24.悪意に立ち向かう
【不思議の国のアリス】vs【ケルベロス】の一戦を目撃しようと、広場は人で溢れ、今や今やとそのときを待ちわびていた。
その中心にて不敵に待ち構える【ケルベロス】の三人。
「来るかなー」
「あれだけ派手にやって来なかったら、それこそ笑い者やん。うちらが潰すまでもない」
「来るわよ。のこのこと、あたしたちに食い殺されに」
彼女たちを取り囲む野次馬の中には、PK行為に嫌悪感を抱き、彼女たちを目の敵にする者も少なくない。
「おい【ケルベロス】! よく顔を見せれたもんだな!」
「お前たちのせいでおれたちのギルドは!」
「迷惑なんだよ! さっさと辞めちまえ!」
そんな声もどこ吹く風。
むしろ嘲りの対象だと、ノエルは鼻で笑った。
一瞬姿が消えたと思えば、野次を飛ばした男の腹に剣を深々と突き刺していた。
「うるさいのよクソザコ。殺すわよ」
男の身体を引き裂き、周囲を恐怖に陥れる。
阿鼻叫喚の雨を心地良さそうに浴びていると、人込みの向こうがザワめいた。
海を割ったモーゼの如く人垣が割れ、【不思議の国のアリス】の三人が現れた。
まだ若く新星と謳われるも、歴戦の勇士を思わせる貫禄を纏わせながら。
それまで騒がしかった周囲が一斉に静まり返る。
それほどまでに彼女たちが放つ威圧感は凄まじいが、【ケルベロス】は涼しい顔で対峙した。
「逃げずによく来たわね。それとも、この度はご招待いただき……なんて一礼しましょうか?」
近付いて高い背でアリスを見下ろす。
「せいぜい噛み締めなさい。ギルドの最期を」
「あなたたちは」
アリスの口が開く。
「あなたたちは、なんでギルドを潰すようなことをするんですか?」
ノエルはつまらないことを訊くと吹き出した。
「理由なんて無いわよ。退屈しのぎ、暇潰し、何でもいいわ。どうしても理由付けろっていうなら、気に食わないからってところかしら。ウザいのよ。弱いくせに粋がってる奴らが。それだけ」
「そうですか……。それなら」
アリスはまっすぐにノエルを見やった。
「私たちは強さであなたたちを倒します」
気弱そうだ、天使だ……そんな女の子らしい印象だったアリスが勝気に勝利宣言したことで、観衆はうるさいまでに沸いた。
鼓膜が潰れそうなほどの歓声の中、ノエルは尚も余裕に笑う。
「泣いて土下座すれば撤回させてあげるわよ」
「結構です。泣いても土下座しても、赦す気はありませんから」
冷たい火花を散らしながら、二つのギルドはバトルフィールドへと転移した。
【The White】……半径二百メートルの円形ステージだ。
ここには何のギミックも無く、純粋にプレイヤーの強さのみが試される。
「負けたらギルド解散。それでいいのよね」
「はい」
「いつまで涼しい顔してられるのかしら」
「始める前に一つ」
雫が挙手して訊ねる。
「先日そちらが相手をした女性について。彼女を辱めたのはあなたですね」
と、モナを睨みつける。
「だったらなんなん?」
「あなたの相手は私です。そのニヤけた顔に風穴を開けてあげましょう」
「おもろいやん。ええよ、相手したげる」
「いいですね、ココアさん」
「どっちでもいいよ。誰が相手でも一緒だし」
「へえ」
ニーアが後ろ手を組んで、覗き込むようにココアを笑う。
「けっこー言えるじゃん残飯女。黙ってたからモブかと思っちゃった。相手してあげるんだから感謝してよね」
「野良犬には過ぎる御馳走じゃない? 吐くまで喰わしてやんよ」
二組がアリスとノエルから距離を取る。
「いいの? あんまり離れると連携取れないわよ」
「大丈夫です。二人とも強いですから」
「自分の心配でもしたら?」
「大丈夫です」
剣を抜き切っ先を向ける。
「私はあなたより強いですから」
ノエルも腰に携えた薄紫色に透き通ったアメジストの双剣を抜いた。
「引き裂いてあげるわ、【不思議の国のアリス】」
今、開幕のブザーが鳴り響いた。
牙と殺意を剥き出しに、ノエルの剣がアリスを襲う。
「【ジャックナイフ】」
腕を交差しX字に斬り付ける攻撃を、剣一本で難なく受け止める。
瞬間、片方の剣から三本ずつ、剣に添って追撃のエフェクトが発生した。
咄嗟にバックステップで交わしたところに、柔軟な動きでの飛び蹴りを繰り出される。
それにも剣と同様、斬撃が追加されていた。
無理やり身体を捻って回避、足を止めずノエルを中心に円を描くように駆けた。
「…………」
【爪撃】という、攻撃に際し爪のような形の追加斬撃を与えるスキルだ。
実体の剣と合わせて合計で八つの斬撃。
攻撃範囲が広く手数も多い。
アリスは自慢のスピードを駆使してノエルの隙を窺ったが、
「遅いのよ」
ノエルは容易にアリスのスピードに並走してみせた。
「【アクセラレーション】」
「【フォーミュラー】」
風を切り裂いて加速するアリスの最速の歩行技にノエルも追随する。
「速さで並ばれたのは初めてみたいな顔してるじゃない。けど、あいにく。私はまだ速くなるわよ」
アリスの前に回り込み、鋭い剣戟を浴びせる。
手数が違いすぎると、アリスは左手に闇の剣を展開した。
「【魔法剣】! 【デュアルストリーク】!」
「【ビーストハウル】!」
双剣によるパワー重視の四連撃。
【爪撃】を合わせて十六の連撃が、アリスの剣を弾き返す。
「モード、【纏魔】!」
アリスは闇の球体を出現させ、十字の斬撃と共にそれを放った。
「【クロスドライブ】!」
ノエルは技を発動直後。
次の行動までに僅かなラグがある。
攻撃は命中するかと思われたが、ノエルはアリスの想定外の動きで技を回避し、低い体勢から頭部目掛けて蹴りを撃ってきた。
「潰れろ」
ぐしゃり。
鋭い蹴りと爪の斬撃が、頭部を砕く音がした。




