「【へカーティスロア】」

「【ヴォルカニックレイザー】」


 二人の中央で爆発が生じる。

 シズクはすぐ武器を換装し、爆煙を裂いて突撃。

 手にしたサブマシンガンに火を吹かせた。

 だがしかし、弾丸はモナの足元に逸れた。


「エイムガバッとるんと違う?」


 アサルトライフルから乾いた音と共に弾丸が放たれ、シズクに命中する直前で物理法則を無視した軌跡を描く。


「【歪曲】のスキル……」


 回避が間に合わず、弾丸は彼女の腕と足に直撃した。

 薄ら寒い笑みを貼り付け、モナは尚も射撃を繰り出す。


「【ブレイジング】」


 弾丸は四方八方、蛇のような軌道であらゆる角度からシズクを襲った。

 自身の射撃にて相手の弾丸を落とすことを試みるが、一つ一つが意思を持っていかのように、ありえない動きを見せる。

 モナの攻撃は着実にシズクのHPを削った。


「こんな子ども騙しで手も足も出ないん? やっぱり大したことないんやね」


 アサルトライフルに換装。

 苦し紛れのように発砲する。

 数発は掠めたが、大したダメージにはなっていない。


「大人しく適当に楽しんでおけばよかったのに。ちょっと腕に自信があるからって調子に乗るからこうなるんよ」


 HPバーがレッドゾーンへ突入したとき、シズクは銃口を向けようとしてやめ、持っていた銃を投げ捨てた。


「観念したん? ほんま、腰抜けやね。こないだの子と一緒やわ。怖がるばっかで戦おうとせえへん。なんのためにゲームしてるんかもわからんくて、ほんま不愉快やった。せやからザコは嫌いなんよ」


 銃口をシズクの額に押し当てて。


「弱い奴に価値なんか無い」


 モナは冷徹にそう言い切った。


「……耐えません」

「何か言うた?」


 身震いするほど冷たい眼光がモナを射り、シズクの足元から赤い液体が広がった。


「なんやこれ、血……?」

「あなたたちの強さ絶対主義は、本当に聴くに耐えません。強さが無くとも、弱くとも、この世界に存在してはならない理由にはならない。あの方は」


 シズクは脳内に明るく笑う、楽しそうに語る友人の姿を思い浮かべた。


「あなたたちに怯えたわけでも、戦うことに迷ったのでもない。あなたがたを傷付けようとしなかっただけです。心の優しい彼女を虫けらのように叩き潰し、尊厳を踏みにじり、あまつさえさせてはならない顔をさせた」


 怒りに身体と声を震わせて。


「私はあなたたちを赦しません!!」


 赤黒い血溜まりに波紋が一つ。

 瞬間、飛沫を上げて荒ぶった。

 モナは思わずその場から飛び退き、眼前の異変に冷や汗を垂らした。


「【血の聖杯】は、今満ちました」


 髪先は赤く染まり、瞳は紅蓮に。

 血が身体に纏わりつき、装備を真紅のドレスへと変える。

 右腕を真横に伸ばすと、そこに血が形取り対物ライフル【ブラッドレイ】を顕現した。

 

「モード、【吸血鬼(ブルートザオガー)】!」

「虚仮威しは、通用せんよ」


 素早い動作でマガジンを交換し一斉射撃を行う。


「【薔薇の鏡】」


 弾丸はシズクに命中する直前、血の結晶によって斜線を隔たれ地に落ちた。


「そんな……」

「【紅の荊】」


 足元より血塗られた荊が出現し、モナの全身に絡まり動きを封じる。


「っ、さっき外した弾丸から……?! まさか、最初からこれを狙って……?!」


 一歩。また一歩。

 ゆっくり、ゆっくり。

 最期を悔やむ時間を与えるかのように。  

 モナは急激に鮮明になった敗北、または死を濃厚に感じさせられ悪寒を全身に這わせた。


「ちょ、ちょっと……ま、待ってや。たかがゲームやん、そんな怖い顔せんと。ほら、反省もするしちゃんと謝るから。もう手も出さんし、二度と関わらんから。だから」

「聴こえていませんでしたか? 赦さないと言いましたよ。……ですが、そうですね」


 パチン、と指を鳴らす。

 すると荊がモナの身体を解いた。


「私とて鬼ではありません。犬のように可愛らしく鳴いてみせたら、不問に処すのも吝かではありません」


 そのまま反撃に出ることも出来たにも関わらず、モナは恐怖のあまり、反射的にその場に両手両足をついた。


「わ、ワンワン! クゥーンクゥーン!」

「嘘に決まっているでしょうこの雑種が」


 なんの躊躇も無く、シズクは引き金を引いた。

 怒号にも似た銃声が響き渡る。


「【スカーレットデスペアー】」


 緋色の光がモナの首から上を消滅させた。


「これで怒りが晴れたわけではありませんが」


 荊が消え、身体は力無く後ろ向きに倒れたのを最後に、


「あなたたちが与えてきた汚辱の万分の一くらいは、味わっていただけたでしょうか」


 シズクは興味の全てが失せたように視線を外し、ドレスの裾を翻した。






 ――――――――






「潰れろ」


 ノエルの蹴りが炸裂し、頭部を砕いた。


「チッ」


 アリスのそれではなく、薄気味悪く間を隔たる黒い骨の兵士の頭を。


「【ネクロマンス】」


 影から生み出された兵士たちが、剣と盾を手にアリスを守る。


「モンスターの使役スキル? ザコがザコを呼び出しても、何も変わらないわよ」


 確固たる自信。

 それは彼女の持つスキル【野性】にあった。

 スキルのラグを軽減し、技を繋げる時間を速めるものだ。

 【野性】がある限り、ノエルは相手の動きを見て後出しで行動出来る。

 速度も攻撃力も自分が上だと、ノエルは自ら兵士たちの中へ飛び込み、虫を払うかのように軽々と引き裂いていく。


「【マーチングウルフェイズ】!」


 二本の剣を左から右に大きく振るのに合わせ、斬撃が狼の群れとなり骨の兵を噛み砕いていった。

 速さに速さを重ねた特異な剣。

 だがしかし、スキルに頼って発揮されるその力を、アリスは素で発揮出来る。

 剣を見切る、弾くといったことは彼女にしてみれば当たり前。

 特段誇ることでもない。

 ノエルは涼しい顔をするアリスに苛立ち舌打ちした。

 

「【ブラックホール】」


 引力の渦に引き寄せられた斬撃の狼たちはそのまま呑み込まれていく。

 アリスは【ブラックホール】を解くと、すかさずノエルへと駆けた。

 しなやかにノエルの剣閃を掻い潜り、持ち前のバネを活かしてすれ違いざまに胸元を斬り付ける。

 ノエルは更に顕にした。


「っ! 掠っただけでいい気になるんじゃないわよ!」


 振り向きざまにアリスの首元を狙う。


「【シャドウゲート】」


 アリスは影の中へと消え、アメジストの剣は虚空を切る。

 骨の兵士の影から現れたアリスを睥睨し、ノエルは右手の剣を肩に担いだ。


「逃げ回るのは得意なのね。防いで避けるだけ、猿にだって同じことが出来るわ。それで私に勝つ? いいわね弱いって、叶わない夢を見られるんだから」


 アリスは【纏魔】を解除しノエルと向き合った。


「言ってたわよね、強さで私たちを倒すって。何も出来ないじゃない。これが現実なのよ。弱者は淘汰されるだけのゴミ。排除されて当然の不純物。存在の価値なんて無い。それがのうのうとのさばっている、そんなの不愉快でしかないわ。それがわからないの?」

「わからないです。この世界ではみんなが平等に夢を見られる。みんなが違う自由を掲げられる。いろんな人の思い、強さ、優しさ……そんなものが重なって、混じって、支え合って、そうしてみんなこの世界で生きてるんです」


 剣を強く握り直す。


「それを否定するあなたたちを、私は絶対に認めません」

「認めるのはあなたじゃない。勝者、つまりあたしよ」


 残像を生み出すほど一瞬で加速し、ノエルはアリスの背後を取った。


「これで終わりよ!」


 微動だにしないアリスの首を刈り取らんとした瞬間、横から赤い閃光が走った。


「!」


 剣でそれを弾き、空中で身を翻して着地する。


「まったく、あなたたちの言葉はどれも耳障りですね」

「キャンキャンキャンキャン、盛ってんじゃねーよ雌犬」

「あんたたち……モナとニーアは」

「誰だっけそれ」

「害虫なら駆除した覚えがありますが」


 悠々と、強者然とした佇まい。

 王に仕える騎士の如く、邪悪な見た目に容姿を変えたシズクとココアがアリスの横に並び立つ。

 ノエルが仲間二人の方に視線を移すと、方や身体が両断され、方や首から上が消し飛んでいた。

 自分ほどで無いにせよ、強さでならした仲間だ。

 それがこうもあっさりとやられた、その事実が彼女に静かな驚きと動揺を齎した。


「残りはあんただけなんだけど、安心しなよ。べつに3vs1でボコろうってんじゃないから」

「弱い者いじめは気が引けますし。そんなことをせずとも、アリスさんが勝ちますからね」


 ノエルは尚も嘲り笑う。


「ハッ、そんな奴に何が出来んのよ。今もあたしに手も足も出なかったザコが」

「アリスさんに暴言を吐かれるのも我慢の限界なのですが。哀れなあなたに免じて不問に付しましょう」

「なんで気付かないの? 自分が最後に回されたんだって」

「最後?」


 ノエルは訝しむ。


「マンガとかアニメとか観る人? バトルもののやつ。あれってさー、ボス戦は大概最後に回されるじゃん。なんでか知ってる? それが一番ドラマチックだからだよ」

「ボス戦? ドラマチック? 何言って」

「これで私たちもプロなので。エンターテイメントは大切にしたいんです」


 そこまで言われて気付いた。

 アリスが自分を相手に本気ではなかったことを。

 二人が戦い終わるまで待っていたことを。

 【不思議の国のアリス】は、自分たちを歯牙にもかけていないのだと。


「そんなことのために……っざけんじゃないわよブスザコ共が!!」

「一番ムカつく奴が一番最後にブチ負ける。それが一番スッとするんだよ」


 ココアがアリスの背中を叩く。


「ってことで、後はよろしく」

「お願いします」

「うん」

「肉片にしてやる!! 【獣化】!!」


 爪と牙が伸び、獣のオーラを帯びる。

 短時間に限りステータスを大幅に上昇させるそれに、ノエルは更にスキルを重ねがけした。


「【冥府の番犬】!! 【災禍】!!」


 左右の剣が赤と空色の輝きを放つ。

 【冥府の番犬】によって倒れた仲間が持つ最も高いステータス値をプラスする。

 更に【災禍】。

 VITと状態異常耐性を下げるのをデメリットに、STR値を上げ攻撃に中確率の即死を与える。

 【爪撃】によって攻撃回数を増やしているノエルとの相性は言うまでもない。


「泣いて震えろ!! 【不思議の国のアリス】!!」


 膨大な力を前にしてもアリスは怯まない。


「やっと……我慢しなくて済む」


 胸の中のドロドロを吐き出すように、深く呼吸した。

 怒涛の攻撃が襲い来る中、アリスの剣は静かに、真っ直ぐにノエルの身体を斬った。


「?!」


 続けて背後から一撃。

 ノエルが振り返ると同時にもう一撃。

 

「な、ンっ?!」


 それは最早、ノエルの理解を越えた出来事であった。

 その様子を遠巻きに見つめるココアたちは短く息をついた。


「いつにもまして強いですね。あの状態のアリスさんは」

「集中力の桁が違うっての。今のアリスには本物の銃弾だって当たんねーよ」

「決着が近いようです」

「決着? そんなもん最初から決まってるようなもんでしょ」

「たしかに」


 アリスは一方的にノエルを圧倒した。

 しかし、気が晴れるようなことは一切無い。

 友だちを傷付けた罪の重さを知れとばかり、冷たい声で倒れるノエルに問いかけた。


「終わりですか?」


 今まで倒してきた連中とは違うと、ノエルは歯噛みした。

 だがそれがどうしたと少女は吼えた。


「死、ねェ!!」

「死ね? ……こっちのセリフだよ」


 あまりに冷たい目がノエルを一瞬硬直させる。

 アリスの鋭い蹴りが顔面に直撃した。


「ぁあっ!!」

「立てよ」

「……ッ!」


 剣を振った衝撃波でノエルを吹き飛ばし、アリスは静かな怒りを発露させた。


「人のプレイスタイルをとやかく言うほど私は偉くないけど……楽しいはずのゲームで人を傷付けることが、許されるはずなんてないだろ!!」


 アリスの瞳に星が宿る。

 【大賢者】。神の力はアリスの感情(怒り)を読み取り、更にそれに適した相応しいアイテム……二つの【雷の黄宝玉】をリソースとして、新たなスキルを構築した。

 天を衝くかのような怒りを体現する紅黒の雷を迸らせ、少女はフィールドに君臨する。

 

「モード、【黒雷姫(プリンセス)】!!」






 ――――――――





 広場の最後方。

 人垣から少し離れた場所で、ユイはモニターを見上げていた。

 胸に手を当て心配そうな目でアリスを見つめる。


「アリス様……」


 初めて出逢ったときと同じように鼓動が高鳴る。

 止まらないときめきを抱きながら、ユイはギュッと拳を握った。






 ――――――――






 激しい雷を身に纏うアリスに、ノエルは憎らし気に舌打ちする。


「奥の手を隠してるのはお互い様ってわけ……とことん舐められてたわけね……本当に」


 ノエルは地面を蹴り、疾風のようなスピードでアリスの正面に現れる。


「気に入らないわ!!」


 だが、アリスはそれよりも速い。


「っぐ!!」


 ノエルの目にアリスは映らない。

 かろうじて見えるのは尾を引いた黒雷と、自分に刻まれた赤いダメージエフェクトのみ。

 そのスピードたるや瞬間移動さながら。

 すれ違いざまに剣で斬られ、頭部を蹴られ、雷を浴びせられ、それでようやくアリスの存在を知覚出来る。

 それほどまでに、両者間のスピード差は圧倒的だった。


「いいわよ……そっちがその気なら、徹底的に殺し合おうじゃない! 吠え立てろ! モード、【人狼(ヴォルフガング)】!!」


 身体を人狼へと変化させ、全てのステータスを増加させる。

 【爪撃】の追加エフェクトが三本から五本に。

 空間を削り取るような猛烈な攻撃だが、アリスはそれ以上の攻撃を繰り出した。


「【ソードオブリパルサー】!」


 空を跳びながら狙いを定め、背後の魔法陣から双色の剣を絶え間なく射出する。


「鬱陶しいんだよ!! 【マーナガルムスクリーム】!!」


 巨大な紫の狼の頭部が顕現し、空間ごと剣の雨を喰らった。


「ザコ大人しく死んでればいいのよ!!」


 【爪撃】を以て突風の如く攻撃を仕掛けるも、髪先にさえ掠めない。

 攻撃する度に距離を離されるもどかしが苛立ちに拍車をかけた。

 どんな技も、魔法も、または敵意も悪意も、アリスには何一つ届かない。


「なんで……あんたなんかに……!!」

「私たちは最強だからこそ」


 空から降る黒い雷が、アリスの正面でエネルギーを迸らせる球体を形作る。

 両手で剣を引き、それに向かって突きを繰り出した。


「強さも弱さも受け入れる!!」


 最強という意志の下、黒雷の嵐が唸りを上げる。


「吹き荒べ!! 世界の果てまで!! 【プリンセスストーム】!!」


 超高密度の闇と雷が暴風を起こし、横に伸びる竜巻が龍のように荒れ狂う。

 雷鳴が轟き闇が爆ぜる。

 通過した後には何も残らない、正真正銘の一撃必殺。

 全MPを消費したことで【黒雷姫(プリンセス)】は強制解除され、疲労感に襲われ傾いたアリスの身体をシズクがそっと支えた。

 そして空白のフィールドに、勝者へのファンファーレと歓声が盛大に響いた。


「おつかれさまでした、アリスさん」

「ウチらの勝ち〜」


 ココアは顔の横でピースしウインクして見せた。

 何か重いものから解放されたとばかり、アリスは小さな笑みをこぼす。


「観ててくれたかなぁユイちゃん」


 そうですね、とシズクは空を仰いだ。


「アリスさんの思いは、きっと届きましたよ」

 愛読いただきありがとうございます。


 僭越ながら高評価、ブックマーク、感想、レビューにて応援いただけましたら幸いですm(_ _)m

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