13.覚悟
数日が過ぎ、一週間が過ぎ、アリスは変わらず悩み続けた。
勉強しているときも、お風呂に浸かっているときも、頭の片隅に浮かび上がるプロの二文字。
別段断る理由があるわけではない。
ゲーム以外に頑張っている何かがあるわけでも。
ただゲームが好きなだけで、一番になりたいという理由だけで、プロという世界に足を踏み入れていいのかと。
踏ん切りをつけれずにいたのだ。
「いただきます」
「はいパパ、あーん」
「あーん。んー、今日もおいしいよママ」
夜、父と母と揃って食事。
仲睦まじい……睦まじすぎる光景を目にしながら、アリスは、ねえ、と話を始めた。
「あの……お父さん、お母さん。私が、プロゲーマーになりたいって言ったら、どうする?」
「プロゲーマー? あらぁ、いいじゃない。アリスちゃんはゲーム上手だもの。ねえパパ」
「うん。夢があっていい。パパも昔は憧れたなあ」
思った以上にすんなり賛成され、キョトンとしてしまう。
「ほ、本当にいいの? ちゃんとした仕事じゃないかもしれないんだよ?」
「昔ならとやかく言う人も多かっただろうけど、時代だからね。それにお金を稼ぐのならなんだってちゃんとした仕事さ。やってみたいことならやってみればいい。プロっていうのは大変な世界なんだろうけど、たとえそれで失敗しても、パパとママがカバーするさ」
「そうよ。いっぱい挑戦して、いっぱい失敗して、それでも楽しいと思えることをするのが、正しい選択よ。アリスちゃんがプロになりたいのなら、私たちは精一杯応援するわ」
「…………あのね、じつは」
アリスは前日あったこと、自分がProject Stormの代表に声を掛けられていることを両親に伝えた。
「まあ、すごいじゃない! そんな大きな会社からスカウトされるなんて! さすが私たちの子だわ!」
「自慢の娘だ! パパ嬉しい! んーまっ、んーまっ!」
横から抱きつかれて頬にキスされた。
「アリスちゃん有名になっちゃうわね。モテモテになっちゃったらどうしましょう」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだと?! 世界中の男が邪な目で見るの?! じゃあダメだ! パパ許さないぞ! ああでもアリスちゃんがやりたいことならなぁ」
「あの……」
「頑張って、アリスちゃん!」
「有名になってもパパとママのことは忘れないでねぇ!」
とにかく賛成してくれてはいるようで安心はしたものの、あまりに呆気なく了解を取れたことに肩透かしをくらい、依然として気持ちを固めきれなかった。
気晴らしにと、久しぶりにログインすることにした。
未だ【不思議の国のアリス】の話題で持ちきりなため、一人コッソリと高い山の上へ。
誰も居ないところで景色でも眺めようと足を運んだのだが、すでに先客が一人。
「!」
黒いコートをたなびかせ、勇ましくも流麗にモンスターを屠っていく女性。
狼の頭を蹴り砕き、虎の身体を一刀両断し光の粒子へと変える。
バトルを終えドロップアイテムを回収し終わったところで、その人物はアリスに気付いた。
「お、アリスじゃん。久しぶり」
「レイさん!」
黒いコートを靡かせ、黒の剣士レイはヒラヒラと手を振った。
「こんなとこで奇遇だね。もっと連絡誘してよ」
「アハハ。レイさんは素材集めですか?」
「暇つぶし。アリスは?」
「私は……」
なんとなく、この人になら相談出来るとアリスはそう思い、
「ちょっと、悩みというか。聴いてもらってもいいですか」
腰を下ろして話を始めた。
詳細は省き、自分たちがプロに勧誘されたことを。
どうするべきかを。
「ふーん、プロねえ。いいんじゃない? なれば?」
レイは驚くほど軽薄に言い切った。
「そんな簡単に」
「だってその人、アリスを見込んで頼んだわけでしょ。魅力を感じない人をプロに誘ったりしない。ならいいじゃん。なっちゃえなっちゃえ」
「でも、私は……」
「やりたくないわけじゃないんでしょ?」
「それは、まあ」
レイは腰の剣の柄に手を添えて訊ねた。
「アリスは、プロってなんだと思う?」
「プロ……」
「ゲームじゃなくても、野球でもサッカーでもいいや」
「人より上手くて、それでお金を稼げる人、ですか?」
違う、レイは即答する。
「他人がうんざりするくらい自分の好きなことを誇れて、人生の全てを賭けることを厭わない人。その世界で生きると決意した人。その覚悟がある人だけがプロを名乗っていい。プロの世界は、そんな本物がゴロゴロしてる。努力と才能を高い次元まで昇華させた、化け物みたいな人たちが」
「人生を賭ける……」
「夢のため、友だちのため、それも立派だけど所詮は建前だよ。自分が最強であることを証明するっていう純粋な自尊。逆にそれを口に出来ない人は、プロを名乗る資格なんて無い。やりたいからやる。自分を奮い立たせるのに、それ以上の理由が無いのと同じでね」
言われて、心が奮えたのがわかった。
「そっか……」
それでもいいんだと。
肩に伸し掛かっていたものが消え、身体が軽くなったのがわかった。
胸の奥が熱くなって、たまらず立ち上がった。
「ありがとうございますレイさん! 私、行ってきます!」
火がついたように目をキラキラさせて、アリスはすぐにログアウトした。
残されたレイは、
「プロね……」
アリスと同じく、心を奮わせた。
「おもしろすぎでしょ、志郎のやつ」
ログアウトしてすぐ、アリスは二人に電話をかけ、今から会えないかと持ちかけた。
時刻は夜の九時を過ぎた頃。
飛び出すように家を出て、待ち合わせに指定した駅前の公園を目指す。
到着後すぐ、心愛と雫はやって来た。
汗だくになって息を切らすアリスに、二人は惑いながら近付いた。
「アリスさん?」
「どしたこんな時間に」
「はぁ、はぁ……」
息を整え、膝から手を離して心愛と雫に思いの丈をぶつける。
「私……なるよ。なりたい。プロに。みんなで。二人と一緒に」
聴いて、表情を明るくするのと同じく、無理に付き合わせているのではないかという不安にも駆られる。
しかし、アリスは決意していた。
「二人みたいに人生を賭けてるわけじゃないし、まだ漠然としてる。一番強くなりたいとか、そんなことしか考えてないけど…で……も、好きだから! 二人といるのも、ゲームするのも! プロになったら、もっと広い世界を見られる気がする! だから!」
握った拳を前に出す。
「心愛ちゃん! 雫ちゃん! 私と一緒に、世界の果てを見に行ってください!」
炎のように熱く。
力強く。
「……ニシシ、出逢ったときとおんなじだ」
「ひたむきなその眼に惹かれたんですよね。私たちに手を伸ばしてくれた優しく、強い姿。だから私たちはアリスさんが好きなんです」
二人は顔を見合わせて頷き、拳を合わせる。
「ここはゴールじゃなく道すがら。降って湧いたただの幸運に甘んじるだけです。それでも」
「あたしらは止まんない。最初からずっと、目指してるのは一つだけだし」
「行きましょう、アリスさん」
「行こうぜ、アリス」
「うんっ! 世界の果てを目指して! We are!!」
「「「Alice in WonderLand!!!」」」
この日、このときの決意が、彼女たちを運命を決めた。
そして、覚悟と意思を持つ者だけが越えられる境界線。
プロの世界へと足を踏み入れた。
名前:アリス
Lv:20
職業:剣士
称号:【死霊の主:MP+50 INT+30】
HP:200/200
MP:200/200
STR:30
VIT:10
AGI:120
DEX:20
INT:15
LUK:5
装備
【死と祝福の剣:片手剣/ロングソード:MP+40 STR+20:【デッドリーイノセンス】【形状変化】】
【屍龍の外套:胴体:VIT+10:【瘴気耐性】】
【屍龍の手袋:両手:DEX+10:【奇襲】】
【屍龍のブーツ:両足:AGI+10:【隠密】】
スキル
【二刀流】【鑑定】【毒耐性】【麻痺耐性】【整息】【魔法剣】
ユニークスキル
【纏魔】
アドミニストレートスキル
【大賢者】
名前:ココア
Lv:23
職業:戦士
称号:【大物食い:STR+60】
HP:230/230
MP:230/230
STR:90
VIT:70
AGI:30
DEX:10
INT:25
LUK:5
装備
【デスサイズ:斧/大鎌:STR+50:【腐蝕】】
【屍龍の外套:胴体:VIT+10:【瘴気耐性】】
【屍龍の手袋:両手:DEX+10:【奇襲】】
【屍龍のブーツ:両足:AGI+10:【隠密】】
スキル
【斧術】【格闘術】【鑑定】【毒耐性】【麻痺耐性】【軽業】【底力】【破邪】【誠心】
ユニークスキル
【超速再生】
名前:シズク
Lv:23
職業:狙撃手
称号:【魔弾の射手:STR+20 DEX+20 INT+20】
HP:230/230
MP:230/230
STR:70
VIT:40
AGI:10
DEX:35
INT:70
LUK:5
装備
【サクリファイス:銃/スナイパーライフル:STR+50:【劇毒】】
【屍龍の外套:胴体:VIT+10:【瘴気耐性】】
【屍龍の手袋:両手:DEX+10:【奇襲】】
【屍龍のブーツ:両足:AGI+10:【隠密】】
スキル
【射撃術】【格闘術】【鑑定】【毒耐性】【麻痺耐性】【魔弾】【調合術】【爆弾魔】【鷹の目】
ユニークスキル
【武器庫】




