14.出会いの予感
約束の日。
連絡を受けたシロウサギこと山風志郎は、三人の答えを予想していたとばかり、流れるように会話を紡いだ。
そこからの行動は驚くほど早く、翌日には親を交えて本格的な契約をすることになった。
心愛と雫から契約完了の報告を受け、アリスは家で緊張しながら到着を待つ。
部屋の中を行ったり来たり。散らかした本を手に取ったり、ベッドに手をついたり。落ち着かない時間が過ぎた。
「来た!」
呼び鈴が鳴ると背筋をビクつかせ、慌てて玄関に出迎える。
外には背の高い端正な顔立ちの男性と、その後ろには秘書らしき女性が立っていた。
「シロ……じゃない。山風さん、ですか?」
「ああ。はじめまして、にしておこう。山風志郎だ」
「伏木、アリスです」
邂逅。軽く挨拶と握手を交わし中へ。
アリスを挟んで両親が座り、テーブルを向こうには志郎と秘書の橘瑞希が座っている。
「Project Storm代表取締役、山風志郎です。本日はお忙しい中、席を設けていただきありがとうございます」
名刺と身分証を提示し、Project Stormの名を騙る詐欺でないことを確認させた後、話を始めた。
アリスは志郎に落ち着いた人だという印象を受けたが、シロウサギのキャラのことを思うと、素では無いんだろうなと少し吹き出しそうになった。
「お嬢さんから予め話を窺っているとおり、我々は伏木アリスさんをProject Stormに迎え入れたいと思っています」
志郎は契約書をテーブルに広げながら、ゲーム内で伝えたことを、よりわかりやすく丁寧に、補足を加えて三人に説明した。
更にゲーム内でのアリスたちの活躍を耳にしたら、
「さすがアリスちゃん!」
「可愛いぞアリスちゃん!」
このべた褒め具合。
これでもかと撫で回してから、二人は何事も無かったかのように話を戻した。
「本当に良いお話なんですね。最初は詐欺かと思いましたが。いいえ、正直なところ今も半信半疑です」
「無理もありません。ですが、ゲームに関しては誰よりも正直なつもりです。契約の内容は以上になりますが、何か質問はありますか」
「そうですね。たとえばテスト期間中にお仕事を依頼したり、あまり夜遅くまでゲームをさせる、ということはあったりするんでしょうか」
「学業を怠らせる、私生活を侵害するなど、そうしてまでゲームを強要することはまずありません。テスト期間もそうですが、学校の催し物などの際は、そちらを優先してください。プレイ時間に関してですが、特にこちらから指定はしません。イベント期間中など、こちらから仕事を依頼することはありますが、基本的にはゲームを楽しんでもらうというスタンスを守ります。我々も目を光らせますが、どうか体調や健康などの自己管理は徹底していただくようお願いします」
「なるほど、わかりました」
「僕からも少し」
はい、と志郎。
「退職、契約の打ち切りを希望した際の違約金、賠償金は発生しないということですが、それ以外に長期間に渡りゲームが出来なくなった場合はどうなりますか。たとえば怪我や病気など」
「これはあくまで極論になりますが、当方が運営しているNEVER END ONLINEは、体感型のゲームの一つです。たとえ右手を骨折していても、ゲーム内では脳波と電気信号により右手を動かすことが出来ます。そのため、プレイヤーの意思がある限り、生命活動が続く限りはゲームのプレイが可能となります。ですが、お身体に障ることも確かですので、万が一が起きた際は十分な安静を取っていただくことをお勧めします」
また、そういった場合の受診費や治療費も会社が負担すると言う。
「今どき珍しいホワイトな企業だ」
「当然の待遇です。ワントップ体制では、組織はいずれ瓦解します。社員を信頼し思いやり声を聴いてこそ、会社は成り立つと私は考えています。そしてお嬢さんは、我が社にとってかけがえのない人材となるでしょう」
椅子から立ち上がり頭を下げる。
「どうか、アリスさんのお力を貸してはいただけないでしょうか」
両親も立ち上がり、深々と礼をした。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
慌ててアリスも頭を下げた。
ここに契約は完了し、アリスは晴れてProject Stormの所属となった。
志郎たちを見送りに門のところまで。
「それじゃあ、改めてよろしくな」
「は、はい! よろしくお願いします山風さん! あ、あれ? 山風、社長?」
恐縮したアリスを志郎と瑞希は笑った。
「可愛いわねこの子」
「公的な場以外は態度を崩してくれていい。気の知れた奴らはそうする。社長と社員でなく、一人のゲーマーとして接してくれ」
「はい、わかりました。えっと、じゃあ……志郎さん?」
「ああ」
「私のことも瑞希でいいわ。よろしくねアリスちゃん」
「は、はい」
細く白い手を握って、キレイな人だなぁ、と感嘆の息を漏らす。
「近いうち幹部と顔合わせに社の方に来てもらうことになる。追って連絡するよ」
二人は車で去っていった。
車が見えなくなったのを確認してから、アリスはむず痒いような、照れくさいような、言葉に出来ない感情に襲われた。
「プロかぁ……」
言葉にすると余計に感情が追い付かない。
こんなときはゲームだと、部屋に戻ってすぐログインする。
どうやらそんな状態なのは自分だけではなかったようで、ココアとシズクの二人もログインしていた。
「おーつー」
「ごきげんよう。お話は終わりましたか」
「うん。ココアちゃんもシズクちゃんも、改めてよろしくね」
「プロかー実感なーい」
「これからの活動次第って感じだね。お祝いに何かしようか」
「たこパ? たこパする?」
「お腹減ってるの?」
「でしたら」
と、シズクが提案する。
見せたのはギルドバトルの申請だ。
未だフレンド申請、ギルドへの加入申請がある中、ギルドバトルの対戦申し込みの勢いも衰えない。
「派手に暴れませんか?」
上品に、けれど小悪魔めいて。
二人が断るはずはないという、確信を持った提案をした。
「っしゃ! 行くぜー!」
「おー!」
久しぶりのギルドバトルに燃える三人。
結果は瞬殺であった。
「【不思議の国のアリス】やべー」
「いやマジでどうなってんだあれ。何者?」
「3vs50だっただろ今のバトル。数の有利って何? 概念?」
「シズクちゃんってスナイパー……スナイパーかあれ? SR持ってゼロ距離ヘッショされたんだけど」
「ココアちゃんもすげーわ。攻撃しても死なねーの。やった、ってフラグ建てたら笑って鎌振ってくんだぜ。ホラーだよ」
「んでアリスちゃんだろ。うちのメンバーの半分以上倒してんだぞあの子。そんで攻撃が当たらねえ当たらねえ。剣も魔法も銃もすり抜けんだよ。ありゃチート疑われるわ」
「スキルの使い方上手すぎなんだよな。コツとか聞きてえなあ」
「スキルとかじゃなくてプレイヤースキルだったらどうするよ」
「そんなもんバケモンだろ」
「でも可愛いぞ」
「可愛いは正義だもんな」
「ならいいか化け物でも」
「バトル出来てよかったぁー」
そんな中、人混みの中で放蕩する者が一人。
「かっこいい……」
胸の前で手を組み、崇めるように。
彼女の者の名前を口にする。
「アリス様……」




