20.ユイ
青葉高等学校。
アリスは机に立てた両手に顎を置いて小さくため息を漏らした。
「ゴールデンウィーク明け辺りで校外学習があります。各自班を決めておくように。以上で朝のホームルームを終わります」
教諭の話も上の空。
前の席の心愛は棒付きキャンディーを転がしながら、そんな彼女の額を軽く指で弾いた。
「いたっ」
「寝不足? 昨日長かった感じ?」
「う、うん。まあね」
「夜ふかしとかマジで肌荒れるよ」
アリスは苦笑いしながら、昨日起きたことを思い出していた。
――――――――
「好きです!!!」
顔を真っ赤にした告白。
しばらく呆けて、少女は取り繕うようにアワアワし始めた。
「いやっ、その! けして怪しい者ではなくて! カッコいいなって思ってて……あ、あのっ! もし、もしよかったら、明日ここに来てください!」
慌てながらマップを表示する。
「お礼というか、お話というか……お、おお、お願いします! ししし、失礼しま゛っ〜〜〜〜!!」
噛んだことで尚のこと恥ずかしくなり、口元を押さえて立ち上がり、深々と頭を下げて行ってしまった。
時間を伝え忘れていたが、それだけ切羽詰まっていたのだろう。
アリスは少女が去った方向を見やることしか出来なかった。
――――――――
「なんか可愛い人だったなぁ」
「なにが?」
口が勝手に呟いていたらしく、アリスは焦りながらなんでもないよ、と答えた。
(話すとややこしくなりそうだし、黙ってた方がいいよね)
と、アリスは昨日の件を胸に秘めることにした。
「でさ、アリスはどうする?」
「どうするって、なにが?」
「全っ然話聞いてなくて草。だーかーらー、瑞希さんから連絡あって、ルームシェアする家の内見行くんだけど、アリスも来る?って」
心愛と瑞希の間で着々と話が進んでいるらしい。
「ううん、私が行ってもよくわかんないから。心愛ちゃんたちに全部任せるよ」
「おけー。予算考えたら一人一部屋はムズいかも。でもトイレとお風呂は別々がマストかなーくらいなんだけど。まあ、良さ気なとこ見つけてくるから」
「うん、楽しみにしてる。雫ちゃんも学校の用事があるって言ってたし、今日は早めにログインしてみようかな」
「うい。てか」
心愛はポケットのスマホを取り出そうとして、思い留まった。
「どうかした?」
「あー……なんでもない。てかやっば次移動教室じゃん。行こ行こ」
「うんっ」
アリスは心愛が何を言おうとしたのか気になったが、途中で止めたことなら言及しまいと、揃って教室から出ていった。
――――――――
雫が通う九星ノ宮女学院で。
「では、次の問題を双海さん」
「はい」
博士帽を被った女性教諭に当てられ、雫は黒板にスラスラと数式を綴っていく。
「出来ました」
「正解です。さすが双海さん」
クラスメイトたちから拍手が送られ、羨望の眼差しが集められる。
雫が着席したとき、ちょうど授業終了の鐘が鳴った。
「ではここまで」
五十分の束縛から解放され気持ちを楽にするのは、お嬢様学校といえど変わらない。
「双海さん格好いいなぁ」
「本当、完璧な女性です」
大企業を実家に持ち、成績は全国トップ。
射撃を始めとした各分野で優秀な成績を収め、容姿端麗と品行方正を併せ持ち、クラスでは委員長を務めている。
まさに憧れの的と言える存在。
そんな彼女だが、高嶺の花として認識される一方、誰とも別け隔て無く接する人柄と面倒見の良さに定評があることから慕う人間は多い。
「雫さん」
「はい」
雫に話しかける、亜麻色の髪をした線の細い、絵に描いたようなこの美少女――――天王寺唯華もその一人である。
「お昼をご一緒しませんか?」
「ええ。喜んで」
ビュッフェスタイルの学食にて、雫はスモークサーモンのサンドイッチと春キャベツのサラダを、美桜はクリームシチューと窯焼きのバゲットをそれぞれ手に取った。
「いただきます」
「いただきます」
淑やかに、慎ましやかに食事をする最中、
「雫さん。私……恋をしました」
唯華は、そんな風に話を切り出した。
「まあ。それはステキですね」
雫も華の女子高生である。
惚れた腫れたには過敏な年頃。
ましてや友人の恋バナなど興味の対象でしかない。
「お話を窺っても?」
「その……前からすごくカッコいいなぁって思ってて……一目惚れで勝手にお慕いしたというだけなんですけど……。こんなこと、雫さんにしか話せなくて……」
「まあまあまあまあ」
モジモジと照れくさそうに。
なんとも甘酸っぱく。
身を乗り出しそうなほど、なんなら席を隣に移したいくらい雫は話に聞き入る。
「お相手はどのような方ですか? 年齢は? まさか同じ学校の?」
「わかりません……けど、歳上か、一緒くらいだと思います」
「思う、というのは?」
「印象です。私もその人のこと、顔と名前以外よく知らなくて。でも、とにかくカッコよくて、でも可愛くて……見てるとドキドキして、こう……胸が切なくなってしまうんです」
雫を美しいとするなら、唯華は小動物的な可愛さを醸し出している。
普段から可愛らしい彼女だが、恋する乙女というのはかくも可愛さを増すのかと、雫は表情を綻ばせた。
「って、ゲームの中の話なんですけどね」
「ということは、始められたんですか。NEO」
ときにこの二人、どういった繋がりなのかと言うと、家長同士がパーティーの際に数度顔を合わせ、その繋がりでお互いを認識していた程度の関係。
しかし、何を隠そうNEOで繋がり友だちとなった間柄でもある。
二年生になった折、美桜がスマホでNEOのサイトを開いていたのを偶然目撃し、雫が話しかけたというのが最初の縁であった。
と言ってもお互いのアカウントは知らない。
というより、唯華がアカウントを持っていなかった。
自分もやってみようかな、と思っていたときに雫に声をかけられたのだ。
「おっしゃっていただければよかったのに」
「まだ始めたばかりですから。雫さんのお手を煩わせたくなかったんです」
「そんなこと気にしないでくださいな」
雫も雫で、一緒にプレイする前にプロ入りを決め、また自分がプロ入りしたことも話していない。
如何にお嬢様学校といえど、NEOプレイヤーは存在する。
他言するようなことはしないという信頼感はあるが、それでも騒ぎの種は撒かないというのが雫の方針だ。
「ゲームの中で出逢った恋なんて。物語や詩の一説みたいで、とてもステキだと思います」
「ありがとう」
「それでお相手というのは」
「本当、まったく接点は無いんです。本当に憧れで。でも」
そこまで言って、明らかに口元が緩む。
「昨日……モンスターに襲われていたところを、その方に助けてもらったんです。まるで騎士のように颯爽と、夜闇を駆け、蹲っていた私に手を差し伸べてくれて…」
「運命の出逢いですね」
「雫さんもNEOをプレイしているなら、もしかしてご存知かと」
頬を染めた唯華はスマホを取り出し、保存したスクショを雫に見せた。
「この方です」
「どれどれぶふっ?!!」
写っていたあまりに見覚えのあるその姿に、雫はサンドイッチを喉に詰まらせた。
「し、雫さん?!」
「あ、ああ、いえ……失礼しました大丈夫です。そ、それで、その方は」
もう一度見返す。
黒い装備に身を包んだ黒髪黒眼の少女。
見覚えがあるどころの騒ぎではない。
アリスという自分の友人その人だった。
「【不思議の国のアリス】のアリス様……」
スマホを胸に抱いて、恍惚とした表情を浮かべる。
「あ、アリス、様?」
「可憐で美しく、また勇ましく…一目見た瞬間恋に落ちました」
(まさかこんなところにアリスさんのガチ恋勢がいるとは……世間は狭いですね。気持ちはわかりますけど)
ひとまず、給仕が運んできた紅茶を飲んで落ち着く。
「じつは今日アリス様と逢う約束なんです」
「けほっ! こほっこほっ!!」
またむせた。
「大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫でふ……。それで?」
「はい。とは言え、一方的にお願いしただけなので、本当に来てくださるかはわかりませんが……ああ、もちろんゲームの中での話ですよ」
(リアルで逢う約束を守る取り付けていたらさすがに撃ち抜いていましたけど。それにしても、奇妙な偶然があるものですね)
雫は唯華がスクショのアリスにウットリする様を見て、また顔を綻ばせた。
何はともあれ、自分の友だちが好かれているのに悪い気はしない。
好いているのが自分の友人なら尚更だ。
「来てくださるといいのですが」
「きっと来てくれますよ。優しい方ですから」
「え?」
「あ、いや、その! 優しそうな方ですから!」
取り繕って話題を変える。
「ところで、何時頃の約束を?」
「それは――――――――」
唯華は顔を青ざめさせた。
「あああ!! お時間を伝えるのを忘れていました!! どどどどうしましょう!! もしもアリス様をお待たせするなんてことになったら!! そんな……そんなことになったら!!」
『チッ、そっちから呼び出したんじゃないの? マジふざけんなよ雌豚。ケツからゴメンなさいが言えるように十字に刻んでやろうか』
「お尻が四つになってしまいます!!」
「何が起こればそんな奇天烈なことになるんですか」
雫は一度頷くと、彼女の今日の行動を予想立てた。
(心愛さんは瑞希さんとルームシェアの物件の内見だと言っていましたね。アリスさんは性格上付いて行くのは断りそうですし、今日はこれといって予定も無いはず。なら、帰宅して宿題を済ませてからログインするでしょうね。そうすると十八時……いえ、十七時過ぎくらいにはログインしているはず)
そう考察し、さり気なく美桜に伝える。
「そう慌てずとも、普段どおりの時間にログインすれば間に合うかと。待たせても怒らないでしょうから……んん゛!と、思いますから」
「そう、ですか? すみません、何分不慣れなもので」
「いえいえ」
ハッキリ言って同担拒否の雫だが、アリスの可愛さに惹かれた者を咎めることは出来ない。
けして恋心を後押しすることは無い。それでも友人は応援してあげたい。
なんとも微妙な心境を落ち着かせようと再びカップを傾けた。
「そういえば、【不思議の国のアリス】にもシズクさんという名前の方がいらっしゃいましたね。雫さんに似て理智的な美しく方で」
「ぶっふぉ!!」
「偶然ってあるんですね」
「本当、ぐ、偶然ですね……オホホ」
雫はアリスとの関係を内に留めることに決めた。
口元に手を当ててごまかし笑いを浮かべていたときだ。
スマホが震え心愛からメッセージがあった。
「ちょっと失礼」
席を立って確認した連絡の文面には、
『ちょっとウザ案件かも』
と短い文とURLが添付されている。
開いてみるとNEO関連の掲示板だ。
ただし攻略や情報交換がメインのものではなく、NEOに対して、或いはそれを運営するProject Storm、または有名なプレイヤーを名指しにして攻撃的な言葉をぶつける、所謂アンチスレッド的な掲示板。
悲しいかな、その中には【不思議の国のアリス】関連のも複数見当たる。
書かれていることは読み上げるほどの内容でもないが、いやに過激なものがいくつか見受けられた。
しかしそれだけで心愛がこんな連絡をしてくるとは思えず、自分たちに関連づいたスレッドを逐一確認していく。
すると、スレッドの設立者のIDが全て同一であることに気が付いた。
「Kérberos……ケルベロス?」
覚えのある名前に、雫は眉根を寄せた。
そのまま心愛に電話をかける。
『うい』
「このことはアリスさんには?」
『言うわけないじゃん。わざわざ不安がらせる必要ないし』
「賢明ですね。しかし、【暗黒街】の野良犬の目に止まることがあるとは思いませんでした」
『前から悪目立ちしてたしね。しゃーないっちゃーしゃーないって感じじゃない? あそこの連中に常識求めるのは無理ゲーだけど、一応気を付けとこーぜって連絡』
「ありがとうございます。では」
『あーそれと』
「なんですか?」
『雫が狙われてもあたし普通に笑うから』
「お互い様です」
フン、と鼻を鳴らし通話を終え、暗転したスマホの画面に目を落とす。
「何も無ければいいんですけど」
――――――――
時は経ち放課後。
アリスと心愛が校門を出ると、真っ赤なスポーツカーに乗った瑞希が待っていた。
「うっわかっけー」
「めちゃくちゃ目立ってる……」
スーツにサングラスを合わせた美女というだけで目を引くのに、それが目立つ車に乗って、尚かつ、
「お疲れさま」
自分たちに向かって手を振るものだから、否応にも周囲の視線が集中する。
気負いしているのはアリスだけで、心愛にしてみればどこ吹く風だが。
「行きましょうか」
「ういー」
心愛が助手席に乗り込む。
「アリスはいいの? 途中まででも送っていくわよ」
「アハハ……また今度で」
「そう。気を付けてね」
「バイバーイ」
アクセルを踏むと、昨今のハイブリッド車の静音機能を嘲笑うような、腹の底にまで響く音が鳴る。
車は瞬く間に加速し、すぐに影も見えなくなった。
「大人ってすごい……」
帰宅し、宿題を終わらせてすぐギアを装着した。
「ゲームスタート」
――――――――
黒い装備を纏う姿になり、とりあえずと指定された場所に向かってみる。
訪れたのは森の外れの名前も無い小さな泉。
夕暮れの日の光が茜色に煌めく様に、そこだけが別空間のような神聖ささえ感じる。
「えっと……ここでいいんだよね?」
辺りに人影は無い。
時間が指定されていないのだ、早く来すぎたかなとアリスは木の根に腰を下ろして待つことにした。
「どこかに行ってる間に来て、入れ違いになるのも嫌だしね」
木漏れ日を浴びながら、澄んだ空気を吸い込む。
「気持ちいいなぁ」
下手をすれば眠ってしまいそうなほど。
心地の良い微睡みに揺蕩うこと数分少々。
森の奥から息を切らしてやってくる少女の姿が見え、アリスは腰を上げた。
「こんにちh」
「お待たせして申し訳ございません!!!」
「スライディング土下座?!」
額で地面を削った勢いでHPも削れる。
「口約束を守っていただいたにも関わらず、アリス様を待たせるなんて……何とお詫びしたらいいか……!」
「そんなに待ってませんから。気にしなくても大丈夫ですよ」
「椅子になります灰皿になります土下座して靴を舐めます!! お尻を四つにしていただいても構いませんので赦してください!!」
「えっと……アハハ……」
一旦落ち着かせて。
「申し訳ありません取り乱しました……。アリス様に逢えたことが嬉しすぎて……」
泉の縁の切り株の上で、何故か向かい合って正座をする。
「申し遅れました。私は天……ではなく、ユイと申します。NEOは始めたばかりです」
あからさまに挙動不審で、指を遊ばせ目は泳ぎに泳いでいる。
「アリスです。よろしくお願いします」
「存じております……あの、どうか言葉を直してください。アリス様には気楽にしていただけると嬉しいです……」
「じゃあ、アリスって呼んで。私もユイちゃんって呼ぶから」
「恐れ多いですゴメンなさい!!」
「あれ……?」
ユイは三つ指をついて深々と頭を下げ、アリスの申し出を食い気味に拒んだ。
「私、あ、アリス様の大ファンで……NEOもアリス様の勇姿を拝見したのがきっかけで始めたくらいで……。ギルドバトルも、この間のイベントもチェックしていました……。ああゴメンなさい! なんだかストーカーみたいですよね! 気持ち悪いですよね自爆しますゴメンなさい!」
「エヘヘ、面と向かって言われると照れちゃうな。ありがとう、嬉しいよユイちゃん」
「はぅっ!」
アリスの笑顔。
会心の一撃にユイは顔を真っ赤にし頬を上気させた。
「アリス様が私のためだけ笑って……」
顔を両手で覆って仰け反るユイを、アリスは不思議そうに見つめる。
ユイはハッと体勢を戻すと、咳払いを一つして話を戻した。
「ええと、今日お呼び立てしたのはですね………昨日助けていただいたお礼を、こここ、これを、どうか受け取ってください!」
ユイがストレージから取り出したのは、内にて激しく放電する黄色い水晶だった。
「これ、【雷の黄宝玉】?! ダメだよユイちゃん! これすっごくレアなアイテムなんだから!」
「いいい、いいんです! これはアリス様への感謝ですから! 受け取ってくださる方が嬉しいんです!」
「でも……」
「そ、それに私はもう【風魔法】を習得していますから!」
「へ? そうなの?」
「はい……ゲームを始めてすぐ、魔法使いNPCを見つけて……」
「すごいねユイちゃん。滅多に出会えるものじゃないのに」
「昔から運だけは良くて……なので、それはどうかアリス様が。感謝の気持ちというか、貢ぎ物とでも思っていただければ」
「うーん、じゃあ……」
レアアイテムであることももちろんだが、先日レイから同じアイテムを受け取っているという申し訳無さもあったアリスは、若干のいたたまれなさを覚えた。
「あ、あの、そうではなく、アリス様のファンだということをお伝えしたく……つまりその……」
昨日勢い任せに要らぬことを口走ったのを思い出す。
「ああああの、昨日の好きというのはつまり、それだけお慕いしているということでありまして、だから……けして邪な思いで言ったのではなく純粋にアリス様の勇姿に一目惚れを……」
「ビックリはしたけど、好きって言ってくれたのすっごく嬉しかった」
「〜〜〜〜!!」
「まだ全然プロっぽいことは出来てないけど、憧れてくれてNEOを始めたってことでしょ?」
「へ? あ、はい……」
「NEOのことを全然知らない人たちに、私たちのことが伝わって、この世界が賑やかになるんだって思うと、もっと頑張ろうっていう気持ちになるよ。だからありがとうユイちゃん。これからももっと、ユイちゃんや他の人に好きになってもらえるように頑張るからね」
自分が伝えたいことは伝わっていないとすぐにわかった。
けれど、その笑顔があまりに眩しくて言葉に詰まる。
ゲームに対しての純粋で真摯な信念。
それを直に感じ取り、アリスへの恋心が更に深まったのを実感した。
「私も……アリス様のようになれるでしょうか。もっと強くなって、ゲームを楽しめるように」
「うん。もちろん」
即答し、ユイの手を取る。
「よかったら私と、この世界を楽しもう」
「は、え……?」
推しが自分の手を握っている状況に理解が及ばず、手を引かれるまま、少女は世界へと飛び出した。
とまあ、意気揚々と森の外へ出たはいいもの、二人は行く宛無く彷徨っていた。
アリスは自分が装備や育成に明るくないことや、そもそもユイがどのようなステータスを振っているのか知らないことを思い出したのだ。
(先輩ヅラしちゃった)
と、小さく恥ずかしがる。
「あんまりこういうこと訊くのはルール違反なんだけど、ユイちゃんはステ振りとかどうしてる?」
「ステータスですね。アリス様に隠すようなことはございません。どうぞご覧になってください」
自分のステータスを惜しげなくアリスに見せた。
名前:ユイ
Lv:3
職業:剣士
称号:無し
HP:30/30
MP:30/30
STR:5
VIT:5
AGI:5
DEX:5
INT:5
LUK:5
装備
【初心者の刀:刀:STR+2】
【初心者のローブ:胴体:VIT+2】
【初心者の手袋:両手:DEX+2】
【初心者のブーツ:両足:AGI+2】
スキル
【刀術】【鑑定】【風魔法】
モンスターの討伐経験すらほとんど無い本当の初心者仕様。
無理もない。
ログイン時間の大半が【不思議の国のアリス】のバトルを観戦するために用いられているのだから。
「ユイちゃんはどんな風に戦いたいって、イメージはある?」
「それを考えられるほどもわかりませんが……あまり前に出て、というのは避けたいかもしれません。恥ずかしながら、まだモンスターを前にすると怖くなってしまって…」
「最初はみんなそうだと思うよ。なら【風魔法】をメインにした、スタンダードな後衛型が合ってるかも」
掲示板で魔法使いに有用なスキルや装備、それらの入手方法を検索する。
一口に魔法使いと言っても、高火力の一撃特化型や、手数重視の汎用型、バフやヒールのみの完全後方支援型など多種多様。
それに合わせたスキルと装備も当然変わってくる。
「アリス様は剣での立ち回りがすごくお上手ですよね。昨日のあのお姿も、なんとも荒々しく美しいお姿でしたが」
「ありがとう。私は基本的に動き回るスタイルだから。魔法は相手の動きを止めたり、バランスを崩したりって感じかな。攻撃力は高いけど、その分高燃費で乱発が出来ないから、どうしても使う場面が限られちゃうんだ」
「そうでしたか」
「とりあえずショップで耐性スキルを習得してから、初心者向けのエリアとか、ダンジョンの周回で素材とアイテムとお金をゲットしよう。まずはバトルに慣れなくちゃね」
自分が付き添えば高難度のダンジョンもクリア出来るだろうが、それでは成長にならない。
最初から強い装備を身につけていれば強い、楽しいというのは、アリスのゲーム学に反するところであった。
「わからないところとか、無理そうなところがあったら手伝うから」
「はい! お手数おかけしますが、どうかよろしくお願いいたします!」
十分後。
「きゃああああ!」
青く茂った草原で、ユイはモンスターに背を向けひたすら走っていた。
「ユイちゃん落ち着いて。怖くないよ」
ユイを追いかけるのは、普通のものより一回りほど大きな、角を生やしたウサギのモンスター、アルミラージだ。
体当たり以外の攻撃手段を持たず、体力も攻撃力も低いため、NEOでは初心者用のモンスターの一体として定着している。
「大丈夫。ちゃんと動きを見れば、攻撃は当てられるから」
「は、はいっ!」
意を決して止まり刀を構える。
可愛らしくもダメージを与えんと跳びかかってくるアルミラージ目掛け、思い切り振り下ろす。
「ええいっ!」
峰打ち。
アルミラージは頭を強く打たれ、キュウと鳴き声を上げて倒れた。
素材とアイテム、ゴールドがドロップする。
「やったねユイちゃん!」
「はいっ! やりました!」
「峰打ちで仕留めちゃうなんて。様になってたし、もしかしてユイちゃんって剣道か何かやってる?」
「はい。護身程度ですが」
的確に急所を打ちクリティカルを発生させていたのを、アリスは見逃さない。
続いて離れた場所からこっそり、草を食んでいるアルミラージに魔法を放つ。
「【風刃】」
風の刃が射出され、アルミラージにダメージを与える。
「いい感じ、上手だねユイちゃん!」
「そんな……」
憧れの人に褒められ、ユイは素直に照れた。
その後夕食のために一度ログアウトし、再度集合。
草原や森の中を周回しレベルを上げた。
初見のモンスターはともかく、一度倒した相手は耐性がつくようで、最初ほど怯えることも少なくなった。
都度、アリスは自分の回復薬やMPポーションを渡し、ルナのHPとMPを回復させる。
地頭が良いらしく、一度教えたことを呑み込み、応用する力があるようだった。
ハイペースのレベリングにより、ユイのレベルは6に上がった。
レベルアップの際のステータスポイントは、魔法の攻撃力を高めるためにINT値に多く振り、残りは均等に割り振った。
「成長が数値化されると、努力が目に見えて良いですね」
「うんっ。ユイちゃんセンスいいと思う」
「アリス様の教え方が上手だからですよ」
現在はショップで技能結晶の購買中。
「状態異常耐性系のスキルは買ったし、あとはスタイルに合ったスキルも欲しいかな」
「オススメのスキルなどありますか?」
「私に聞いちゃうと攻撃系のスキルばっかりになっちゃうよ? んー、これなんてどうかな」
表示したのは【炸裂】というスキル。
攻撃が命中したときエネルギーが爆ぜ、周囲に小ダメージを与えるものだ。
近距離で使えば自分もダメージを負うが、魔法をメインにしたユイには合っているとアリスは判断した。
「では、これにします」
【炸裂】の項目をタップし購入する。
「そんな簡単に決めていいの?」
「はい。このスキルを磨いて、アリス様に恥じないようになります」
「うんっ。じゃあ本番だね、ダンジョンに行ってみようか」
「はい!」
好きな人と一緒ならどこへ出かけようとデートである。
ユイは浮足立つ気持ちで共にダンジョンへと向かった。




