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NEVER END ONLINE〜少女、終わりなき世界の攻略者〜  作者: 無色


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18/40

18.迫りくる者たち

「…………」

「どしたー?」


 学校の中庭、お弁当を膝の上に箸を止めうわの空のアリスの顔を、隣でパンを頬張る心愛が覗き込んだ。

 返事は無い。


「ミートボール食べてい?」


 串に刺さったミートボールを横からつまみ食いするが、それでも心ここにあらずといった様子。


「アーリースー? ねーえー」

「…………」

「おーい。無視すんなー」


 あまりにぽやーっとするので、心愛は耳元に唇を近付け、


「あたしだけしか見られないようにしてやろーか」


 アリスの耳を一舐めした。


「はにゃぁん!!」

   

 奇声を発し周りの目を集めたことで、アリスは顔を真っ赤にして憤慨した。


「もうっ! 心愛ちゃん!」

「アリスが無視するのが悪いー」


 と、舌を出して目の下を引っ張った。


「で? 何かあった?」

「何かってほどじゃないけど」

「てか昨日駅前のモールでNEOのイベントあったの知ってた? しかもレイさんが来てたってー。社長もProject Stormの主催ならあたしらにも教えてくれたっていいのにー」

「私たちは顔出し出来ないからって言わなかったらしいよ。昨日行ったとき、偶然会って話聞いたから」

「マジで? てことはレイさんにも会った?」


 アリスは照れや申し訳なさを織り交ぜて頷いた。


「いいなー。生のレイさんてどんな感じ?」

「ゲームの中と全然変わらないよ。キレイだけど、ちょっと子どもっぽくて。連絡先も交換しちゃった」

「羨まの極み。あたしもレイさんのプレイング生で観たかったー」

「うん。凄かったよ」


 たぶん、これが感動したということなんだろう……と、アリスは今更ながら自分の中に芽生えた感情に名前を付けた。

 観客を楽しませる話術、魅せるプレイ、それらを支える確かな強さ。

 あれこそが本物なのだと。

 心愛はまた一点を見つめるアリスを見やって、うわの空なのはそれにまつわる事だと察した。

 横に置いた紙パックのコーヒー牛乳を手に取りストローに口を付ける。


「まー、いつかは越えなきゃなんない壁ではあるよね」

「ぶふっ!」


 りんごジュースを飲んでいたアリスが、心愛のあっけらかんとした発言に盛大にむせた。


「けほっ、えほっ! こ、越えなきゃって」

「だってウチらが目指してるのは最強だもん。プロはもちろんだけど、レイさんにだって勝たないと。でしょ?」

「それは……」


 紙パックを両手で挟み力を入れる。

 どことなく自信無さげな様子を見て、心愛は、


「自分が一番強いって言うのも思うのも自由だよ。大丈夫、アリスはウチらより強いから」


 呑気に強気にそう言い、けど、と更に付け加えた。


「今は、ね」


 笑顔の向こうの本気に、アリスは小さく震えた。

 【不思議の国のアリス】は、二人がアリスの力を認めたが故に結成されたギルド。

 そのリーダーを担う少女こそが、三人の中で最も強いのだという証明でもある。

 しかし、イコール敵わないと悟ったというわけではない。

 仲良しな友だちであり、研鑽し合う好敵手。それが彼女たちの関係性だ。だからこそ自分の手の内の全ては明かしていないし、ソロの時間も大切にしている。

 二人はいつだって最強の座を狙っている。

 首元に刃を添え、眉間に銃口を押し当てて。


「一番最初にアリスをヤるのはウチだから。覚えとけよ」


 ニシシと笑うが、アリスはそれを可愛らしいとは思えず、苦笑いで返す他なかった。







 放課後になり、アリスはいつもどおり駅前で雫と待ち合わせ。


「お待たせしました」

「ううん。私も今ついたとこ」

「なんだかデートのような文句ですね」


 心なし嬉しそうにしてから、心愛の姿が無いことに気付く。


「あら? 心愛さんは?」

「補修。数学の小テストが酷かったんだって」

「あの人国語と英語以外は壊滅的ですからね」

「先に帰っててって言われたんだけど、どうしようか。どこか寄っていく?」


 とは言うもの、放課後のコースはほとんど決まっている。

 ショッピングモールの中をぶらつくか、何か食べて買えるか、その二択だ。

 駅前周辺という立地がそれだけ豊富な店舗を揃えているという風に言い換えられもするが。


「そうですね」


 パッと目についたのは、移動型のクレープ店だった。

 ピンク色で可愛らしくカラーリングされた車から、甘い匂いが立ち昇っている。

 隣を見ればアリスが目を奪われていて、雫は小さく笑った。


「なんだかクレープが食べたくなってしまいました。アリスさん、お付き合い願えますか?」

「うんっ!」


 アリスは雫の手を握って駆け出した。

 たくさんあるメニューの中から、アリスはイチゴと生クリームたっぷりのものを、雫は宇治抹茶と大納言小豆がトッピングされたものをそれぞれ頼み、五分足らずで出来上がった商品を受け取った。


「おいしいねシズクちゃん」

「はい。とても美味です」


 近くのベンチに座りながら。


「こういうのもSNSにアップしたりした方がいいのかな?」

「ゲーム関連以外に反応があるかは謎ですけど」


 食べかけだけど一応撮っておこうとイチゴのクレープと抹茶のクレープを撮影。

 アリスに倣い、雫も同じような写真を撮った。


「すぐにアップしちゃうと身バレとかあるかもしれないし、家に帰ったら投稿するね」

「では、私もそのようにします。あ、ちょっとよろしいですか?」


 自分のクレープをアリスに持たせ、身体を寄せて肩を抱き、顔を近付ける。

 正面からと上からの二枚を撮影し、心愛宛に送信した。

 まだ補修中のはずにも関わらず、すぐに返信があった。


『可愛すぎてソッコー保存したけどおれの女感出すなクソが』


「心愛ちゃんから?」

「ええ。マジメに補修を受けているそうです」


 雫は優越感たっぷりに抹茶クレープにかぶりついた。







 尚、帰宅後に二人が写真をアップした件について。


『待って待って待って待って』

『思考が追いつこうとせん』

『思考が家出した』

『これアリスちゃんとシズクちゃん一緒にいた感じ?え?二人って実在してるの?』

『これデートでは?え?ヤダ嬉しい』

『生まれ変わったらクレープ屋さんになる』

『あーんとかしたの?!したの?!ねえ?!』

『アリシズ過剰摂取患者ワイ』

『これ公認カップリングってことでよろしいか?』

『あーもうありがとうございます!!』

『いっぱいちゅきばぶぅ』


 アリシズデート、反応したオタクたちの拡散によりトレンド入り。






 ――――――――






「ぶっすーーーー」


 夜。

 ココアは苛立ちと不満を全面に、頬杖をついて唇を尖らせた。


「いーなー。クレープ食べてー。あたしもデートしたかったなー」

「ご、ゴメンってココアちゃん。まさかクレープでこんなに盛り上がるなんて思わなくて。今度一緒に行こうね」

「いいんですよアリスさん。補修だったココアさんがいけないのですから」


 もちろんなだめているわけではなく煽っている。

 そして優越感に浸っている。


「おいしかったですね、あそこのクレープ。抹茶も美味でしたが、アリスさんにあーんしてもらったイチゴのクレープもまた絶品で」


 ブチッ


「おーいマジ一回デートしてバズったくらいで調子乗んな清楚系ビッチ。こっちは学校でスヤスヤ居眠りするとこ見たり体育の後に抱きついたりしてイチャイチャしてんだよ」

「あら、公認じゃない方のカップリングさん。何か言いました?」

「おっけーPvPね。雑に三枚に卸してやんよ!」

「ケンカはダメだよ二人とも。めっ」


 ココアは舌打ちして、シズクは余裕たっぷりに、それぞれ着席した。


「盛り上がってくれるのは嬉しいんだけど。私たちが注目されてるってことだから。でも、やっぱりゲームのことで盛り上がってほしいよね。Project Stormから発表はされたし、一応ちゃんと公認扱いなんだけど。それとはべつに私たちも何かしたいなーって思ってるんだけどどうかな?」


 アリスは漠然と、自分が思っていたことを二人に伝えた。


「何かって、ウチら主催のイベントみたいなの?」

「有名な配信者さんなど、よくやられていますね。賞金だったり賞品だったりを出して」

「それってどのくらい?」

「ピンキリですよ。賞金は個人で開催する分には、一万円であったり五万円であったり。賞品ですと、最新のゲーム機や新型の携帯端末、ワイヤレスイヤホンなどでしょうか」


 うう、と額の大きさに尻込みする。

 一高校生の財布事情では難しい話だ。

 とはいえこれでプロ契約をしている身。

 一介の高校生事情の枠組みに収まりはしないが。


「いっそ配信でも初めてみる? ていうか、お給料もらうからには、そういうことも視野に入れなきゃじゃない?」

「私やアリスさんが不特定多数に向けて喋れると本気で思っているんですか?」

「どストレートに陰キャ自慢すんなよ。二人が嫌ならあたしだけでもいいけど」

「アハハ……でも、私たちにしか出来ないことって、何かないかな」


 三人は腕を組んだが、早々良案には恵まれない。

 一番早く飽きて開口したのはココアだった。


「考えもまとまんないし、久しぶりにギルドバトルしに行こーぜ。どっかおもしろそうなところからバトルの申し込み来てないの?」

「申し込みが多すぎて全部はチェック出来ていないんです。たまには広場の方に出向いて、野良試合というのも趣があっていいと思うのですが」

「それはアリ」

「じゃあ行ってみよっか」






 人が賑わい活気めく広場。

 【不思議の国のアリス】の登場は人々のざわめきを齎した。


「やっぱ周りでヒソヒソされんのうざー」

「注目される内が華です。ひっそりとやりたいときは、志郎さんに用意していただいたサブアカウントでプレイすればいいんですし」

「私まだキャラメイクしてないや」

「ウチやったー」

「私もです」

「そうなの?」

「うん。全然違う感じにした」

「たまには銃以外も使いませんと」


 和気あいあいと話しながら、対戦相手を物色する。

 しばらくは遠巻きに様子を窺っていた人々だが、彼女たちがギルドバトル目的にやって来たことを察するなり、我先に申し出んとする者たち同士の牽制が始まった。

 無敗のギルドとして人気を博す彼女たちだが、他プレイヤーが抱いているのは畏敬や憧憬という部分よりも、新参者の鼻っ柱を折ってやろうという敵対心の方が大多数。

 最初に土を付けるのは自分だという輩で蠢いているこの場所は、ある意味で飢えた獣が闊歩する狩り場である。


「よぉ、【不思議の国のアリス】」


 少女たちに近付いたのは十人の男性。

 短い金髪が眩しい、ファーのついたマントを羽織った男性が話しかける。


「おっと、すまねぇ。まずは自己紹介からだよな。おれはレオン。【十天】ってギルドのもんなんだけど。よかったらおれらとバトルしてくんねえか? そこそこ強いって評判なんだが。退屈はさせねえと思うぜ」


 レオンと名乗った男は、自信に満ちた風に高い背でアリスたちを見下ろした。

 【十天】……数々の大会で入賞の実績を持つ、国内プレイヤーならば一度は名前を聞いたことがあるであろう有名なギルドだ。

 そのリーダーのレオンは、屈指の大剣使いとして名を馳せている。

 STR特化特有のフィジカルと、魔法の中でも膂力に特化した【土魔法】により破壊力を増した攻撃で多くの猛者を屠ってきた実力者だ。


「なあ、いいだろ?」


 三人は申し出を快諾し、専用フィールドへと転移した。

 3vs10のデスマッチ。

 男たちは容赦なく自慢の力を少女たちに向ける。

 尤も、善戦したのは男たちの方だという結果に終わったが。


「待て待て待て待て!! なんだこいつ全然死なねえ!!」

「ウケる。死ぬってちゃんと。死ぬまで殺せば」


 ココアが笑いながら男の首を刎ね飛ばす一方で、


「おいあいつ何メートルはなれてると思ってんだ!! なんでこの距離でめちゃくちゃ正確に当てられんだよ!! 特殊部隊にでも在席してn」


 シズクは男の顔面を撃ち抜き、


「あと一人」


 小さく呼吸して戦果を誇った。


「ハハ、強えわ…」


 リーダー、レオンは身体中をボロボロにしながら、眼前で剣を構える少女に苦笑いする。

 どんなスキルを、どんな技を、どんな魔法を繰り出しても何一つ当たらない異次元的な経験。

 レッドゾーンに突入したHPバーと、剣を掲げ黒いオーラを昇らせる様に観念して充実を表し吠えた。


「これだから強え奴とやんのはたまらねえよな。オラ、来やがれ!!」


 闇が巨大な刃を形取りレオンを断った。







「いやぁ、まいった。完敗だぜ」


 バトル終了後、レオンは底抜けに明るく後頭部を掻きながら笑った。


「映像は何度か観たけどよ、実際にバトルすると強さが際立つっつーか。負けて気持ちよくなったのは初めてだ」

「ありがとうございました。レオンさんたちも、すごく強かったです」

「久しぶりに楽しかったよー」

「いいバトルでした」

「ッハハ、勝った奴に何言われても皮肉にしか聞こえねーよ。楽しかったよ、またやろうぜ。次は負けねーからな」


 レオンはメンバーを引き連れ、爽やかに去って行った。

 アリスたちも満足気。ギルドホームへと戻っていく。

 その場に残った人々は。


「【十天】が負けたか」

「フッ、しかし奴らは我々の中でも最弱」 

「いやおれらよりバチボコに強いわ。いつもイベント上位に食い込んでる奴らだぞ」

「【セイレーンの瞳】んときもそうだったけど、【十天】まで完封されたのはヤバい」

「他のギルドもバトルに名乗りを上げそうだな。プロチームとやり合うのも見てえよ」


 そこかしこで【不思議の国のアリス】の攻略に考察の話題が持ち上がっている。

 ああすれば勝てる、こうすれば勝てそうと。

 そんな中、一際彼女たちに敵愾心を抱くギルドが一つ。


「キャハハ、キモっ。調子乗りすぎ」

「好きなだけ騒がせといてあげたらいいやん。どうせあいつらの人気もすぐに落ちるんやから。ねえ、ノエル」

「【不思議の国のアリス】……」


 手の中のリンゴを数度宙に放り、ニヤリと口角を上げて握り潰す。


「いいじゃない。喰い殺し甲斐がありそうで」

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