19.それはさながら運命のような
「お疲れさまでした。私はこの辺で失礼しますが、お二人は?」
「あたしも落ちるー。宿題やんなきゃだし。めっちゃ眠い」
「偉い偉い。私はもう少ししたら落ちようかな」
「そうですか。ああ、私明日は学校の用事があるので、お先にお帰りください」
「うん、わかった」
「おけ」
「それでは」
「また明日ー」
ログアウトしていく二人を見送り、よしっと意気込みストレージから宝玉を取り出す。
レイからもらった【雷の黄宝玉】だ。
「これを使って新しいスキルを創りたいんだけど……でも【纏魔】のときは宝玉と【死霊術】を統合したから、また何かベースになりそうな何かが必要なんだよね。えっと、今の私のステータスが……」
名前:アリス
Lv:23
職業:剣士
称号:【死霊の主:MP+50 INT+30】
HP:230/230
MP:230/230
STR:40
VIT:10
AGI:130
DEX:20
INT:25
LUK:5
装備
【死と祝福の剣:片手剣/ロングソード:MP+40 STR+20:【デッドリーイノセンス】【形状変化】】
【屍龍の外套:胴体:VIT+10:【瘴気耐性】】
【屍龍の手袋:両手:DEX+10:【奇襲】】
【屍龍のブーツ:両足:AGI+10:【隠密】】
スキル
【二刀流】【鑑定】【毒耐性】【麻痺耐性】【整息】【魔法剣】
ユニークスキル
【纏魔】
アドミニストレートスキル
【大賢者】
「うーん。これといってだなぁ。たまにはスキルを探しにあちこちフラフラしてみようかな」
思い立ったアリスは、その足で荒野のエリアへ赴いた。
暗がりが落ち、乾いた風が吹く涸れた大地に一人。
手頃なものないかと散策する。
幾つかダンジョンを巡ったが、目ぼしいスキルは入手出来ず。
「探すと見つからないんだよねぇ。困ったなぁ」
日を改めるか、場所を変えようか、そう足を止めたときだった。
「きゃあああ!」
「?」
咄嗟に悲鳴が聴こえた方へ駆け付けると、崖下にモンスターに囲まれているプレイヤーが見えた。
枯れ草色の体毛をした虎のモンスター、デザートタイガーの群れだ。
それも十や二十ではない。エリアのモンスターがここに集結しているかのような数だ。
小型の自動車ほどあるそれらが牙を剥き、グルルルと今にも襲いかかりそうな唸り声を上げて、怯えるプレイヤーに迫ろうとしている。
これはゲームで、この世界で死んでも現実に命を落とすわけではない。
たとえゲームオーバーになろうと、それもまたゲームの中の思い出の一つにすぎない。
ここで助けに入るのは独善的なエゴでしかなく、突然横槍を入れられても相手が困惑するだけかもしれない。
しかし、そんなことを考える前にアリスは崖を滑り降りていた。
「こ、来ないで……」
デザートタイガーはそんな願いを聞かず、怯えて縮こまる人物に向かって飛び掛かった。
「ひっ!」
両手を顔の前で交差する。
そんな折、声が届いた。
「【グリムアリア】」
微かに開いた視界に、自分とモンスターの間に割り入った黒い影と、口から尾までを滑らかに両断されたモンスターが光になっていくのが映った。
おそるおそる腕を下げると、黒い装備に身を包んだ少女の姿が。
「大丈夫ですか?」
緑がかった蛍火色の眼と白い髪をした少女だ。
何が起こったのかわからないといった様子で、ポカンと口を開けている。
装備を見るに初心者のようだが近くに仲間は見えない。
どうやらソロでここへやって来たらしいが、このエリアはとても初心者向きではない。
混乱しているようで、このままの少女を連れての撤退は難しいと考えた。
ならば、とアリスの執る行動は一つだ。
「ここで待っててください。すぐに終わらせますから」
刃を月光に煌めかせた瞬間、モンスターたちは同時に襲いかかった。
アリスは身を低めて加速し、自分から群れの中へ飛び込んだ。
「【サーキュラー】」
流れるような回転斬りで黒線を引き、周囲の虎を屠る。
背後から襲う虎を振り向きもせずに逆手に持った剣で串刺しにし、剣を引きつつ持ち直し前方に見据えていた対象目掛けて斬り上げる。
夜に紛れ、闇を駆け、目にも止まらない速さで敵を蹂躙していく様を、少女は呆然と見つめる。
さっきまで自分を支配していた恐怖感はとうに消え去っていた。
「すごい……」
一方でアリスは、倒せど減らない敵に辟易していた。
倒すことは苦ではないが、如何せん数が多すぎる。
「一気に倒す。モード、【纏魔】!」
一度剣を払い、自分の前に拝礼するかのように翳し、意を決してスキルを発動する。
闇を纏いアリスは剣を払った。
そこからの決着は早く、少女の理解など置き去りに、アリスはモンスターを屠っていった。
「これで終わりっ!」
最後の一体の首を刎ねて納刀。
アリスは座り込んだ少女の方を向き安否を確認した。
「ゴメンなさい。余計なことしちゃって。大丈夫ですか?」
手を差し伸べるが反応は無い。
心ここに在らずといった様子で呆けてしまっている。
(よっぽど怖かったのかな)
心配してもう一度呼びかけようとすると、今度はハッとして壁まで後ずさってしまった。
ワナワナと少女の唇が震えている。
「ア、アリ……」
「蟻?」
「アリス……しゃま……【不思議の国のアリス】、の」
「えっと……は、はい?」
「はわわわわわ……!!」
瞬く間に顔を真っ赤にし、キュッと目を瞑る。
「しゅ…す……!!」
半ば泣きそうなほど潤ませた目を開き、少女は声を震わせて叫んだ。
「好きです!!!」
今度はアリスが呆然として、
「……………………ほえ?」
間の抜けた顔を晒した。




